Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、フォルクスワーゲン T-CROSSの試乗レポートです。
私は8種類もの仕事をしている。人に説明することもあるので、仕事の数だけはちゃんと覚えている。ただ、あまりに多忙なので、8番目の仕事が何だったのかはよく思い出せない。はて、男娼だっただろうか、麻薬密売だっただろうか。それとも外務大臣だっただろうか。まるで分からない。
どうあれ、今、私は原稿を前にして混乱している。書かなければいけないコラムが2本あるのだが、書くことがない。次のグランド・ツアー 特別篇のことも考えなければいけないし、『Who Wants to Be a Millionaire?』の司会もしなければならない。
DriveTribeの仕事もあるし、そのスピンオフであるFoodTribeの仕事まである。他にも、家や店を建築したり、本を書いたりもしなければならないのだが、1週間、朝から晩まで農業をしなければならないので、結局何もできなくなってしまう。
昨日は羊4頭が足から血を流していたので、まったく眠ることができなかった。それが終わったら壁に使う10トンの石を納屋から運び出さなければならず、その後は一文無しになってしまった娘の口座に金を振り込まなければならなかった。
ここまで書けば、今週の試乗車に乗り忘れていたことも納得してもらえるだろう。いや、厳密に言うと乗りはしたのだが、除草剤を運び出す際に邪魔だったのでバックで少し移動させただけだ。しかも、車を置いた場所がちょうど死角になっていたため、その日の夜、ロンドンに行く用事があったのだが、試乗車の存在を忘れたまま自分のレンジローバーで出かけてしまった。
ロンドンではつい羽目を外してしまい、翌日帰ってくる頃には試乗車のフォルクスワーゲンが回収されてしまっていた。ここで疑問なのだが、リバースギアで5mしか運転していない車の試乗記事はどうやって書けばいいのだろうか。
少なくとも私に言えるのは、バック走行中にずっと酷い振動があったということだけだ。その振動が前進時にも起こるかどうかは分からない。分かるはずがない。それから、それがフォルクスワーゲンの車だったことも覚えている。
仕方ないので、記事を書く前にフォルクスワーゲンのウェブサイトを確認してみることにした。そこで知ったのだが、私が乗ったのはT-CROSSという名前の車らしい。車名のところをクリックして車の詳細情報を調べようとしたのだが、カーラ・デルヴィーニュの写真が並んでいるだけだった。掲載されていたビデオまで見たのだが、車に関する情報はまったく得られなかった。
さらに下にスクロールして価格などの情報を調べようとしたのだが、価格の情報に辿り着くまでに何枚も男女のモデルの写真を見せられた。そしてようやく知ったのだが、この車はわずか17,395ポンドから購入できるらしい。
予想していたよりずっと安かったので、フォルクスワーゲンの広報部門にアドバイスしたい。確かにカーラは美しい女性だ。彼女の写真を眺めるのも楽しい。けれど、車が売りたいなら、価格の安さを前面に出して宣伝するべきだ。
T-CROSSの中身はポロだ。それは紛れもない事実だ。ポロは優秀な車だ。ポロなら前向きに運転したこともあるし、その時の印象はかなり良かった。Bセグメントクラスの車を購入するならポロを選びたいところなのだが、そもそも私はBセグメントなど欲しくない。そして、私以外の人間は竹馬を履いた車を欲しがっているので、ポロよりもT-CROSSに興味を持つだろう。
T-CROSSの見た目は良い。実際、車を移動させる際に見たときには恰好良いと感じた。それに、内装もおしゃれだ。実際、車内に乗り込んだ際におしゃれだと感じた。この洒落た内装を見ていたので、値段を見たときには驚いた。ドアを閉めた際に聞こえた音もかなり重厚感があった。撃たれたキジが地面に激突する音だ。
1Lの3気筒エンジンを搭載しているため、エンジン始動音も心地良かった。3気筒エンジンはV8エンジン同様、本質的にアンバランスな構造なので、その音は完璧ではなく、それゆえに人間らしさがある。
エンジンは95PS仕様と115PS仕様の2種類がある。1Lから115PSを生み出すのは凄いことだ。ひょっとしたら、だから振動が大きかったのかもしれない。いずれにしろ、わざわざ高いお金を払って115PS仕様を選ぶ理由などないと思うので、95PS仕様を選ぶべきだろう。タイヤを鳴かせながら職場までのラップタイムを更新したいなら、他の車を選んだほうがいい。ランボルギーニ・アヴェンタドールなんかがおすすめだ。
散々ウェブサイトを眺めて知ったのだが、収納スペースは充実しているし、リアシートをスライドさせることもできるようだ。しかし困ったことに、私に書けることはこれで終わってしまった。
なので、結論に移らなければならない。今回の試乗には致命的な問題があった。そもそも、たった15秒運転しただけで車の評価などするべきではない。その15秒がバックならなおさらだ。
試乗中に生じた振動があくまで個体の問題、もしくは仕様(だとしたらそれはそれで狂っているのだが)だったとすれば、T-CROSSはコストパフォーマンスと経済性に優れた、実用的でスタイリッシュな車と言えるだろう。小型SUVに必要な要素はそれだけだ。
超短距離しか運転していない車の試乗記事を書くことができた自分を褒めたいところなのだが、私はもうひとつ大きな問題を抱えている。今週はロンドンに3回行かなければならないのだが、T-CROSSの次に来た試乗車はメルセデスの電気自動車なので、移動に使うことができない。
以前に電気自動車を充電しようとした際にブレーカーが落ちてしまったので、自宅で充電することはできない。ロンドンの充電インフラは意識高い系テスラに占領されてしまっているので、ロンドンで充電することもできない。それに、私は忙しいので、自宅周辺にある充電ステーションで何時間も待つわけにもいかない。
電気自動車には大きな矛盾がある。高価な電気自動車を購入するためには8個の仕事を掛け持ちしなければならない。しかし、そんな人間に充電を待っている暇などない。
英語版も読んでますが訳もすごいですね。
auto2014
が
しました