タイ「Bangkok Post」によるMG エクステンダーの試乗レポートを日本語で紹介します。


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タイのピックアップトラック市場への参入は決して簡単なものではない。成功するためには数多くの問題に対処していかなければならない。

いすゞとトヨタの二大巨頭だけで年間販売台数50万台のうちの70%のシェアを占めている。ブランド力の高さだけを信頼し、D-MAXやハイラックスを選ぶような人もたくさんいる。

シボレーやフォード、マツダ、三菱、日産などの中堅プレイヤーに目を向けてみると、それぞれが利益を確保するのに苦心しているようだ。

中にはドロップアウトしたメーカーもおり、タタも販売不振を理由にゼノンの販売を終了している。ゼノンの月間販売台数は1,000台にも満たず、わずか数百台程度で推移していた。

そのため、MGもタタのような運命を辿ると予想する専門家も多い。そもそも、MGはタイの乗用車市場においても存在感の小さなブランドだ。その理由は商品自体の魅力の少なさにある。

しかし、MGはタイの巨大コングロマリット、CPグループの支援を受けており、また中国政府が所有する国有企業、上海汽車の傘下でもある。資金力の強さは無視できない要素だ。

MGによると、販売後のサービス拠点はタイ周辺に130箇所以上用意されているそうだ。もっとも、製品の信頼性に関しては、実際に発売されてから顧客の手に渡り、数年後にならないとはっきりとは分からない。

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カオヤイで開催されたエクステンダーの発表会で試乗を行ったのだが、タイのユーザーに受け入れられるためにはまだ足りない部分もあった。今回試乗したのはダブルキャブの最上級グレードで、4WDのAT車だった。

まずはエクステリアから見てみよう。エクステンダーのフロントデザインにはMGらしさがある。ただ、フォード・レンジャーほどの迫力はないし、迫力こそピックアップトラックに求められるデザイン要素だと思う。

なにより、MGが用意しているのはレジャー用に使われることの多いダブルキャブとエクストラキャブだけで、仕事用のレギュラーキャブが設定されていないだけに、デザインは重要となってくるだろう。

とはいえ、内装はそれなりに完成度が高く、競合車と比べても見劣りはしない。ステアリングやシフトレバー、スイッチ類、ドアハンドルなどよく触れる場所の質感は高い。それ以外の場所には基本的に硬いプラスチックが多用されているのだが、試乗した102万9000バーツの最上級グレードにはソフトな材質も使われていた。

フォード・レンジャーや三菱 トライトン同様、エクステンダーの上級グレードにも運転支援装備がしっかり付いている。ただ、コストパフォーマンスを考えると、さらに15万バーツ安い中級グレード(2WD/AT)を選ぶのがベストだろう。

エクステンダー最大のセールスポイントは居住性の高さだろう。ダブルキャブ仕様はリアシートがかなり広く、シート自体もクッション性が高くて背もたれの角度も適切なので、座り心地はセダン並みに良好だ。

また、四輪ディスクブレーキが採用されている点も特筆に値するだろう。実際、制限速度からの制動距離はかなり短く感じた。トラックゆえにあくまで道具ではあるのだが、制動力が高いほうが安心なのは確かだ。

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ハンドリング性能に関してはまだ改善の余地があると感じた。低速でのコーナリングであっても、ステアフィールは曖昧だ。エクステンダーには油圧式ステアリングが採用されているのだが、ベースとなっている他市場向けの上海汽車のマクサス T70には電動パワーステアリングも採用されている。

2.0Lディーゼルターボエンジンの性能も物足りなく感じた。試乗車のトランスミッションは6速ATで、より低価格な2WD車にはマニュアルトランスミッションも設定される。最高出力は163PS、最大トルクは38.2kgf·mと控えめで、競合車と比べると遅く感じる。

ただ、最大トルクは1,500rpmから発揮されるため、低速域から中速域での性能はオンロード、オフロード問わず高かった。エンジン性能の向上は技術的にそれほど難しいことではないのだろうが、そうするとただでさえ微妙な燃費性能(12.7km/L)がさらに悪化してしまうかもしれない。

エクステンダーはボディサイズもちょうど良いし、エンジンの排気量も真っ当だ。しかし、タイ市場で戦っていくためにはさらなる洗練が必要となってくるだろうし、現時点の完成度ではなかなか厳しい。

しかし、中国の自動車メーカーは新技術の採用に積極的だし、他の自動車メーカーと比べてマイナーチェンジの頻度も多いので、MGにその気があれば、エクステンダーもすぐに改良されるのかもしれない。