Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、フォード・フォーカス アクティブ エステートの試乗レポートです。


Focus Active estate

私の息子は学校でたくさんのことを教わったのだが、人生で役に立つような知識はまったく身に付けていなかった。今月、息子が新しいマンションの鍵を受け取ったのだが、彼はそれだけで引っ越しが済んだと満足して、サッカーを見ながらソファでビールを飲んでくつろいでいた。

彼は固定資産税のことも駐車場契約のこともインターネット契約のことも忘れていた。しかし、どういうわけか家具だけについてはじっくり考えていた。おそらく母親に「家具はちゃんと考えたほうがいい」と言われていたからだろう。

私が新しいテーブルや椅子が欲しくなったら、1日中、なんなら2日間ずっとコンランショップの中を彷徨い続ける。あるいはアンティークフェアに行くこともある。それだけでなく、Pinterestやインテリア雑誌を眺めたりもする。しかし、息子は時間を無駄遣いするつもりはなかったようで、可能な限り早く家具を購入しようとしたようだ。

なので息子はIKEAに行って高速ショッピングを行い、引っ越し当日に必要なものすべてが届くように手配した。ただ困ったことに最初の荷物が届いたのは午前6時半だった。そんな時間に起きている22歳などこの世に存在しない。おかげで私が怒涛の電話に悩まされることになった。

夜になるとIKEAからまた別の荷物が届いた。バンから運び込まれた段ボールの数はあまりに多く、おかげで居間がインディ・ジョーンズの失われた方舟が収められた倉庫のような状態になってしまった。

IKEAの家具は私にとっては悪夢でしかない。世の中にはパソコンや蒸気機関車や芝刈り機の構造を直感的に理解できる人もいるのだろうが、私はそういう人間とは違う。私はプラグをコンセントに差し込むときでさえ、いまだに緊張感を覚える。

息子も私と同種の人間なので、とりあえずパブに逃げて酒を飲んですべてを忘れようとした。しかし、いくら逃げたところで家具は自分で組み立てなければならない。なので私と息子で家具を組み立てることにした。

私はソファの段ボールを開け、すべての部品とボルトとワッシャーを取り出したのだが、その量に圧倒されてしまった。普通の人間にとって、ボルトとワッシャーはボルトとワッシャーにしか見えないのだろうが、私からすれば赤いコードと青いコードだ。切るコードを間違えれば爆発して皆死んでしまう。

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なので、男としては失格かもしれないが、簡単な図が描かれた説明書を取り出した。この説明書は一般人にとっては分かりやすいのかもしれないが、私には潜水艦基地の建築図面にしか見えなかった。

それでも、超集中して読み解いた結果、なんとか概要を掴むことができた。部品と部品を結合させるためにはヨガのような体勢を取らなければならず、おかげで息も絶え絶えになってしまった。親指は捻挫し、他の指にも怪我をしてしまったのだが、なんとかわずか3時間で(ハンマーを使わずに)ソファを組み立てることに成功した。実際に立たせてみてもぐらついたりバラバラになったりすることもなかった。

私はこれまで、IKEAの家具を使ったことがなかった。店の前を通りがかったことはあるし、商品が安いという話を聞いたこともあった。しかしだからこそ、私はこれまで、IKEAの近くを通るたびに避けるようにしていた。しかし、実際にソファを組み立ててみて、完成品の強度を目の当たりにすると、IKEA以外の家具を買う意味が理解できなくなってしまった。

これがフォード・フォーカス アクティブ エステートの話に繋がる。こんなものを欲しがる人などいない。地上高の高いSUVが欲しい人はBMWのバッジを必要としている。フォード・フォーカスはワイパーの付いたIKEAだ。平凡で退屈だ。

もしその凡庸さが気にならなかったとしても、この車に搭載されているエンジンは1.5Lの3気筒だ。それを知ったらきっとこう思うだろう。
3気筒だって?そんなの、まともに走るわけがない。

しかし、この車はまともに走る。ちゃんと走る。エンジン自体は小さいのだが、最高出力は150PSを発揮する。それどころか、182PSの仕様すらも存在する。

しかも、特に加速が必要でない場面においては1気筒が休止して2気筒エンジンとして走らせることができる。おかげで燃料費を節約することができるし、グレタ・トゥーンベリがやって来ても不興を買うことはないだろう。

エンジンの完成度は高く、元気があるし、アクセルを踏み込めば小気味良いエンジン音を響かせる。私はこのエンジンがとても気に入った。それに、車自体もかなり気に入った。初代フォーカスはコストのかかるマルチリンク式のリアサスペンションを採用したおかげで独自の魅力があったのだが、その後のフォーカスでは初代のような上質さが失われていた。しかし、このフォーカスにはその上質さがある。アクティブ仕様は地上高が上がっているのだが、決して暴れ回るようなことはない。見事に落ち着き払っている。

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しかも、試乗したグレードには巨大なガラスルーフやキーレスエントリー、適度に寛容なパーキングセンサー、デュアルゾーンオートエアコン、リアプライバシーガラス、Apple CarPlay、車線逸脱警報、ドライブモードセレクター、そして衝突後自動ブレーキとやらがすべて標準で装備されていた。

個人的には衝突前自動ブレーキのほうが嬉しいのだが、衝突後自動ブレーキというのは事故後にドライバーが車を制御できなくなった場合に備えて勝手にブレーキを掛けてくれるシステムだそうだ。

もちろん、こういった装備はBMWやメルセデスにも付いているのだが、BMWやメルセデスは26,745ポンドでは購入できない。しかし、フォードは26,745ポンドで購入できる。なぜなら、フォードだからだ。

ブランドだけでなく、見た目も問題だ。試乗車に塗られていた特別塗装色のブルーは魅力的なのだが、それでも決して目を引くようなデザインではない。決して人に自慢できるような車ではない。

しかし、経済的な5人乗りの実用的なステーションワゴンが欲しいなら、これ以上の車など存在しないだろう。息子のマンションにあった段ボールすべてを載せることだってできた。

私に考えがある。フォーカスを組み立て式にして販売したらどうだろうか。そうすれば売値をさらに下げられるだろうし、私みたいに手先の器用な人なら週末に組み立てることができるだろう。それはきっと楽しいはずだ。