Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ベントレー・コンチネンタルGT コンバーチブルの試乗レポートです。


Continental

私は耳が悪い。医者いわく、私の右耳の聴力障害は「重篤」らしく、実際、テレビを見るときには字幕をオンにしている。『Who Wants to Be a Millionaire?』の収録で解答者が小声で何かを呟いたときには適当に返事をすることもある。小声で喋っていただけで最高賞金を獲得する挑戦者も現れるかもしれない。

難聴は人を怒らせる。脚を失った人、目を失った人を見ると、誰もが同情してお茶を奢るだろう。しかし、相手の言っていることを聞き取れずに聞き返すと、まるで初期の音声認識を相手するかのような大声で返される。

先月、ロイヤル・アルバート・ホールに10ccの公演(音が小さくて聞き取れなかった)に行ったのだが、一緒に行った友人の言葉を聞き取れずに叩かれてしまった。友人が私に聞こえるように叫ぶと、今度は隣の客から静かにしろと怒られてしまった。

先週末はパーティーに行った。ダンスフロアのスピーカーの中に頭を突っ込むことで音楽を楽しむことができた。しかし、しばらくすると、歯医者のドリルと古い目覚まし時計のアラームが共鳴するような不快な音が私を襲った。

先日、ロンドンまでベントレー・コンチネンタルGTコンバーチブルを運転したときにも問題が起こった。5,950ccのエンジンは10ccかと思うくらいに静かだった。ベントレー独特のW型12気筒エンジンはかなり滑らかだったし、風切り音もほとんど感じなかった。ルーフからは少し音が聞こえたのだが、それくらいだった。

しかし、タイヤだけはまったく違っていた。現代の車が発する騒音のほとんどはタイヤのトレッド部分に空気が入り込み、圧縮されることによって発生するのだが、コンチネンタルの騒音もほとんどがこれだ。しかも、コンチネンタルではホイールアーチ内でこの音が反響しているようだった。

この騒音の音域は非常に不快で、耐えられそうになかった。CIAが拷問に使うホワイトノイズと同種の音であり、この音を避けるために私は耳にティッシュを詰めることにした。

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当初、これはベントレーの設計ミスによるものだと思い、NVH部門の発売前のチェックが甘いと批判しようとした。ところが、その後は自分のレンジローバーに乗っても、BMW i8に乗っても、アウディ TTに乗っても同じような音を感じた。ダンスフロアで4,000Wのスピーカーに頭を突っ込んだせいで、ティッシュなしでは高速道路で運転できなくなってしまったようだ。

なので、ベントレーの本当の問題点について語ることにしよう。低速域(街中など)では1速から2速への変速がかなりギクシャクしてしまう。明らかに何らかの設計ミスだ。

ただ、欠点ひとつだけを論って車全体をこき下ろすのは不公平だろう。朝食時にウェイトレスがコーヒーカップを落としただけで、ホテル全体を批判するようなものだ。コンチネンタルはこの問題を無視すれば完璧な車だ。

一見すると旧型と何も変わっていないように見えるかもしれないが、中身はまったく違う。フロントアクスルは前方に移動し、フロントオーバーハングが短くなってエンジンの搭載位置が低くなっている。フロントウインドウの傾斜はさらに急になり、見た目はかなり良くなっている。

コストパフォーマンスも高い。オプションを馬鹿みたいに装備すればかなり高くなってしまうのだが、ベース価格はわずか176,000ポンドだ。これはアストンマーティン DB11やフェラーリ・ポルトフィーノと同価格帯であり、メルセデスと比べてもそれほど高いわけではない。

どの車も、コンチネンタルGTほどの特別感はない。あちこちに不必要なステッチが施され、どこもかしこも光り輝き乱舞している。成金趣味とはまさにこのことなのだが、これは他でもないベントレーだ。それを批判する意味などない。

私は普段、プレーンでシンプルなものを好む。しかし、私はコンチネンタルGTを気に入った。ベントレーの競合車に乗ってもファーストクラスの経験を味わうことはできるのだが、コンチネンタルGTはいわばポルノスターのガルフストリームVだ。きっと誰もが、心の奥底ではベントレーを欲しているはずだ。しかも、来年登場予定のV8モデルならもっとずっと安く手に入れることができる。

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現時点では重量級のW12しか購入できない。しかし、重さが走りに悪影響を与えているわけではない。実際の車重は大半のブラックホールよりも重いのだが、走りはかなり機敏だ。9歳の子供のように走らせることすらできる。

音すらも魅力的だ。スポーツモードにしてシフトアップすると遠くから轟音が聞こえてくる。まるで怒ったサンカノゴイだ。

最近ではメタルルーフが好まれなくなり、ベントレーもキャンバスルーフを採用している。ルーフを開けて運転すると、近くの歩行者の声も聞こえてくる。具体的に何を言っていたのかはよく分からないのだが、きっと「ベントレーに乗ってるあの男、いい男じゃないか」とか、「ペニスがデカいに違いない」とか言っていたのだろう。

私は4シーターのオープンカーがあまり好きではない。そんな車に何の意味があるのだろうか。オープンカーの後部座席が似合う人間などヒトラーくらいしかいない。しかし、コンチネンタルGTCは4シーターなどではない。リアシートには小さな子供しか座れないし、荷室も同様に狭い。子供が14歳を超えたら乗せることはできなくなる。

ベントレーの担当者が試乗車を回収するときは悲しさすら感じた。コンチネンタルは昔のニューポート・パグネル工場で手作業で製造されていたアストンマーティン・ヴァンテージ ヴォランテを彷彿とさせる車だった。『リビング・デイライツ』でティモシー・ダルトン演じるボンドが乗っていたモデルだ。

どちらもイギリスの乱暴者だ。もっとも、ベントレーはドイツ車だ。しかし、それも美点だ。