Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、BMW M8クーペ コンペティションの試乗レポートです。


M8

つい最近まで、公立学校の生徒はコーンウォールの港町で大人の何たるかを学び、ついでにクラミジアに感染していた。

そのため夏になるとニューキーは情緒不安定な若者たちで溢れていた。彼らはそこで酒に支配された北欧の大人たちの世界へと足を踏み入れた。

ただ、地元住民はこのような状況を歓迎していなかった。なので、新たに警察官が動員され、未成年飲酒やケバブ屋の取り締まりを開始した。キャンプ場を占領する子供は警察に住所を記録され、学校では海での安全な遊び方や飲酒の危険性について教えられるようになった。

エリート警察官、ニコラス・エンジェルの活躍により、この町の暗部が明らかとなった。ある資産家は景観を破壊する悪趣味な家を建てたことを理由に殺害され、ある新聞記者は綴りの間違いが多いことを理由に殺害された。いや、間違えた。これは映画『ホット・ファズ』の話だった。けれど、ニューキーの実情も似たようなものだ。

ソーシャルメディアの発達により、ニューキーは変化していった。警察官が取り締まりを強化しているという情報が広がると、若者たちはニューキーを避けるようになり、ニューキーから不良少年が排除された。

今のニューキーにあるのはヴィーガンカフェやヨガスタジオばかりだ。当然、町は良くなったと言えるだろう。しかし本当にそうだろうか。街中でヨガをする女性を見かけるような町に住むくらいなら、若者に家を爆破される恐怖に怯えながら暮らしたほうがまだましだ。

いずれにしてもニューキーはニコラス・エンジェルもといデイヴ・メレディスという警察官の活躍によって治安が大幅に改善された。私もその点については高く評価している。

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最近、近所の警察署が閉鎖してしまったため、地元の治安に不安を抱くようになった。警察がすぐに来れないので自衛するしかないとも思っていた。けれど、実際のところ町中をパトロールする警察官は増えたように感じる。

しかも、パトロールしている警官たちは地元のことをよく知っているため、取り締まるべき人と放っておいても大丈夫な人をしっかりわきまえている。ある日、無保険、無免許、無登録、定員超過の車を見かけた。しかしその運転手は誰かに害をなすような人間ではなかったため、警官たちは彼女の違法行為を見過ごした。

そんな合理的な警官たちのおかげで、私は自分の仕事を制約なく遂行することができた。今回の仕事はBMWの量産車史上最速のモデル、最高出力625PS、最大トルク76.5kgf·mのBMW M8コンペティションの試乗だ。私は自分の好きな速度でM8を運転することができた。具体的に言うと約10km/hだ。

M8は4WD車なのだが、一度もアクセルを床まで踏み込まなかった。道路は(私のトラクターのせいで)泥だらけだった。そんな道路で600馬力すべてを使い切ってしまえば、五体満足のままではいられないだろう。

なら、この車は何のために存在するのだろうか。正直に言ってしまうと、私には分からない。イギリス国外では通常のM8も購入できるのだが、どういうわけかイギリス市場では高性能版のM8コンペティションしか選択できない。

コンペティションはかなりハードコアなモデルだ。乗り心地は残虐だ。コーナリングも残虐だ。エンジンを完璧に固定するためにエンジンマウントまで強化されている。この効果はサーキットでは発揮されるだろう。しかし、12万ポンドもする2トン近いクーペを誰がサーキットで走らせるのだろうか。

不思議なことに、足回りが硬いにもかかわらず、どういうわけか常に重さを感じる。ブーツを履いたバレリーナを操縦しているような気分だ。ステアリングも気に入らない。そもそも私は最近のBMW Mのステアリングが苦手だ。それに、ドライブ・バイ・ワイヤのブレーキも気に入らない。人工的な感覚があり、どれだけ踏めばいいのかもいまいち分かりづらい。

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内装にも問題がある。リアシートにはリチャード・ハモンドのペットのネズミくらいしか乗れないのだが、あくまでクーペなのでこの点はそれほど気にならない。ただ、ダッシュボードが普通の3シリーズと何ら代わり映えしないのは大問題だ。価格帯の近いベントレー・コンチネンタルGTの車内はまるで宝石箱だ。

普段なら、このあたりで「しかし」と続けて、この車の魅力について語っている。しかし、今回は「しかし」の次に続く文章がまったく思いつかない。エクステリアデザインも微妙だ。リアエンドには無駄が多いし、ホイールとホイールアーチのバランスも悪い。

そもそも、M8コンペティションは普通の人には扱いきれない。パワーは過剰だし、重さも過剰だ。

M8コンペティションのような速さを求めるなら、最初から速く走るために設計された車を選ぶべきだ。ポルシェ 911でもいいし、マクラーレン GTでもいいし、アストンマーティン DB11でもいい。ただし、DBSスーパーレッジェーラは駄目だ。この車にはM8と同じ問題がある。もしこの3台よりも豪華絢爛な車が欲しいなら、ベントレー・コンチネンタルGTを選ぶべきだろう。

こんな結論に至ってしまったのは非常に残念だ。私は昔からBMWの大型クーペが好きだった。しかし、最新の8シリーズはそんな流れを断ち切ってしまった。それは以前に試乗した無意味なディーゼルモデルも同様だ。

次期型8シリーズの開発にはニコラス・エンジェルが必要だ。本来あるべき姿に戻すカリスマが必要だ。3万ポンド値下げして、見た目を3倍良くして、余計な装備は排除して、500kgほど軽量化して、エンジン性能も抑えるべきだ。

残念ながら、新型M8コンペティションは誰にも適さない車だ。