Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、フォード・レンジャー ラプターの試乗レポートです。
新型ランドローバー・ディフェンダーには驚いた。バンパーは鉄製で、カーペットはゴム製で、レバーで操作するディファレンシャルが付くと思っていた。昔のディフェンダー同様、乗員がかろうじて収まる室内空間しかないような、実直な軍人仕様の車になると思っていた。ところが、新型ディフェンダーは学校の送り迎えに使われるようなありふれたSUVの一種に成り下がってしまった。
ディフェンダーには数多くのラインアップが存在する。レザーがふんだんに使われるモデルもあるし、超速いモデルもある。しかし、どのモデルも「メルセデスのゲレンデヴァーゲンのような車が欲しいけれど、もう少しスロバキアらしさが欲しい」と思っている人のための車だ。そう、ディフェンダーはスロバキアで製造されている。
意味が分からない。ランドローバーはすでに優秀な4WD車を大量にラインアップしている。なのにどうしてまた別の車を生み出してしまったのだろうか。どうして道具としての、はたらく車としてのディフェンダーをなくしてしまったのだろうか。
ISISの戦闘員が愛用のピックアップトラックからマシンガンを外して新しいディフェンダーに装着する姿を想像できるだろうか。オーストラリアのウラン鉱山で働く労働者がトヨタの代わりにディフェンダーを購入するだろうか。もっと身近な例を挙げよう。イギリスの森林管理者や建設業者が本当に必要としている車が新型ディフェンダーだとでも言うのだろうか。
私は今、農場づくりに挑戦している。これまでにも6,000回くらい言ってきたことだが、農場で働いている人は、獣医も羊飼いもトラクターの運転手もその兄弟も水道管理業者も、誰もがピックアップトラックに乗っている。
ピックアップトラックが来たら、農場で働いている人が来たと判断できる。もしヴォクスホールがやって来たら、政府の人間が取り締まりをするために来たと判断できる。そしてレンジローバーが来た場合、どこかの母親が子供の送迎ついでにワインでも買いに来たと判断できる。
私はレンジローバーを所有している。しかも2台だ。それに、私は人生でピックアップトラックが欲しいと思ったことなどない。もちろん、税制上ピックアップが有利なことは知っている。歳入関税庁の区分ではバンとして扱われるため、エアコンとレザーシートとあらゆる贅沢装備が付いたメルセデスの5人乗りピックアップを年間税額わずか686ポンドで維持できる。これはフォード・フィエスタのおよそ半額だ。
しかし、いくら金銭的メリットがあったとしても、ピックアップトラックのリチャード・ハモンドっぽさには耐えられない。バジルトン在住にもかかわらず、家に南部旗を掲げ、ドナルド・トランプを崇拝しているようなものだ。それに、荷台に買い物袋を置いておけば、赤信号の間に誰かに盗まれてしまうだろう。
しかし、私が今回試乗予定だった車が事故で使えなくなってしまい、その代わりとしてフォードから私に届けられたのがレンジャー ラプターだった。これは全長約6m、全幅約2.3mのF-150 ラプターとはまったくの別物だ。F-150も面白い車なのだが、イギリスでまともに運転することはできない。
レンジャー ラプターはその小型版で、エンジンも小型化されている。F-150の巨体に収められたV8の代わりに、レンジャーには2LのEcoBlueエンジンが搭載されている。こんな名前なので到底興奮などしないし、ちょっとだけ運転して返してしまおうと思っていた。
しかし、その時期は6週間ほどずっと雨が降りっぱなしで、私のレンジローバー用のサマータイヤは使い物にならなかったので、農場への移動にはフォードを使うことにした。こちらにはカナダの冬にも耐えられる本物のオフロードタイヤが装着されていた。
走り始めるとすぐにスタックしてしまった。眼鏡を掛けていなかったので、前輪を駆動させるスイッチの場所が分からなかったからだ。スイッチで切り替える4WDなど、ダイハツ・フォートラック(日本名: ラガー)以来だ。
ラプターには設計上の問題点がいくつかある。チビのために装備されているステップのせいで、ズボンを汚さずに車内に入ろうとするとクラクションを鳴らしてしまう。それに、アームレストを使おうとすると窓が開いてしまう。いずれも相当に苛立たしい。
覗き防止のために荷台にはカバーが装備されていた。私はかなり背が高い方なのだが、地上高があまりに高いため、車外からこのカバーを閉めることができなかった。なので荷台に乗り込んで閉めなければならないのだが、私はこういった類の作業が嫌いだ。
なので私はフォードを車庫にしまい、もう二度と乗らないと心に誓った。ところが、彼女が馬用の干し草が足りないからオランダに行きたいと言いはじめた。当然、干し草を積むには巨大な荷室が必要になる。結局、再びフォードに乗ることになってしまった。
それ以外にも、私は羊用の柵を運ばなければならなかったし、羊を移動させなければならなかったし、農地の整備も行わなければならなかった。正直なことを言うと、このすべての作業においてピックアップトラックが必要不可欠だった。
もうフォードの試乗車は回収されてしまったのだが、今では寂しいとさえ思っている。ピックアップトラックなしでどうやって作業すればいいのだろうか。ナイフとフォークの便利さを知ったあとに箸を使わされているような気分だ。もちろん、箸でも食べやすいものはあるのだが、ライチや目玉焼きや骨付き肉を前にした場合は別だ。
しかも、レンジャーの走りは舗装路でもそこそこ良かった。特に乗り心地は良好で、必要な装備から特に必要でもない装備までしっかり揃っていた。ステアリングの最上部にはセンターを示す赤いストライプが入っており、ラリーをするときに役に立つ。もちろん、そんなものを活用する機会はなかった。このような虚構はあるものの、基本的にラプターは実直な仕事をする実直な人のための実直な車だ。
しかし、実際に仕事用の車を購入するなら、47,874ポンドという価格に尻込みしてしまうだろうし、やたらに高い地上高や無意味なステップも気になるだろう。あくまでこの車はケイト・ハンブルのふりをしたい都市住民のための車だ。
しかし、標準のレンジャーは2シーターを選べば22,914ポンドで購入できる。他にも、フォルクスワーゲン・アマロックも検討に値するし、イギリスで人気の三菱 L200もある。他にも、フィアットや日産、メルセデス、いすゞなどの選択肢が存在する。けれど、その選択肢の中にランドローバーは存在しない。ランドローバーは自分が生み出した市場を自ら捨ててしまった。頭がおかしいとしか思えない。
初代アウディTTクーペ1.8Tのレビュー記事があれば翻訳お願いします!
auto2014
が
しました