米国「Car and Driver」によるキャデラック CT5 350Tの試乗レポートを日本語で紹介します。


CT5

キャデラックはCTSの後継車としてCT5を発表した。基本設計はCTSから継承されており、車名変更はあくまでキャデラックのセダン戦略の方針転換によるものだ。従来、キャデラックは競合車と被らないボディサイズのセダンを2車種展開していたのだが、その方針が改められることとなった。

新型CT5は大幅な設計変更が行われているのだが、残念ながら2.0Lターボエンジンを搭載する「350T」の性能はさほど優れているわけではない。価格設定やボディサイズの面ではBMW 3シリーズよりも有利なのだが、従来のCTSやATSとは違い、ハンドリングやパフォーマンスの面での優位性はない。

ゼネラルモーターズのアルファプラットフォームは非常に優秀で、おかげでATSおよびCTSの走りも素晴らしかった。CTSがCT5に変化したのと同時に、ATSはCT4に変化し、こちらはBMW 2シリーズグランクーペやメルセデス・ベンツ Aクラスセダンに対抗していく。

リアシートの居住性を改善するため、CT5に採用されるアルファプラットフォームはホイールベースが36mm延長されている。おかげでリアシートのレッグルームは向上しており、オーバーハングが短縮されたことで全長はCTSよりも短くなっている。それでも、CT5のボディサイズは依然として3シリーズよりも5シリーズに近い。とはいえ、同等装備のBMW 330iとの車重差は19kgに抑えられている。

CTSと比べると、CT5の走りはハンドリングよりも快適性を重視したセッティングになっているようだ。その結果、CT5はサスペンションがソフトになり、走りは鈍くなってしまっている。ステアリングの重さは適度なのだが、初期の応答性は悪化している。基本構造の強さは変わっていないので路面からの衝撃には強いのだが、CTSと比べると操作性の悪化が気になってしまう。

良い点もある。ブレーキペダルフィールは安心感があって扱いやすいし、ストロークが短く、踏みはじめからしっかりと効いてくれる。ただ、快適志向のサスペンションや鈍いステアリングとの組み合わせだと、整合性がとれていない感じもある。

rear

CTSの走りを気に入っていた人はV6エンジンを搭載する「CT5-V」も気になっていることだろうが、こちらの試乗はまだできていない。今回試乗した「350T」はミシュラン PRIMACY ZPオールシーズンタイヤを履いており、サマータイヤはCT5-Vでしか選択できない。

スキッドパッドテストでは0.92Gを記録し、110-0km/h制動テストでは制動距離49.1mを記録した。いずれの数字も決して悪くはないのだが、競合車と比べると特別優れているわけでもない。

エンジンについてもそれほど褒められない。「350T」という名前はどういうわけか最大トルク(N·m)の数字に由来しているそうだ。CT5の4気筒ターボエンジンは従来のATSやCTSよりも性能が低下している。「350」なんて凄そうな数字を見せておきながら、最高出力は240PS、最大トルクは35.7kgf·m(350N·m)と大したことはない。従来のATSおよびCTSと比べると31PS/5.1kgf·m低下している。

当然、加速性能も悪化している。今回のテストでは0-100km/h加速6.6秒を記録したのだが、これはCTSと比べて1秒近く遅い。しかし、最大の問題点はスペックではなく掃除機のような吸気音だ。シボレー・マリブなら不快程度で済む音なのだが、5万ドルを超える高級車でこれは許容しがたい。

直線加速ではBMW 330iやアルファ ロメオ・ジュリア Tiに大きな差を付けられてしまっている。330iは0-100km/h加速でCT5より1.5秒速く、0-400m加速でも1.1秒の差をつけた。BMWのエンジンは音もキャデラックより良く、中間加速も優れている。BMWとキャデラックの追い越し加速を比較すると、50-80km/h加速では0.8秒、80-110km/h加速では1.1秒も差がある。

残念ながら、キャデラックに限らず、高級セダンにマニュアルトランスミッションを期待することなどできない時代になってしまった。MT車を設定しているのはジェネシス G70だけで、このG70にしてもMTの性能はさほど良くない。

interior

それでも、CT5に設定される10速ATは気に入った。変速は滑らかでほぼ感知できない。ただし残念なことにギアセレクターは他のGM車と共通の電子シフトなので扱いづらい。

ギアセレクターを除き、インテリアはCTSより改善している。CTSには意味もなくタッチ方式の操作系が多用され、一方でディスプレイのタッチ感度は悪かった。キャデラックはその失敗に学んだようで、オーディオ、ナビなどの機能は物理ボタンやダイヤル、ステアリングスイッチで操作できるようになっている。

ただし、CT5のインテリアには高級感や特別感が欠如している。1,500ドルのツートーン(ベージュ&ブラック)レザー内装とカーボンファイバーパネルの組み合わせはどうもごちゃごちゃしていて美しくない。個人的にはよりシンプルなデザインが好みだ。しかも、せっかく本革やメタルを使っているのに、周りに使われるプラスチックは安っぽい。シボレー・マリブの内装ならこれでも十分だろうが、これはキャデラックだ。

CT5のベースグレードは37,890ドルで購入できるので、内装の質感が低いこともある程度許容できそうに思える。ドイツ車と比べると数千ドルほど安い。ただし、ベースグレードの装備内容はかなり少ない。シートヒーターやアダプティブクルーズコントロール、レザーシートなどはいずれも装備されない。

試乗車はほとんどフル装備で、価格はなんと54,590ドルまで膨れ上がる。この値段でも競合車と比べると十分納得できる価格帯ではあるのだが(BMW 330iの価格は6万ドル近くする)、操作性やエンジン性能、内装の質感まで考慮すると、価格に見合っているとは思えない。

居住性の向上や操作系の改善を除いて、CTSからの改善点はまったくと言っていいほどないし、それどころかCTSの魅力であった走行性能は失ってしまっている。ひょっとしたらV6エンジンを搭載するCT5-Vは期待通りの完成度に仕上がっているのかもしれないが、少なくとも4気筒のCT5は従来よりも改悪されている。