Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのリチャード・ハモンドが英「Top Gear」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
この2台の並びを見て何を思うだろうか。ひょっとしたら、赤い車が2台並んでいるだけの写真にしか見えない人もいるだろう。しかし、中にはこの写真を見て感激し、印刷してトイレに飾ろうとする人もいるはずだ。
ポルシェ 959とフェラーリ F40が邂逅する姿に立ち会えるのは、近所でジミ・ヘンドリックスとエリック・クラプトンがギターバトルをしている姿に立ち会うくらいに凄いことだ。当時を知る人にとって、この2台の組み合わせは考えうる限りで最も理想的だ。
まだ分からない人のために別の例えをしよう。今から25年後、パガーニ・ウアイラとブガッティ・ヴェイロンの2台を特集した自動車雑誌を見つけたら、きっと飛び跳ねて喜びながら自分の子供に当時について語るだろう。そう、959とF40は今で言うところのヴェイロンとウアイラだ。疑いようもなく、究極のマシンだ。
959とF40については1台ずつ紹介させてほしい。2台一緒くたに紹介するのはあまりに難しい。
ポルシェ 959は1983年にレーシングカーとして誕生し、写真に載っているのはホモロゲーションモデルだ。ホモロゲーションモデルとは、特定のレースへの出場要件を満たすために製造された市販車のことだ。
このレースというのがグループBラリーだ。ただ、959はライバルのランチア・デルタ インテグラーレと比べてあまりに重く、それ以前に開発が完了する頃にはグループBが消滅してしまっていた。それでも、ポルシェはFIAのレギュレーションに対応するために959の市販車を発売した。そして959は1986年のパリ・ダカールで圧倒的な戦績を収めた。
正直、僕くらいの人間が959について書くのもおこがましいのだが、少なくとも959という車は当時としては最も先進的なロードカーだった。959で初採用された技術が、その後数十年間にわたって911という車を定義してきた。2.9Lツインターボフラットシックスエンジンの最高出力は実に450PSであった。
現代の最新スーパーカー同様、959にも最先端の軽量素材が使われた。ボディにはアルミニウム、アラミド(強靭な合成繊維で、当時はボディアーマーにも使われていた)、ケブラー、ノーメックスが採用され、ホイールはマグネシウム製で、車重はわずか1,450kgだった。そのため、0-100km/h加速は3.9秒を記録し、最高速度は317km/hであった。
トランスミッションは6速MTで、駆動方式は後の911ターボに伝統的に採用されることになる4WDだった。しかも、この4WDは今見てもかなり先進的なトルクスプリットシステムを採用している。
それだけでなく、実際のフィール、音、走りも今のスーパーカーと遜色ない。当時の911といえば成金オーナーと暴れ馬的性格のイメージが強いのだが、959はかなり滑らかで落ち着いており、自信を持って運転することができる。
ターボエンジンを搭載するため、450PSという数字には恐怖すら覚えるのだが、パワー特性は一貫しており、速いながらも決して怖くはない。4WDシステムはグリップだけでなくステアリングの舵角やスロットル開度、横G、ターボブーストまで感知して駆動力配分を変更する。おかげで圧倒的なエンジンパフォーマンスを見事に制御し、今の基準で考えてもかなり洗練された走りを実現している。ましてや1987年当時の基準で考えれば、どれほどとんでもない車だったのだろうか。
ところが、959の登場からわずか8ヶ月後、フェラーリ F40がすべての話題をさらっていった。F40はフェラーリの創業40周年を記念するために作られた車で、ホモロゲーションとは無縁なのだが、世界最速のロードカーを目標に開発された。その走りはカミソリのように鋭い。
最初のコンセプトモデルは開閉できないプラスチック製の窓が付いており、ドアノブの代わりに糸のようなものが装備されていた。さすがに市販モデルはここまでスパルタンではないのだが、市販車でも窓は手動開閉式だし、糸の代わりに付いたのは紐だった。
上述したように、F40はホモロゲーションモデルではない。基本設計は288GTOエヴォルツィオーネという試作車をベースとしている。エヴォルツィオーネが実際にレースに出場することはなかったのだが、フェラーリがピニンファリーナと協力してこの車に手を加えて誕生したのが、この美しくて攻撃的なF40だ。
1988年に死去したエンツォ・フェラーリが最後に監修したのがこのF40だ。実際、F40にはロマンがあり、そして特別感がある。エンツォの遺産であるF40がサーキットを走る様子は、まるで獰猛なライオンが野生動物たちを追い回しているかのようだ。
1989年にIMSAに出場したときと変わらず、今でもF40の輝きは現役だ。IMSAではジャン・アレジがF40 LMのステアリングを握った。F40 LMはスペースフレームのアウディ 90には後れを取ったものの、市販車とさほど変わらない姿で数多くのレーシングカーを抜いていった。
市販仕様のF40も、音、フィールすべてが純粋な機械そのものだ。ドライバーと478PSのV8エンジンの間に余計な先進的制御など存在せず、959と同じくらい洗練された走りを見せてくれる。
F40も959同様、軽量化が徹底されているのだが、F40のこだわりは959以上だ。パネルは軽量化と剛性確保の両立のためにアルミ、カーボン、ケブラーが使われている。窓はガラスではなくプラスチック製で、カーペットや内装の装飾など存在せず、オーディオの代わりに聴こえてくるのはV8エンジンとIHI製ターボチャージャーが奏でる生々しい音だけだ。
想像通り、F40の走りはハードコアだ。低速域ではステアリングがかなり重く、速度が上がると路面の状況を完璧に伝えてくれる。トランスミッションはまさに機械で、変速しているという実感がしっかり存在する。
F40の車重はわずか1,100kgとヴェイロンの半分以下で、最高出力478PSは7,000rpmで発揮される。その加速は子供っぽいと感じるほどにスリリングだ。0-100km/h加速は4秒未満で、0-190km/h加速は959よりも速い11秒を記録する。そしてF40は最高速度320km/hを超えた世界初の市販車だ。
今やF40の価値は平均的な新築一戸建てよりも高い。そしてF40には巨匠エンツォ・フェラーリとの強い繋がりもある。けれどそんなことよりも、その走りの残忍さ、そして素晴らしさばかりが印象的だった。
先進技術を満載したポルシェも、刃のような鋭さを持つF40も、いずれも伝説的な車だ。今で言うところのヴェイロンとウアイラであり、決して忘れてはいけない車だ。
今回紹介するのは、フェラーリ F40とポルシェ 959の比較試乗レビューです。
この2台の並びを見て何を思うだろうか。ひょっとしたら、赤い車が2台並んでいるだけの写真にしか見えない人もいるだろう。しかし、中にはこの写真を見て感激し、印刷してトイレに飾ろうとする人もいるはずだ。
ポルシェ 959とフェラーリ F40が邂逅する姿に立ち会えるのは、近所でジミ・ヘンドリックスとエリック・クラプトンがギターバトルをしている姿に立ち会うくらいに凄いことだ。当時を知る人にとって、この2台の組み合わせは考えうる限りで最も理想的だ。
まだ分からない人のために別の例えをしよう。今から25年後、パガーニ・ウアイラとブガッティ・ヴェイロンの2台を特集した自動車雑誌を見つけたら、きっと飛び跳ねて喜びながら自分の子供に当時について語るだろう。そう、959とF40は今で言うところのヴェイロンとウアイラだ。疑いようもなく、究極のマシンだ。
959とF40については1台ずつ紹介させてほしい。2台一緒くたに紹介するのはあまりに難しい。
ポルシェ 959は1983年にレーシングカーとして誕生し、写真に載っているのはホモロゲーションモデルだ。ホモロゲーションモデルとは、特定のレースへの出場要件を満たすために製造された市販車のことだ。
このレースというのがグループBラリーだ。ただ、959はライバルのランチア・デルタ インテグラーレと比べてあまりに重く、それ以前に開発が完了する頃にはグループBが消滅してしまっていた。それでも、ポルシェはFIAのレギュレーションに対応するために959の市販車を発売した。そして959は1986年のパリ・ダカールで圧倒的な戦績を収めた。
正直、僕くらいの人間が959について書くのもおこがましいのだが、少なくとも959という車は当時としては最も先進的なロードカーだった。959で初採用された技術が、その後数十年間にわたって911という車を定義してきた。2.9Lツインターボフラットシックスエンジンの最高出力は実に450PSであった。
現代の最新スーパーカー同様、959にも最先端の軽量素材が使われた。ボディにはアルミニウム、アラミド(強靭な合成繊維で、当時はボディアーマーにも使われていた)、ケブラー、ノーメックスが採用され、ホイールはマグネシウム製で、車重はわずか1,450kgだった。そのため、0-100km/h加速は3.9秒を記録し、最高速度は317km/hであった。
トランスミッションは6速MTで、駆動方式は後の911ターボに伝統的に採用されることになる4WDだった。しかも、この4WDは今見てもかなり先進的なトルクスプリットシステムを採用している。
それだけでなく、実際のフィール、音、走りも今のスーパーカーと遜色ない。当時の911といえば成金オーナーと暴れ馬的性格のイメージが強いのだが、959はかなり滑らかで落ち着いており、自信を持って運転することができる。
ターボエンジンを搭載するため、450PSという数字には恐怖すら覚えるのだが、パワー特性は一貫しており、速いながらも決して怖くはない。4WDシステムはグリップだけでなくステアリングの舵角やスロットル開度、横G、ターボブーストまで感知して駆動力配分を変更する。おかげで圧倒的なエンジンパフォーマンスを見事に制御し、今の基準で考えてもかなり洗練された走りを実現している。ましてや1987年当時の基準で考えれば、どれほどとんでもない車だったのだろうか。
ところが、959の登場からわずか8ヶ月後、フェラーリ F40がすべての話題をさらっていった。F40はフェラーリの創業40周年を記念するために作られた車で、ホモロゲーションとは無縁なのだが、世界最速のロードカーを目標に開発された。その走りはカミソリのように鋭い。
最初のコンセプトモデルは開閉できないプラスチック製の窓が付いており、ドアノブの代わりに糸のようなものが装備されていた。さすがに市販モデルはここまでスパルタンではないのだが、市販車でも窓は手動開閉式だし、糸の代わりに付いたのは紐だった。
上述したように、F40はホモロゲーションモデルではない。基本設計は288GTOエヴォルツィオーネという試作車をベースとしている。エヴォルツィオーネが実際にレースに出場することはなかったのだが、フェラーリがピニンファリーナと協力してこの車に手を加えて誕生したのが、この美しくて攻撃的なF40だ。
1988年に死去したエンツォ・フェラーリが最後に監修したのがこのF40だ。実際、F40にはロマンがあり、そして特別感がある。エンツォの遺産であるF40がサーキットを走る様子は、まるで獰猛なライオンが野生動物たちを追い回しているかのようだ。
1989年にIMSAに出場したときと変わらず、今でもF40の輝きは現役だ。IMSAではジャン・アレジがF40 LMのステアリングを握った。F40 LMはスペースフレームのアウディ 90には後れを取ったものの、市販車とさほど変わらない姿で数多くのレーシングカーを抜いていった。
市販仕様のF40も、音、フィールすべてが純粋な機械そのものだ。ドライバーと478PSのV8エンジンの間に余計な先進的制御など存在せず、959と同じくらい洗練された走りを見せてくれる。
F40も959同様、軽量化が徹底されているのだが、F40のこだわりは959以上だ。パネルは軽量化と剛性確保の両立のためにアルミ、カーボン、ケブラーが使われている。窓はガラスではなくプラスチック製で、カーペットや内装の装飾など存在せず、オーディオの代わりに聴こえてくるのはV8エンジンとIHI製ターボチャージャーが奏でる生々しい音だけだ。
想像通り、F40の走りはハードコアだ。低速域ではステアリングがかなり重く、速度が上がると路面の状況を完璧に伝えてくれる。トランスミッションはまさに機械で、変速しているという実感がしっかり存在する。
F40の車重はわずか1,100kgとヴェイロンの半分以下で、最高出力478PSは7,000rpmで発揮される。その加速は子供っぽいと感じるほどにスリリングだ。0-100km/h加速は4秒未満で、0-190km/h加速は959よりも速い11秒を記録する。そしてF40は最高速度320km/hを超えた世界初の市販車だ。
今やF40の価値は平均的な新築一戸建てよりも高い。そしてF40には巨匠エンツォ・フェラーリとの強い繋がりもある。けれどそんなことよりも、その走りの残忍さ、そして素晴らしさばかりが印象的だった。
先進技術を満載したポルシェも、刃のような鋭さを持つF40も、いずれも伝説的な車だ。今で言うところのヴェイロンとウアイラであり、決して忘れてはいけない車だ。