Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェームズ・メイがに英「The Sunday Times」に寄稿した電動化をテーマとしたコラム記事を日本語で紹介します。


Model S and MIRAI

私はテスラを購入した。世界の車好きからはブーイングが巻き起こることだろう。実際、電気自動車は退屈だ。テスラのオーナーはスーパーチャージャーにたむろしてテスラについて語り合う。

我々車好きが車について語り合うとき、その話題は最高出力や0-100km/h加速についてだ。ところが、テスラオーナーが語り合うのは、エネルギー消費量や航続距離、充電時間、政府の補助金についてだ。こんな話題は決して男らしくなどない。スティーブ・マックイーンには決して似合わない話題だ。けれど、彼はきっと私の電動バイクを気に入ってくれるはずだ。

私は、未来の車は電気モーターによって駆動するべきであると考えている。もちろん、世の中には「ピストンやマニュアルトランスミッションのない車には魂がない」と主張している人がいることもよく分かっている。

しかし、自動車(そもそも、内燃機関を搭載する自動車よりもモーターを搭載する自動車の歴史のほうが長い)により適しているのはエンジンよりもモーターだろう。モーターは小型軽量だし、滑らかで信頼性も高く、出力・トルク特性も優れている。製造も簡単だし、メンテナンスもほとんど必要ない。なにせ19世紀の人間にすら作れたのだから。

にもかかわらず、これまで電気自動車が普及してこなかった理由は、電気を貯蔵する適切な手段がなかったからだ。しかし、今はスマートフォンに搭載されているようなリチウムイオン電池の巨大版が使える。私が購入したモデルSの航続距離は現実的には480km程度だ。充電は私がパブに行っているときや寝ているときにガレージで行えばいい。

しかし、バッテリー電気自動車 (BEV) が正解とは限らない。水素燃料電池車というタイプの電気自動車もある。こちらのほうが現実的には使いやすそうだ。そう考え、私はトヨタ MIRAIを借りたこともある。これは現時点で市販されている数少ない燃料電池車(他にはホンダとヒュンダイがある)のうちの一台だ。

燃料電池車にはバッテリーの代わりに発電機が搭載されている。圧縮水素と空気中の酸素を反応させることで電気を発生する。科学者たちの間でも、我々が生み出したクリーンなエネルギーをどのような形で貯蔵するべきなのか(水素分子として貯蔵すべきなのか、電子としてバッテリー内に貯蔵すべきなのか)議論が絶えない。

バッテリーの充電時間は依然として長く、それはテスラのスーパーチャージャーを使ったところで変わらない。しかも、スーパーチャージャーが満員で使えなかった場合は、自宅のコンセントに繋いで数日間待ち続けなければならない。これは今後の大きな課題だ。

MIRAIは普通の車と同じようにポンプを使ってわずか数分で水素を充填することができる。しかも、航続距離はテスラとそれほど変わらない。ただし、イギリスには水素ステーションがかなり少なく、思わぬ場所で水素が尽きてしまったらどうすることもできなくなってしまう。なので、MIRAIを運転しているときは常に不安がつきまとった。

そもそも、どうして最近の私は電気自動車ばかり乗っているのだろうか。正しい未来を選択するためには実験が必要だ。私はその実験に参加したいと思っている。私は車好きだし、だからこそ車の未来を知りたいと思っている。幸いにも、私は車の未来に向けての実証実験に参加できる立ち位置にいる。正直、嬉しいとさえ思っている。

車が発明されて以来、今ほど車の研究が盛んになったことはないだろう。ある日突然、自動車に関する根本的な議論が巻き起こった。自動車の動力源、自動車の使い方、作り方に関する議論が起こり、自動車の存在是非すらも問われるようになった。中でも議論が盛んなのが動力源についてだ。

私は車が好きだ。車を運転するのが好きだ。そしてこれからも、ずっと車を楽しみ続けたい。私は新しい技術の実験に参加することもできるし、直列6気筒エンジンに固執しつづけることもできる。未来は不確かだ。しかし、何事にもいずれは終わりが来る。