米国「Autoblog」によるヒュンダイ RM19の試乗レポートを日本語で紹介します。


RM19

写真の車はヴェロスターではない。確かに、巨大なフェンダーやウイング、リアスプリッターが付いているとはいえ、見た目はヴェロスターそっくりだ。基本的なハッチバックのスタイリングやライト類は共通だし、ダッシュボードもほとんど同じだ。

しかし、よく見てみると違和感がある。助手席側にもドアが1枚しかない。後席へのアクセス性を高めるため、助手席側のみにリアドアが存在する4ドアスタイルがヴェロスターの特徴なのだが、このヒュンダイ RM19にはそもそも後席自体が存在しない。RM19にはシートよりもよっぽど面白いものが搭載されている。そう、エンジンだ。

RM19はヒュンダイのNディビジョンが生み出した最新の試作車であり、同部門のトップであるアルベルト・ビアマン氏いわく、N部門の集大成となる車らしい。今回はカリフォルニア州にあるヒュンダイのテストコースにおいて、RM19の実力を試した。

見た目こそヴェロスターそっくりなのだが、その中身は驚くほどバランスの良いミッドシップスポーツカーであり、ステアリングは官能的で、2.0L 4気筒ターボエンジンから最高出力395PSが後輪へと送り込まれる。車としては、フォーカスRSよりもむしろケイマンGT4に近い。

ただし、これはあくまでもプロトタイプなので、市販車よりもレーシングカーに近い部分もある。背中越しに搭載されるエンジンからは耳をつんざくような音が聞こえてくるし、そもそものベース車がTCRマシンだ。しかも、RM19はTCR仕様より穏やかになるどころかさらにパワーアップしており、ブーストが強化されている。

rear

トランスミッションはレーシングカー由来の6速シーケンシャルで、発進時にはトリッキーなクラッチ操作が必要になるのだが、走り始めてしまえば普通のパドルシフト操作で変速することができる。反応の鈍い普通のAT車のマニュアル変速とは違い、重厚感のある金属製パドルを操作してからの変速は非常に早く、機械的な正確さがある。

ただし、おそらくはヴェロスターと共通のペダル配置は褒められない。発進後はクラッチペダルを使わずに変速できるので、左足ブレーキで運転操作を行いたくなるところなのだが、そうしようとするとクラッチペダルが邪魔になってしまうし、MT配置なのでペダルが全体的に右寄りになっている。一方、ヴェロスターTCRはアクセルペダルとブレーキペダルがステアリングの真下に来るような配置になっていて、クラッチが左に寄っているので理想的な操作ができる。

批判はここまでにして、具体的なスペックの話に移ろう。ホイールベースはヴェロスターより2cmほど長く、全長はヴェロスターより7.6cm長い。ただし、全長増加分のほとんどは巨大なリアデュフューザーが占めている。フロントサブフレームはアルミ製なのだが、リアサブフレームおよびボディはスチール製で、おそらくはヴェロスターと同じものだろう。

巨大なフェンダーにはカーボンファイバーおよびケブラーが使われており、側面に張り出しているサイドシルもカーボンファイバー製なので、乗り込む際には注意しなければならない。リアスポイラーの支柱はテールゲートから生えており、後方視界の邪魔になっている。このスポイラーは見た目に刺激を与えるだけでなく、空力的な効果もちゃんと存在する。

フロントサスペンションはマクファーソンストラット式、リアサスペンションはダブルウィッシュボーン式が採用される。ホイールはOZ製の鍛造20インチで、タイヤサイズはフロントが245/30、リアが305/30となる。ブレーキはブレンボ製で、フロントが6ピストン、リアが4ピストンとなる。ステアリングは電動アシストなのだが、非常に正確で、フィールも電動パワステとは思えないほど良好だ。

interior

今回はテストコースを3周しか走れなかったので、この車の走りを完全に評価することはできない。ただ、少なくともこの車にミッドシップらしい特別感があることは理解できた。バランスが良くて吸い付くようなグリップを発揮し、かなり扱いやすかったので、それほど緊張することなく運転することができた。ハッチバックを魔改造したモデルとは思えないほど穏やかだった。

車名の19という数字は開発番号で、その数字が示す通り、他にも多数の開発車が作られてきたそうだ。アルベルト・ビアマン氏によると、RMシリーズの開発を経て、ヒュンダイは重量配分とボディ構造の最適化を進めてきたそうだ。

ご存知の通り、ビアマン氏といえば元BMW Mディビジョンの開発者で、ヒュンダイおよびジェネシスで行ってきた仕事も既に一定の評価を得ている。そして彼のさらなる躍進を示す車がこのRMだ。いずれRMが市販車として登場する日が来るだろう。ひょっとしたらヒュンダイの提携先であるリマックと共同開発となり、電動化されるかもしれないそうだ。いずれにしても、ヒュンダイの次の一手が待ちきれない。