英国「PistonHeads」によるフォード・フォーカスST、フォルクスワーゲン・ゴルフ GTI TCR、ルノー・メガーヌ R.S. トロフィー、ヒュンダイ i30 Nの比較試乗レポートを日本語で紹介します。


Comparison

4代目フォーカスSTに関してはまだ分からないことがたくさんある。サーキットでの走りが素晴らしいことは分かっているのだが、公道での走りはまだよく分からない。いずれにしても、まだ評価を固めることはできていなかった。なので今回、詳しく見てみることにしたい。

今回はピーク・ディストリクトで3台の競合車とともにフォーカスSTの実力を試すことにした。その3台とは、メガーヌ トロフィー、ゴルフGTI TCR、i30 Nだ。同じ天候、同じ道路状況において比較することにより、それぞれの強みと弱みをはっきりと理解することができるだろう。

まずはこの3台を選んだ理由を説明しよう。メガーヌは現在販売されているホットハッチの中でもかなり本格的で尖った一台だ。ゴルフGTI TCRは上質で成熟した扱いやすいモデルだ。i30 Nは昔のフォーカスSTのような車で、コストパフォーマンスが高く、音は騒々しく、やや粗さはあるものの、とても楽しい車だ。

シビックがいないことを疑問に思う読者もいることだろう。シビックも間違いなく優秀なホットハッチなのだが、見た目がすべてをぶち壊している。見た目が気に入らなければどんな美点も意味をなさない。それでも良い車であることは間違いないのだが、今回は除外することにした。

まずは延々と続く退屈なM1をSTのレカロシートに抱えられながら進んでいくことにしよう。このシートはフィエスタほどタイトではないのだが、十分な安心感がある。ロンドンからリーズを結ぶ高速道路にはシートのホールド性が要求されるような場面はないのだが、シートの快適性も十分に高い。現代の車らしく、路面と切り離されるような感覚になってしまう点は残念だったのだが、少なくとも安心感はある。

月曜の夜に目的地に集合し、他の評論家とホットハッチについて語った。ニックはゴルフのDSGの鈍さについて文句を言っていた。ダフィズはi30 Nにある1,944通りもの走行モード野中で好みのものを見つけたらしい。サムいわく、メガーヌは街中では扱いづらいものの、集中して運転すれば楽しめたそうだ。いずれにしても、M1での旅程はどのホットハッチにとってもあまり楽しいものではなかったようだ。

翌日の火曜日は天候が悪化し、まるで6週間分の降水量が24時間に集中したような荒れっぷりだった。窓やタイヤに激しい雨が当たり続けた。しかしどうあれ、早速乗り比べてみることにしたい。

車好きならi30 Nの魅力に抗えないだろう。少し運転しただけでも笑顔になってしまう。この車の開発陣は車好きのツボをしっかりと押さえている。レッドゾーンはBMW Mのモデルのように油温に応じて変化し、LSDは見事なグリップ性能を発揮し、マフラーからは陽気な排気音が聴こえてくる。運転に没頭し、運転を楽しむために作られた車であるということが分かる。現代の車が忘れかけている過去の理想を実現している。

ゴルフはヒュンダイの後に乗ったので凡庸で穏やかに感じるだろうと予想していたのだが、その予想は裏切られた。確かに走りは洗練されていたのだが(TCRの排気音は驚くほど穏やかだった)、4台の中で最も軽く、出力もメガーヌと10馬力しか差がないので、その性能は圧倒的だった。TCRにはDSGしか設定されないのだが、他の3台が6速MTなのに対してTCRは7速だし、EA888型エンジンは非常に力強く、加速性能は非常に高かった。

Megane and Focus

それに、ゴルフGTIの扱いやすさは今回のような悪天候では有利だった。ステアリングは車速感応式なのだが、今回の4台の中では最も優秀で、他の車(特にメガーヌとフォーカス)と比べて路面状況を読みやすかった。最もアグレッシヴなスポーツモードでもダンピング性能は高く、他の3台よりもずっと快適だった。

他の3台よりも軽い(フォーカスより100kg近く軽い)ため、アジリティが非常に高いし、シャシをやたら複雑に設計する必要もない。操舵は思い通りで正確だし、かといってつまらないわけでもない。登場から7年が経過しているのだが、ゴルフの実力はまだ色褪せていない。

ただし、欠点もある。フォルクスワーゲンは「レースにインスパイアされたモデル」と表現しているのだが、その走りはそれほど刺激的ではない。電子制御式フロントディファレンシャル「VAQ」はウェット路面では他の3台ほど効率的に路面に駆動力を伝えられないし、ホイールスピンが起こるとマニュアルモードであっても必要以上に早くシフトアップしてしまう。

DSGゆえに運転時の車との一体感は削がれてしまうし、DSG自体の性能も特別優秀なわけではない。それに、快適性の高さの代償として、極限状態では緩さが出てきてしまい、操作性に物足りなさを感じることもある。とはいえ、ゴルフは非常に優秀な車だし、それほど集中して運転しなくても十二分な性能を発揮してくれる。もっとも4万ポンド近い価格であればそれも当然なのだが。

一方、メガーヌに乗るとアドレナリンが放出され、目を開ききって運転できる。ウェット路面ではかなり荒々しく扱いづらいのだが、小雨になるとメガーヌの本領が発揮される。ルノーいわく「日常的に使える車」らしいのだが、メガーヌの走りには他にはない強烈さがあり、それこそがメガーヌの魅力だ。

四輪操舵システムには賛否両論あるし、実際挙動が怪しくなることもあるのだが、慣れればそれほど問題にはならないだろう。トレッドも広く、スタビリティは非常に高いので、コーナーを切り込むように安定して抜けることができる。レースモード(ESCオフ)では100km/hまで4WSが逆位相操舵となり、かなり俊敏な走りを実現している。

ステアリングのフィードバックはかなりあり、ダンパーはゴルフよりも優れた操作性を実現している。小さな凹凸の続く路面にはそれほど強くないのだが、大きめの衝撃には強く、しっかりといなしてくれる。LSDはグリップをしっかり確保してくれるし、音も良く、見た目も魅力的なので、メガーヌの運転はなかなか印象的な経験となった。

そんなメガーヌのあとに乗ると、i30 Nが少し古臭く感じた。メガーヌと比べると(十分に速い車ではあるのだが)速くはない。しかし、その古臭さが問題になるようなことはあまりない。重要な部分はしっかりと作り込まれている。

走行モードはかなり多いのだが、どれを選んだとしても車の状態は手にとるように分かるし、性能を発揮するのも難しくない。一旦自分の好みのモードに(エンジンとディファレンシャルをハードに、シャシをしなやかに)カスタマイズしてしまえば、後はそのまま楽しむだけだ。

Golf and i30

i30は他の3台よりも小さく感じるので、より自信を持って運転することができるし、多少無理しても耐えられそうなタフさを感じる。i30の走りはゴルフよりも直感的だし、メガーヌほど演出過剰でもなく、ちょうどいい塩梅になっている。

では、この3台にフォーカスはどのように戦っていくのだろうか。まずは問題点を挙げてみよう。フォーカスは他の3台とは違い、走行モードを細やかにカスタマイズすることはできない。ノーマルモードは基本的にちょうどいいセッティングなのだが、排気音は物足りず、排気音が魅力的なトラックモードだとサスペンションが硬すぎる。メガーヌと比べるとブレーキがやや滑らかさに欠ける。ゴルフと比べるとステアリングが過敏すぎる。i30と比べると車内の使い勝手が悪い。

しかし、フォーカスにはフォーカスにしかない魅力がある。トラクション性能は4台の中で圧倒的なので、自信を持って早いタイミングから加速をはじめることができる。10年前、フォーカスRSは高性能FF車のベンチマークだったのだが、このSTはウェット路面や悪路では当時のRSよりもずっと速いだろう。4WDの新型RSが登場したとしても、STに大きな差をつけられるとはなかなか思えない。

正確性も高く、シャシはi30よりバランスが良く、どんなコーナーでも落ち着いて抜けることができる。メガーヌほど殺気立って運転する必要はないのだが、メガーヌに近いレベルの楽しさを実現している。走行性能や楽しさではゴルフを優に超えている。ブレーキ、ステアリング、スロットル、いずれも従順で正確だ。

トルクは低回転域からしっかり発揮される。これはサーキットよりも日常使用時に役立つ。中回転域で力強いため重さを感じさせない。最大トルクは他の3台より高いのだが、前輪はそれにしっかり対処できている。

ルノーの尖りとゴルフの落ち着きとヒュンダイの楽しさを見事にバランスさせたフォーカスSTこそ、この4台の中で最も優秀なホットハッチと言えるだろう。欠点がないとは言えない(内外装は平凡だし、レブマッチ機能は扱いづらい)のだが、フォードの総合力の高さ、シャシ性能の優秀さや個性溢れる走りは魅力的だ。

次点に選びたいのはメガーヌだ。楽しさという指標だけで選ぶならメガーヌが一番なのだが、妥協すべき点も多い。本気で走らせたとき、他では得られないほど楽しいのだが、普通に運転しているときには乗り心地の悪さや扱いづらさに耐えなければならない。その点、フォーカスは楽しさと扱いやすさを見事に両立している。

i30 Nはコストパフォーマンスが非常に高く(ゴルフより1万ポンド以上も安い)、2位のメガーヌとも接戦だった。ヒュンダイには欠点が少ないし、比較的安価にこれだけの性能を得ることができる。ただし、エンジンは弱点で、特に限界域での性能は上位2台に劣る。とはいえ、i30 Nが優秀なホットハッチであることは間違いない。

同様にゴルフも優秀なホットハッチなのだが、価格を考えるとどうしても減点せざるをえない。今回のテストではTCRよりもクラブスポーツSを選んだほうが健闘しただろう。TCRにはクラブスポーツSにある魅力が完全には与えられなかった。今回はフォーカスの勝利という結論となった。しかしそうなるとシビックとの比較も気になってしまうが…。