Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、アウディ SQ2の試乗レポートです。


SQ2

今の時代、環境保護や左翼こそが正義であり、その正義の実現のためであればどんな政策であっても通ってしまう。それに反対するような人間は皆ファシストだ。

先日、西ロンドンでノッティング・ヒル・ゲートからシェパーズ・ブッシュを経由してウッド・レーンに至る二車線の自転車専用道路の計画が提案されたのだが、議会は何の反発もせずに可及的速やかにその建設を推し進めるだろう。

私は議会に異議を申し立てるためにメールを送った。同じような行動を起こした人は他にも何千人とおり、計画に反対する市民集会には400人もの人が集まった。

この計画は馬鹿げている。そもそも、費用がかかりすぎる。4200万ポンドも必要だ。しかも、4200万ポンドの恩恵を受けられるのはジェレミー・ヴァインくらいしかいない。彼のための道路を作るためにホランド・パーク・アヴェニューの美しいプラタナスの並木が消えようとしている。

それに、自転車専用道路が完成したら、その道沿いにある店舗や事業所に荷物を運搬することができなくなってしまう。同様に自動車が脇道に出ることもできなくなる。なぜなら、自転車専用道路を横切ることなど許されないからだ。

今の時代、自転車の前を横切って左折などしようものなら、ヘルメットに付いたGoProで撮影され、「怒りを通り越して悲しくなってしまいました」というコメントとともにYouTubeに晒し上げられてしまう。

このような時代的背景があるので、議会には自転車専用道路建設反対派の意見を聞き入れる余地などない。たとえ王宮の中であろうと、自転車専用道路の建設要求をしたら簡単に通ってしまうような時代がすぐそこまで来ている。自転車専用道路はこれからの地球のライフラインであり、自転車の走行を妨げることは何人たりとも許されない。

ところが、驚くべきことに、ケンジントン・アンド・チェルシー区議会は自転車専用道路の建設を却下した。議会は住民や企業の意見を真面目に聞き入れた。これまでに議会が合理的な決断を下したことなどなかったはずだ。おそらくはこれが初めてだろう。

rear

しかし、ヴァインの手下たちは諦めず、猛烈な抗議を行った。
自転車専用道路を却下するだと!? ありえない! ファシストめ!!!

ロンドン交通局のノーマン氏によると、この決断は”大変不名誉”であり、この決断によって”人が死ぬことになる”そうだ。彼が何を言っているのか、私には理解できない。自転車乗りは普通の道路を走ると死んでしまうのだろうか。それとも、決断を下した議員をリンチするという犯行予告なのだろうか。

ノーマン氏は”徒歩と自転車の推進委員”なのだろう。しかし、ほとんどの人間が子供の頃に習得したような移動手段を推進する道理がどこにあるのだろうか。ひょっとしたら彼は車が買えないような人達の世話をしているのかもしれない。しかし、ドライバーの利益を考えてくれる”自動車推進委員”など存在しない。そんな人間にはファシストのレッテルが貼られてしまう。

ノーマン氏には是非ともイタリアに行ってみてほしい。きっと気に入るはずだ。なにせローマには総延長100km以上の自転車専用道路がある。ただ、そこは常にフィアットの小型車で埋め尽くされている。

まだ本題に入っていない。ただ決して忘れていたわけではない。あえて話題を逸らしていただけだ。なぜなら、書くことがほとんどないからだ。

アウディ SQ2について記事を1本書くなんて不可能だ。補聴器に合うベージュの色合いについて記事を書くほうがまだ簡単だ。自転車専用道路についての意見を書くことで、ようやく記事の半分を埋めることができた。残り半分であればなんとかなるだろう。

SQ2はハッチバックの地上高を高くしてSUV風にして、その後スポーティーさを出すために再び地上高が下げられた車だ。こういったタイプの車をどう呼ぶのかはよく分からない。スフレとでも呼んだらいいのだろうか。

エンジンは2Lターボで、フォルクスワーゲングループのありとあらゆるモデルに搭載されているエンジンと同じものだ。SQ2の場合、最高出力は300PSなので速そうだ。実際、かなり速い。SQ2はあまりに速く、ドラッグレースでは見た目よっぽど速そうなシビックタイプRといい勝負だし、操作性も高い。

interior

決して運転していて楽しい車ではないのだが、太いタイヤやクワトロ4WDシステムのおかげで、飛ばしているときでも接地性は高い。

見た目は決して悪くはないのだが、車内は少し古臭く感じた。それに閉塞感もあるし、ドアポケットの形状がまともではないので、何を入れても安定しない。なにより、質感が価格に見合っていない。なんと価格は37,370ポンドもする。2Lの小型ハッチバックにこの値段はどう考えても高い。

こんな車に興味を持つような人間などまるで見当がつかない。もちろん、小さくて速いアウディを求めている人はたくさんいるだろうが、かといって4万ドルはありえない。この値段ならBMW 5シリーズが買えてしまう。

それでも、SQ2のような車を求めている人がいると仮定してみよう。こんな車が登場することを夢見ている人が存在すると仮定しよう。しかし、そんな人間が存在したとしても、乗り心地の悪さには失望するはずだ。SQ2は乗り心地があまりに悪く、ちょっとした段差に乗り上げただけでカップホルダーに入れた缶が飛び出しそうになる。

これまで一度として高評価を与えたこともないのに、アウディがどうして私に高性能SUVの試乗車を寄越してくるのか理解に苦しむ。SQ7は誰も欲していないし、誰も必要としていない車であると評価した。SQ5のレビューではクリミア半島に車を放置して盗ませようとしたエピソードを書いている。

SQ2も同じくらい残念な車だ。高すぎるし、乗り心地も悪いし、さほど楽しくもないし、シートはまともに乗員を包み込んでくれない。ちょうどいい機会なのでスポーティーSUVについてはっきり言ってしまおうと思う。

そんなジャンルなど実在しえない。国会議員にボクシンググローブをはめさせることはできるが、それだけで議員がボクサーになるわけではない。私だって自転車に乗ることはできるが、街路樹を切り倒してまで走りたいという思想に染まることはない。おっと、こんなことを書いたらファシスト認定されてしまうだろうか。