今回は、ジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿したカルロス・ゴーン逃亡に関するコラムを日本語で紹介します。


Ghosn

自動車業界の重鎮、カルロス・ゴーンが逮捕されたと聞いたとき、きっと日産 ジュークの開発にゴーサインを出した罪で捕まったのだと思った。しかし実際は違った。彼の容疑は金融に関するものらしい。

私は金融関係はまったく分からない。会計士から年金や税金の話を聞くときには、重要な話であるということは理解しているので、かなり集中して彼の話を聞こうとする。しかし、話を最後まで聞いても何も頭に入ってこない。結局「集中しろ!」と自分に言い聞かせていたことしか覚えていない。

それはともかく、ゴーンいわく、フランス企業のルノーが日本企業の日産の支配を強めようとしていたために、日本で罪に問われてしまったそうだ。私も一介の自動車評論家として事件の詳細情報を得ようとしてみたのだが、勉強を始めて2分後には睡魔に襲われてしまった。

そして私が起きる頃には、ゴーンは既に逃亡していた。
Ghosn was gone.”

噂によると、アメリカ陸軍特殊部隊グリーンベレーの元隊員が自宅監禁状態にあったゴーンの元に現れ、共に新幹線に乗って大阪に行き、ゴーンを楽器ケースに入れてプライベートジェットで日本を発ったらしい。そうして、ゴーンは逃亡に成功した。彼のしたことは明らかに違法行為だ。

しかし、聞くところによると日本における刑事事件の有罪率はなんと99.9%らしい。そう考えると、もし私が日本で捕まったら、たとえマッチ箱に入ってでも日本から逃亡するだろう。後進国ならまだしも、日本がこんな状況なのは驚いた。しかし、このような問題があるのは日本だけではない。

アルメニアではやってもいない罪を自供するまでボトルの上に座らされて脅されることがある。

オーストラリアでは取り調べ中に一時的に録音機器がオフになり、不思議なことにオンになった途端に容疑者が罪を白状したことがあった。その男は冤罪が明らかになるまで11年間も獄中に囚われていた。

カナダには証人に資金援助しただけで逮捕された人がいる。フィンランドでは1人の女性に2度も夫の殺人容疑がかかり、いずれも事実無根であることが明らかとなった。アイスランドでは容疑者が600日以上にわたって拘束される。

ドイツすらも信頼できない。2001年にある男性が車ごと川に転落した。彼の死体は8年後に魚に食い尽くされた状態で発見された。彼の死に事件性がある証拠などまったくないのだが、彼の家族には殺人の有罪判決が下った。

昔、私の身に起こった出来事の話をしよう。クレタ島にいるとき、私の彼女(当時)がバーで地元男性から痴漢行為を受けた。私は彼を止めようとしたのだが、彼とその友人に外に連れ出されてしまった。私はそのまま紐で縛られ、小便をかけられてしまった。警察が到着する頃、私は地元民のひとりに頭を殴られていたのだが、結局は私が”ギリシャ国旗を侮辱した罪”で警察に捕まってしまった。

アヤナパではもっと酷い事件があった。この事件について最初に聞いたとき、私はキプロス警察の主張が正しいと考えた。馬鹿なイギリス女が行きずりの男と関係を持ち、そこに男の友人も加わったのだが、翌日になって「集団強姦された」と嘘をついた。結果、その女は有罪判決を受けることとなった。

この事件に関与したイスラエル国籍の男たちが釈放されたことにも何の疑問も持たなかったし、こんな悪女など有罪になって当然とすら思っていた。

ところが、後に興味深い事実が明らかとなった。彼女の体には痣が残されていた。彼女は弁護士との接触が許されなかった。自白の記録は英語を第一言語とする人間の言葉とは到底思えない文面だった。アヤナパでは痴情のもつれによる事件が日常茶飯事で、強姦事件を本気で調べようとする警察などいないらしい。

とはいえ、法廷は何を考えたのだろうか。キプロスほどの文明国の法廷では、証拠に基づいた中立で客観的な判決が下されるはずだ。にもかかわらず、検察の主張には何の疑いもかからずに有罪判決が下り、彼女には禁錮4ヶ月が言い渡された。

この事件を受け、キプロス旅行をボイコットしようという運動が起こっている。私もその運動に賛同したいと考えている。そして、彼女に取り調べを行った警察官は、本当のことを白状するまでボトルの上に座らせてやりたい。

アメリカにも問題がある。昨年、駐英アメリカ外交官の妻であるアン・サクーラスという女性がイギリス国内で車を運転中、反対車線を逆走してバイクと衝突した。バイクを運転していたハリー・ダンという若者は死亡し、アンはアメリカへと逃亡した。

ハリーの両親はアンに対し、イギリスに戻って罪を償うよう求めたのだが、アンは外交特権を主張し、アメリカ政府側も彼女の起訴は「建設的ではない」と一蹴した。

アメリカにいるアンの弁護士はイギリスの司法制度が未熟であると主張している(『ギルフォード4』や『バーミンガム6』などの冤罪事件のことを言っているのだろう)のだが、そもそもアメリカは人道的な処罰すらまともにできない国だ。バグダッドの空港で起きた出来事もそれを証明している。

重い話になってしまったので、最後くらいは軽く締めたい。いずれ、カルロス・ゴーンの逃亡を手伝ったとされる5人が『ルノー5』と呼ばれることもあるのかもしれない。