フォーカスSTの価格は31,995ポンドで、一見すると競合車よりも割高に思える。しかし、その実力は価格に見合っており、魅力的な支払いプランも用意されている。
フォーカスSTのベースとなっているフォードのC2プラットフォームはホットハッチにぴったりの設計だ。フロントサスペンションはこのクラスのほとんどのハッチバック(今回のライバル2台も)が採用しているマクファーソンストラット式なのだが、リアサスペンションは贅沢にマルチリンク式を使っている。ただし、シビックとi30もそれは同じだ。
フォーカスSTにはアダプティブダンパーやLSDなど、他の2台にも装備されているような技術はしっかり付いている。ただし、正真正銘の機械式ディファレンシャルを採用するシビックとは違い、フォーカスとi30は電子制御ユニットを使っている。そのため、走行状況に応じて設定を変更することができる。
走行モードを変更するとスロットルレスポンスやエンジン音を変更することもできる。フォーカスSTにはサウンドエンハンスメントシステムが装備されており、エンジン音を電子制御で変化させることができる。
試乗車には250ポンドのパフォーマンスパッケージが装備されていた。これにはローンチコントロール、レブマッチングが含まれており、走行モードにトラックモードが追加される。アダプティブダンパーの設定も走行モードにより変化し、トラックモードではすべての設定が最も攻撃的になる。
2.3L 4気筒ターボエンジンは旧世代のフォーカスRSに搭載されていたエンジンの進化型なのだが、最高出力は280PSまで抑えられている。ただし、競合車と比べると排気量が大きいため、最大トルクは42.8kgf·mと強力だ。他にも、ターボラグを抑えてスロットルレスポンスを向上するための機能も付いている。
言うまでもなく、ホットハッチは走り一辺倒では許されない。ハッチバックゆえに日常的に使える実用性が求められるため、装備内容も重視される。
グレードは「ST」のみの単一構成で、一部レザーのRECAROスポーツシートやオートエアコン、クルーズコントロール、パーキングセンサー、キーレスエントリー、LEDライトなどが標準装備となる。ただ、いずれも価格を考慮すれば付いていて当然の装備だ。
フォーカスSTの価格はシビックタイプRよりも1,555ポンド安いし、装備内容はホンダと同等なのだが、エンジン性能はホンダに劣るし、エンジン性能や装備内容がそれほど変わらないヒュンダイと比べると2,500ポンドも高価だ。
フォード・パフォーマンスが開発する車の走りには定評があるし、そもそも標準のフォーカス自体が優秀な車なので、フォーカスSTは驚くほど優秀な車に仕上がっている。
車の実力の中枢となるのはシャシだ。ミシュラン Pilot Sport 4Sを履いているためグリップ性能は非常に高く、スポーツモードやトラックモードではアダプティブダンパーが見事にボディを制御する。高速コーナーでも身のこなしは軽やかで、絶妙なパッケージングとなっている。高速コーナーも自信を持って攻めることができる。
ステアリングはフォードの高性能車らしい仕上がりとなっており、クイックながらもソフトな感触だ。ときにクイックすぎて疲れることもあるのだが、飛ばしたいときにはその攻撃性が嬉しい。
エンジン性能にも文句はない。それほど個性的なユニットではないし、高回転域で響いてくる大きなエンジン音は電子制御に装飾された人工的なものなのだが、少なくとも排気音は本物だし個性的だ。
0-100km/h加速では5.9秒を記録した。この数字はシビックタイプRと同一で、i30 Nより0.4秒速かった。ただし、ギア固定での加速ではi30 Nのほうが速かった。トルクはフォーカスのほうが有利なはずなのだが、重さがマイナスに働いたようだ。とはいえ、十分に速いことは間違いない。
6速MTも優秀だし、乗り心地はノーマルモードでも硬いのだが、ダンピング性能は非常に高く、その乗り味はヒュンダイよりもホンダに近い。確かに揺れはあるのだが、ダンパーが不快な角をしっかりと吸収してくれる。ただし、スポーツモードとトラックモードはかなり硬く、ホンダほどの万能性や快適性はない。
荷室容量は378Lで、3台の中では最も狭いのだが、差はそれほど大きくない。ヒュンダイとの差はわずか3Lだし、リアシートの居住性も大して変わらない。ただし、シビックタイプRに関しては荷室も居住性も他の2台よりかなり優れている。とはいえ、フォーカスの実用性に不満を感じるような場面はほとんどないし、収納スペースも多数用意されている。
ただし、操作性の面では実用性に支障をきたしている。ステアリングはクイックながらも小回りは難しく、狭い場所では切り返しが必要になることもある。とはいえ、パーキングセンサーとカメラはしっかり装備されている。
フォーカスSTの安全装備は充実しており、AEBやレーンキープアシストも標準装備されているため、ユーロNCAPでは5つ星を獲得している。もちろん、ブレーキも高性能だ。