Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、ポルシェ 718ケイマンGT4の試乗レポートです。
昔、車が毎日のように故障していた時代、我々はどうやって対処してきたのだろうか。わざわざ浮浪者の尿に塗れた電話ボックスまで歩いて行って2ペンスを払い、スローダウン中の修理業者を呼んでいたのだろうか。
車が故障すれば目的地に到着できなくなってしまう。レッカーが到着するまで雨の中で2時間は待ち続けなければならないし、やって来た業者は修理に必要だと言って追加で200ポンドを要求してくる。そのうえ、ストライキの影響で車の修理が完了するまでには1ヶ月以上かかってしまう。
当時はそれが当然で、我々もそんな状況を受け入れていた。オースチン 1100には可動部品などせいぜい6個くらいしかなかったのだが、それでも2~3ヶ月に1回はどこかが故障した。そのたびに雨の中を歩かなければならなかった。そして、ひょっとしたら殺人鬼かもしれない修理業者と一緒にトラックに乗らなければならない。
現代においても信頼性の低いものは存在する。携帯電話。鉄道。旅行代理店。特にパソコンは頻繁に不具合を引き起こすのだが、一方で今の自動車は驚くほど壊れなくなった。
かつて、北極でトヨタのピックアップを運転したことがある。カメラも携帯電話も、ありとあらゆる電子機器を破壊した極寒の中で酷使してもピックアップは無傷で、およそ15,000のパーツすべてが完璧に動いたので、もはや魔法でも使っているのではないかとさえ感じた。
かつて信頼性の低さで知られていたブランドすら今ではまともになっている。私が所有している古いレンジローバーには問題のある箇所がいくつかある(ステアリングはかなり重くなった)のだが、それは設計が古いからだ。
新しいレンジローバーは酔っ払いを満載して一日中未舗装路を走り回っても平然としている。やかましい子供達を乗せてフランスまで行くことだってできる。ロンドンの渋滞で発進と停止を繰り返してもびくともしない。それどころか、盗まれることもない。
かつては高速道路の非常駐車帯が重宝されていた。しかし今や、パンクする車すらほとんどいなくなってしまった。
ところが、どうやら時代は1971年に逆戻りしてしまったらしく、先週試乗した車は故障した。まさに昔ながらの煙と雑音を伴った故障で、さすがに驚いてしまった。しかも、さらに驚くべきことに、その壊れた車というのがポルシェの718ケイマンGT4だった。
これまで、ポルシェが壊れることなどなかった。ポルシェに比べればスイス製の時計はちぐはぐで無計画だ。日本の鉄道運転士は到着予定時刻より7秒以上遅れると怒られるらしいのだが、ポルシェの開発者がそれを知ったらその寛容さに驚嘆することだろう。
にもかかわらず、日曜の朝、ポルシェで家に帰る途中、メーターパネルに水温が低すぎるという警告が表示された。警告表示はそれほど仰々しいものではなかったのだが、相当の危機感を覚えたため、自分の車でないとはいえ、大事を取って車を停めることにした。
そのとき、相当の異音と煙が発生した。あまりにも音と煙が酷かったため、近くの駐車場にいた人が心配した様子で駆け寄ってきた。もっとも、彼は本心では大爆笑していたはずだ。
黄色いポルシェから登場したテレビの有名人を見た彼は頬を噛み切らんばかりに笑いを堪えつつ、水を取りに行ってくれた。私はエンジンルームを開けようとしたのだが、エンジンは前を開けても後ろを開けても見つからなかった。どちらを開けても荷室しかなかった。ちなみに荷室はどちらも広大だ。
幸い今は21世紀なので、わざわざ電話ボックスを探す必要はない。しかも、車を停めた場所は前首相の地元だったので4Gの電波もしっかり通じていた。私はGoogleでエンジンの在り処を調べ、強固な金属の箱の中に格納されていることを知った。
MGFも似たような構造なのだが、当時そんな構造の車を作るのはあまりに無茶だった。しかし、ポルシェが壊れることなどないだろうと思っていたので、ケイマンのエンジンがそんな場所にあることすら気付かなかった。
サスペンションの張り出しだと思っていた場所には水とオイルを継ぎ足すためのノズルがあった。おかげで、トイレからジョウロを持って戻ってきた心優しき駐車場の男と一緒に車の修理を試みることができた。
ところが、車を修理することはできなかった。水を入れてもそのまま下から漏れてしまった。ただ幸い、そこは自宅まで数キロの距離だったので、それくらいなら走れるだろうと考えた。
困ったことに、それすらもできなかった。100mほど走ると、メーターには車が完全に壊れたことを示す警告のメッセージが表示された。
どうやら今度はオルタネーターに問題が生じたらしく、可及的速やかに安全な場所に停車せよというメッセージが表示された。私は最寄りの「安全な場所」は自宅だと判断し、可及的速やかに自宅に帰ることにした。その後、ポルシェはレッカーに引かれて私の家からいなくなった。
翌日、ポルシェから電話があった。どうやらウォーターポンプが壊れて冷却水がオルタネーターにかかってしまったようだ。ご存知の通り、ポルシェは一般的な空気による冷却システムではなく水による冷却システムを好んで使っており、おかげでエンジンの構造が複雑になっている。
こんな結果になってしまったのが残念でならない。ブリティッシュ・レイランドの時代に引き戻されるまで、私は718ケイマンGT4のことが気に入っていた。これまで、ボクスターとケイマンを購入するのは911を買うお金がない人だと言ってきたし、718が登場してもその考えは変わらなかった。こんな車を購入するのは、周りに「理想を実現できなかった」と吹聴するようなものだ。
しかし、最近の911は変わりはじめている。依然として好きな人にとっては優秀な車なのだが、もはやスポーツカーとは言い難い。どこか冗長な感じがする。
だからこそ、718という存在が光る。特にGT4には冗長性など存在しない。現実的で純粋な、100%のスポーツカーだ。これが本来の911と言ってもいい。
恐怖を感じるほど速くはない。ノイズの多いタイヤが生み出すグリップ性能は必要十分だ。シートは最高だし、ドライビングポジションも完璧だ。実用的で取り回しもしやすく、これこそが理想のポルシェだという結論を出そうとしたところで、車が壊れてしまった。プシュー。ガラガラガラガラ…。
……それで壊れるのもなんだかなーという話だけど
auto2014
が
しました