Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、ランドローバー・ディスカバリースポーツの試乗レポートです。
Googleの検索結果に出てくる怪しいサイトによると、ボリビアの道は世界最悪だそうだ。私もボリビアで運転したことがあるのだが、実際酷かった。まるですごろくでもしているかのような気分だった。少しでも操作を誤れば、そのまま大爆発して天高く飛ばされ、振り出しに戻ってしまいそうだ。
そのウェブサイトではアラスカ・ハイウェイも酷評されていた。私はそこも走ったことがある。アラスカ・ハイウェイは舗装が悪くて凸凹だらけだし、道沿いにあるガソリンスタンドでは蚊が異常発生しているため、とてもじゃないが給油などできない。しかも厄介なことに、そこにいる蚊はF-15ばりに俊敏だ。
そのサイトには掲載されていなかったのだが、ヴィクトリア湖東側に沿って走る道も同じくらい酷い。基本的に舗装は良いし交通量も少ないのでスピードを出したくなるのだが、たまに大きな窪みがあるのでタイヤがバーストしてホイールまで破損してしまう。困ったことにタンザニアではレッカーなど呼べない。
本当の世界最悪の道もそのサイトには載っていなかった。マダガスカルの国道5号線だ。そもそもこれは道路などではない。フランス人によって作られたばかりの頃は道路だったのだが、今や干上がった川底にしか見えない。バランスボールくらいの大きさの厳つい玄武岩があちこちに転がっている。外に出ればそのまま溺れてしまうくらい泥が深く、道幅が狭いので対向車とすれ違うことすらできない・
そこを通行する際には人を雇って先に走らせ、対向車が来ないか見張らせている。車を運転している人からすれば、7~8km/hで走ることのできる人間のほうがよっぽど羨ましい。本格仕様のピックアップトラックでもそんな速度は出せない。私は先月にその道を走ったのだが、平均車速は0.3km/hだった。
もっとも、そのとき私が運転していたのはピックアップトラックではなかった。私が何を運転したのかは今度公開されるグランド・ツアーの新エピソードで明かされる。ちなみに、ジェームズ・メイは驚きのレーシングカーに乗っていた。
イギリスのあちこちを闊歩しているSUVの話に移ろう。こういった車は雪が降った場合、普通の乗用車より有用なのだろうが、イギリスでは雪が降った場合、いやそれどころか、雨が降ろうが風が吹こうが、車に乗らず自宅に留まるよう警告される。つまり、SUVに活躍の場所など存在しない。
先日、ネットで(正真正銘の)レンジローバーがちょっとした浅瀬を渡ろうとする動画を見た。水はタイヤの一番上付近までしか到達していなかったのだが、ドライバーは川を渡るのを諦め、迂回していた。そんなことをするくらいなら、フォード・マスタングを買ったほうがいいのではないだろうか。それか、ブーツを買ったほうがいいかもしれない。
先週、狩猟に出掛けた。狩猟場では誰もが4WD車に乗っていたのだが、皆ノーマルタイヤを使っていたため、どの車も滑りまくって壁やフェンスに特攻していた。濡れた草地をノーマルタイヤで走るのは、凍った湖を洗剤の靴で歩こうとするくらい無謀だ。
結局、4WDなど不要だ。そもそも4WDが必要になる機会などほとんどないし、4WDが必要な状況が来ても、我々は4WDを活かせるだけの技術もタイヤも持っていない。
ランドローバーの超複雑なラインアップに新たに追加された新型ディスカバリースポーツは、かつてのフリーランダーの後継車であり、やはりこれも我々には必要のない車だ。
そもそも新型といっても別にフルモデルチェンジしたわけではない。数年前にディスカバリースポーツが登場したとき、ランドローバーは優秀な新エンジンが後々追加予定であると発表した。そして宣言通り登場したエンジンは実際かなり優秀で、待ちきれずに初期モデルを購入した人は大いに後悔していることだろう。
試乗車に搭載されていたディーゼルエンジンはかなり滑らかだった。ただし、決してパワフルではない。しかも、トランスミッションは優柔不断だし、EUの役人に迎合した排気システムが搭載されているので、スピードを出すことをまったく楽しめない。
舗装路ではスピードを出せないし、オフロードに出ても普通のロードタイヤを履いているので走りは不器用だし、価格は5万ポンド近くもするのだが、それでもこれは非常に良い車だ。
ここ10年以上の間、7人乗りの学校送迎用車に最適な車はボルボ XC90以外には存在しないとずっと言ってきた。しかし、現行XC90は見た目こそ素晴らしいものの、あまりにも巨大になってしまった。
そこで登場したのがディスカバリースポーツだ。これも7人乗りなのだが、ボディサイズはまったく大きくない。しかも、パッケージングは非常に巧みで、リアサスペンションの設計を変更し、スライドシートを装備したため、大人5人と子供2人が問題なく座ることができる。
車内の居心地も良好だ。エンジンとトランスミッションの特性のおかげでまったく飛ばそうと思えないのもその理由なのだが、そもそも快適性が非常に高い。ときに路面の衝撃を拾いがちなレンジローバーよりも格段に快適だ。まるでムースのような乗り心地だ。
ナビの操作系はアウディやBMWのほうが使いやすいのだが、アウディやBMWにはランドローバーのようなオフロード装備は付いていない。確かにタイヤはボトルネックになってしまうのだが、ドライ路面であればQ5やX3よりもさらに奥へと進むことができる。
ディスカバリースポーツには不思議なルームミラーも付いている。ミラー部分は液晶画面になっており、ルーフに装着されたカメラの映像を映し出すことができる。この装備をショールームで見たら、感激して契約書にサインしたくなるのだが、現実世界ではただ見づらいだけなので、ボタンを押して画面を消し、普通のミラーとして使ったほうがいい。後席に何をしでかすか分からない子供を乗せているときはなおさらだ。
私はディスカバリースポーツが気に入った。見た目も好きだ。快適性の高さや実用性の高さは評価している。ただし、車に快適性や実用性を求めるような人は、政府からの警告を素直に聞くので、天候が悪化したときに車を運転することなどないだろう。
それでも、もし必要に駆られたとしたら、私はディスカバリースポーツを選びたいと思う。法外な値段を支払うのもやぶさかではない。
The Clarkson Review: Land Rover Discovery Sport
これで大きくないは無理ある
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