Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、アウディ Q5 55 TFSI e quattroの試乗レポートです。


Q5

先日、農場で狩猟を行った。狩猟は昔ながらのイベントで、子供たちは駆け回り、若者たちは飲みまくり、父親たちは子供が焼いた鶏を自慢する。

しかし、今の狩猟には現代的な要素もある。私は歩くことが良いことだなんて思っていない。レンジローバーが発明された理由は、きっとより便利に狩猟をするためだ。ただ、狩猟をした日は地面がかなり濡れていたため、我々は無駄に歩き回らざるをえなかった。

けれど、狩猟に参加した都会の若者は泥道など歩きたがらなかった。なので、彼らは私の車の中で待機することになった。その間、大排気量ディーゼルエンジンは動き続け、暖房も全開の中、若者たちは敬愛するグレタ・トゥーンベリについて語り合い、地球を救うために肉を食べること、プラスチックを使うことをやめようと誓い合った。

私は彼らにどうしてエンジンをかけっぱなしにしていたのか問いただしたのだが、「寒かったから」という答えが返ってきた。ここに環境保護活動の本質が詰まっている。言うだけなら簡単だが、実行するのは難しい。

自転車が良い例だ。多くの人々が通勤に自転車を使っているのだが、雨が降るとBMWで通勤する。動物もそうだ。誰もが悲惨な死から動物たちを救いたいと思っているのだが、スズメバチを見れば躊躇なく殺虫剤を吹き掛ける。

25歳未満の人間はどこに行くにも水分補給用にペットボトルの水を持っていく。プラスチックを嫌悪しているはずの彼らも、どういうわけかミネラルウォーターだけは例外のようだ。若者たちは「水道水なんて絶対飲みたくない」と考えている。

私も同じだ。カメがチョコレートの包装紙のせいで窒息死する姿など見たくないし、最近の異常気象には不安感を抱かずにはいられない。なので、動物を殺して作った香水を使うつもりはないし、カワウソを踏まないように気をつけようとも思っている。けれど、石で尻を拭こうとは思わないし、バスで通勤しようとも思わない。なぜなら、正直言ってそこまでするほどの熱意がないからだ。

これがアウディ Q5の話に繋がる。Q5は地上高の高いSUVなので、川を渡ったり山を駆け抜けたりできる車だと思われている。そのため、どんな環境でも子供を守れると考えた母親たちが子供の送迎用にQ5を購入している。

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しかも、Q5は41,420ポンドから購入することができる。これは実用的な4WDのファミリーカーとしてはそれほど高くない。燃費性能も高いし、アウディなので信頼性も高い。個人的には好きになれないのだが、車オタクやスピード狂以外の一般人からすれば、求めている条件をすべて満たした理想的な車だ。

しかし、今は奇妙な時代なので、アウディはQ5に新モデルを追加した。私が試乗した新モデルはQ5 55 TFSI e quattro S Line Competitionという名前で、これはプラグインハイブリッドカーだ。そのため、2Lエンジンを発電機としてバッテリーを充電することができる。

この車には先進的な電子装備が多数存在する。この車はセンサーを使って4WDが必要かどうかを自動的に判断してくれる。ナビゲーションシステムの情報と前走車との車間距離情報をもとに、パワートレインを制御して最大の効率を実現してくれる。状況に応じて惰性走行すべきかどうかも勝手に制御してくれる。

このシステムはクルーズコントロール使用中にも作動するため、自動的に加減速が行われることもある。しかし、Q5の走りは三菱 アウトランダーPHEVとは違って違和感がないし、それでいて38.4km/Lという燃費を実現している。

プラグインハイブリッドでありながら走りは普通のQ5とほとんど変わらず、しかしホッキョクグマの死体の山を築くことはないし、大切な子供や祖父母の肺を汚すこともない。グレタの惑星に貢献し、夜も穏やかに眠ることができる。

しかも、いざというときには高い加速性能を見せてくれる。システム出力はなんと367PSで、0-100km/h加速はわずか5.3秒、最高速度は240km/hを記録する。モーターのみで135km/hまで加速することもできる。

とんでもない車のように思えるのだが、現実的に38.4km/Lというカタログ燃費を実現することはできない。これはあくまで理論的な数字だ。実際の燃費は標準のQ5よりかろうじて良い程度でしかない。それに、高速道路をモーターのみで走ろうとしてはいけない。そんなことをすれば1秒もしないうちにバッテリーが空になってしまう。

それどころか、どんな状況でもモーターのみで走らせることができなかった。サムスンのスマートフォンを渡されたiPhoneユーザーのごとくあちこちのボタンを押しまくってみたのだが、どこを押しても画面の表示が変わるばかりで、走りの変化はまったく感じ取れなかった。

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それに、この車は気まぐれだ。アクセルペダルから足を離すと、ブレーキを踏んだときのように急減速することもあれば、普通に惰性走行することもある。この車の挙動はまるで予測できない。

そして最大の問題点が価格だ。試乗車には少しだけオプションが付いており、価格は61,000ポンドだった。この車がただの学校送迎用車であることを考えれば、あまりにも高価だ。

私は数年前、テレビで電気自動車やハイブリッドカーを買うつもりはないと宣言した。このアウディに乗ってもその意見はまったく変わらない。1年間髪を洗わないような人間なら、普通のQ5よりごくわずかに環境に優しいことを喜ぶのかもしれない。けれど、どちらにしてもこの車はあまりに高価だし、扱いづらい。

気になる点は他にもある。単なる移動手段を作るために創業した自動車メーカーなどヨーロッパには存在しない。ウィリアム・ライオンズも、コーリン・チャップマンも、ハーバート・オースチンも、エンツォ・フェラーリも、アンドレ・シトロエンも、誰もが面白い車を、ワクワクするような車を作り出そうとしていた。音を、パワーを、ハンドリングを求めていた。

しかし、そんな時代は終わった。今は燃費や環境性能がすべてであり、自動車は白物家電に成り下がった。しかし、人が実際に環境に優しい行動をするのは、その活動によって不便が生じないときだけだ。残念ながら電気自動車やハイブリッドカーは不便な点がたくさんある。