英国「Auto Express」によるトヨタ・ヤリスの試乗レポートを日本語で紹介します。


Yaris

トヨタ・ヤリスは地味すぎて検討対象にならないと考えている人も多いだろう。ヴォクスホール・コルサやフォード・フィエスタほど安いわけでもないし、フォルクスワーゲン・ポロほど先進的なわけでもなく、見た目はプジョー 208やルノー・クリオと同じくらい退屈だ。

それでも、ヤリスはヨーロッパで5番目に売れているBセグメント車であり、また欧州市場におけるトヨタの販売台数の4分の1近くを占めているため、トヨタにとっては非常に重要な車だ。なので新型ヤリスにかかる期待は大きい。

新型ヤリスにはハイブリッドが設定されるため、多くの人が検討することだろう。1.5Lガソリンエンジンを搭載するマニュアル車の追加も予定されている(イギリスには1.0L車も追加されるかもしれない)のだが、売り上げのほとんどは電動化モデルになるだろう。

ご存知の通り、旧型ヤリスにもハイブリッドモデルはあったのだが、新型ヤリスは新設計プラットフォームと新鮮なエクステリアを身につけ、パワートレインもトヨタ最新仕様で、クラスの新水準となる安全装備も備えている。

まずはプラットフォームについて説明しよう。新型ヤリスにはC-HRやカローラと共通のトヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)が採用される。ヤリスに採用されるのはGA-Bと呼ばれる小型版のプラットフォームだ。

TNGAは3代目ヤリスに採用されていたBプラットフォームと比較して大幅に剛性が向上している。捩り剛性は37%向上しており、ハンドリング性能も向上し、騒音も抑えられている。

フロントにはマクファーソンストラット式サスペンションが採用され、シャシを介した騒音や振動を抑えるように設計されている。リアはトーションビーム式で、従来型よりも剛性が80%向上した結果、操作性を犠牲にせずに快適性を高めることができたそうだ。

最近の流れに反し、新型ヤリスは従来型よりも小型化している。全長は4mを切って3,940mmとなったのだが、室内空間を確保するためにホイールベースは従来型よりも50mm伸びて2,560mmとなっている。全幅は拡大し、全高は低くなっているため、見た目はよりスポーティーになっている。ただ、後輪周囲の派手なプレスラインも含め、外観の好き嫌いは分かれそうだ。

rear

新型ヤリスに搭載されるのはトヨタ最新設計のハイブリッドシステムだ。エンジンは自然吸気の3気筒で、20年以上にわたるトヨタのハイブリッド技術の集大成ともいえるPCUによって制御される。このPCUは毎秒1万回以上もモーターとエンジンの調整を行うことができる。

バッテリーはニッケル水素電池からリチウムイオン電池に変わり、モーターはより強力に、回生ブレーキはより効率的になっている。モーター性能の向上が新型ヤリスの鍵で、このおかげでいわゆるラバーバンドフィールが抑えられている。

カタログスペックを見るとかなり魅力的に思える。システム出力は116PSで、0-100km/h加速は10.3秒を記録する。カタログ燃費は充電不要なハイブリッドカーとしてはとんでもなく優秀だ。

ヤリスハイブリッドのCO2排出量は厳しいWLTP基準でもわずか86g/kmで(NEDC基準では64g/km)、燃費性能は37.2km/Lを記録している。トヨタによると、街中での走行ではリチウムイオンバッテリーの採用によって全走行の5分の4を一切ガソリンを消費せずにモーターのみで走行できるそうだ。

実際に乗ってみると、印象的なのはパワートレインではなくシャシだ。他のTNGA採用車同様、ヤリスも基本構造が優れている。ロールは抑えられているし、トーションビーム式サスペンションのせいで横方向の振動(道路脇の排水溝など)には少し弱いのだが、大きな問題ではない。全体的に快適性と安定性のバランスは優れている。

ステアフィールが乏しい点は予想通りだったのだが、それでもステアリングはクイックで応答性が高く、特に街中では扱いやすい。トヨタによると最小回転半径はクラス最小レベルらしく、実際、狭い道でもすいすいと走ることができた。

街中での扱いやすさにはパワートレインも貢献している。3代目ヤリスのハイブリッドと比べると、かなりの進化が実感できる。モーター性能が向上したおかげでエンジンの介入が少なくなり、エンジンを使わずとも流れにしっかりとついていくことができる。

トヨタの主張通り80%モーターのみで走行できると言ったら嘘になるのだが、少なくともこのハイブリッドシステムは扱いやすく、少し運転しただけで慣れるので、簡単にパフォーマンスと経済性を両立した運転ができる。

interior

アクセルを踏み込めば最大限の加速をしようとエンジンからうなり声が聞こえてくるのだが、基本的にCVTのネガは少なく、エンジンとモーターの移行もかなり滑らかだ。ハイブリッドが不得意な高速道路においても、ヤリスの場合は110km/hまでモーターのみでの走行が可能だ。

ただ、速度域の高いワインディングロードではハイブリッドシステムの限界が見える。いくらシステムが優秀でも、エンジン使用時にはマニュアルトランスミッションが恋しくなる。しかしそもそも、そのような運転はヤリスでは想定されていない。ターンイン性能は高く、コーナーでもフラットなのだが、CVTのせいでワインディングを楽しむことはできない。

シャシ性能が高いだけにこの点は残念なのだが、街中でも高速道路でも実力は高いし、エンジンが始動しても音はしっかり抑えられている。ハイブリッドシステムはヤリスの強みだ。

ヤリスの弱点は室内空間にある。フロントは大人2人に十分な空間があるのだが、リアシートは成人には窮屈で、特に新型ルノー・クリオと比べると狭い。荷室も同様で、281Lという数字自体はそれほど悪くないのだが、ルノーの391Lという数字と比較するとどうしても見劣りしてしまう。

トヨタもついにApple CarPlayとAndroid Autoに対応したため、ナビの出来の悪さもそれほど気にならなくなった。スマートフォン連携によってトヨタの使いづらくて古臭いインターフェイスに頼らずに済む。試乗車に装備されていたヘッドアップディスプレイは使いやすく、視線移動を最小限にして情報をはっきりと見ることができる。

ダッシュボードのデザインは依然として平凡だし、フォルクスワーゲン・ポロやセアト・イビーサとは違い、メーターは全面液晶になっていない。新型ヤリスの質感は十分に高いのだが、競合車と比べると見劣りする部分もあるだろう。

新型ヤリスには全車にトヨタセーフティセンスの最新仕様が装備される。そのため、最も安いグレードにもアダプティブクルーズコントロール(高速道路から街中まで対応)やレーントレーシングアシストが付いている。右左折先の道路を横断する歩行者を感知して自動ブレーキをかける機能も追加されている。

ヤリスは必要な装備がしっかり揃っている。新型ヤリスも従来型同様、車好きよりは一般人に向けた設計となっている。そういう意味ではヤリスの商品力は高いし、いかにもトヨタらしい車だ。