タイ「Bangkok Post」によるホンダ・シティの試乗レポートを日本語で紹介します。


City

ホンダ・シティは低価格で室内空間が広く、十分な性能と高いブランド力(ディーラー網が広く、リセールバリューも高い)も兼ね備えているため、低価格車の中でも長らく人気を博してきた。

シティに真っ向から対抗できるモデルといえば、トヨタのヴィオスくらいしかないのだが、トヨタはヴィオスをベースとしたヤリス エイティブを追加発売している。こちらは税制上有利なエコカー要件に適合しており、コストが抑えられている。

その後、タイでは第2期エコカー政策が新たに開始された。こちらは排気量1,300cc以下、燃費23.3km/L以上、CO2排出量100g/km以下が適合条件となっており、適合車は物品税が12%まで低減される。ちなみに、エコカー要件に適合していない従来型シティの1.5L車の物品税は20%だ。

2019年末に発表された新型シティは最高出力122PSを発揮する1.0L 3気筒ガソリンターボエンジンを搭載し、燃費23.8km/L、CO2排出量99g/kmを実現している。

カタログスペック上、現時点でシティよりも環境性能の高いBセグメントセダンはタイには存在しない。最近日産が発表したばかりの新型アルメーラに搭載される1.0Lターボエンジンも最高出力100PSで燃費23.3km/L、CO2排出量100g/kmとシティには劣る。

しかし、実際の性能はどうなのだろうか。ホンダは昔から競合車よりも高性能の車を作ることで知られており、燃費を重視しはじめたのはつい最近の話だ。実際、新型シティのエンジン性能も高い。

1.0L VTECターボエンジンはフォード・フィエスタに搭載されるEcoBoostほど優秀なわけではないのだが、それに近いくらいの性能を発揮してくれる。ちなみに、フィエスタはエコカー基準に適合することなく、タイ市場からは撤退してしまった。

新型シティはアクセルを少し踏むだけで十分な加速が得られ、街中での移動だけでなく郊外道路での追い越しまで楽々こなすことができる。

新型シティのエンジンは3気筒ながらも静粛性が高い。ホンダの旧世代3気筒自然吸気エンジンがレッドゾーン付近でやかましかったのとは対称的だ。

rear

静粛性の向上は主にターボ化によるもので、もちろんターボチャージャーを追加すればその分だけ開発コストはかさむことになる。ターボエンジンはヤリス エイティブやマツダ2、三菱 アトラージュにはまだ搭載されていない。

この3車種も第2期エコカー基準に適合する予定らしく、実際3台ともシティと同等の燃費性能を実現しているのだが、パフォーマンスに関してはシティに大きく劣っている。

新型シティにはいまだにCVTが採用されているのだが、その点を悲観する必要もない。ターボのおかげで低回転域からトルクが出てくれるので、CVTの弱点である不快なキックダウンもほとんど生じない。シティはアクセルを踏めば素直に加速してくれる。ただし、応答性は自然吸気エンジンほどシャープではない。

それでも、シティのエンジンは競合車よりも優れていると言えるだろう。新型アルメーラにはまだ乗っていないのだが、かなり優秀なエンジンでなければシティに勝つのは難しい。

新型シティのハンドリング性能に関しては、平均以上ではあるものの、トップレベルとまでは言えない。とはいえ、ホンダは若者から高齢者まで受け入れられる万人向けの車作りが得意なので、この程度の落とし所がちょうどいいのだろう。

ハンドリングに過剰にこだわって楽しい車にするのではなく、ホンダはより扱いやすい車を作る道を選んだ。なので、サスペンションは硬めのセッティングのマツダ2や今はなきフィエスタとは違い、快適志向となっている。

おかげで、シティは十分に素直なハンドリング性能と街中でも快適なしなやかな乗り心地を両立している。ただし、高速域ではやや頼りない感じもある。

ステアリングは中立域付近ではちょうどいいセッティングになっているのだが、コーナーではシャープさに欠けており、タイヤも少し飛ばしただけで悲鳴を上げてしまう。

パワートレイン開発にコストをかけすぎたのか、遮音性に関してはまだ不足している部分もある。特にリアシートでは高速域の風切り音がかなりはっきり聞こえる。他の問題点として、リアのドラムブレーキは急制動時に性能の不足を実感する。

interior

ホンダは顧客の要求に応え、各種操作用の物理ボタンをちゃんと用意してくれた。車内は小物入れやUSBポートなども充実しており、インフォテインメントシステムは直感的に操作することができる。

新型シティのインテリアは機能的には優れているのだが、マツダ2ほど見た目が良いわけではない。新型シティもドアパネルにはソフトな材質が使われているのだが、まだ質感は物足りない部分もある。

安全性に関しては、6エアバッグは全車標準装備ではないし、運転支援装備も上級グレードの「RS」であっても最小限しか装備されていない。

パッケージングは従来よりも改善しており、室内空間は広く、シートの快適性も向上している。フロントシートがより薄くなったため、リアシートのレッグルームはかなり広大になっている。

エクステリアもインテリア同様に正常進化を遂げており、特別な変化はないのだが、従来モデルからは進歩している。

シビックやアコードのモデルチェンジ時のような大胆な変更ではないのだが、従来型のシティが主要市場(インドやタイなど)で成功を収めたのだから、保守的なモデルチェンジになるのも当然だろう。

それでも、新型シティは魅力的な車だ。走りが特別優れているわけではないのだが、走行性能、燃費、実用性のバランスがしっかりとれているため、万人に愛される車に仕上がっている。

装備内容の不足を気にする人もいるだろうが、少なくとも価格は競合車と比べてもそこそこ安い。新型シティは万人向けのコストパフォーマンスの高いセダンに仕上がっている。これまでのシティと同じように。