米国「Car and Driver」によるリンカーン・アビエーター(2020年モデル)の試乗レポートを日本語で紹介します。


Aviator

そろそろ2020年になるのだが、残念ながら今回紹介する新型車、リンカーン・アビエーターは空飛ぶ車ではない。我々人類同様、アビエーターも地に足の着いた車だ。しかし、ここ数年間で凋落の限りを尽くしたリンカーンが飛び立つための”翼”になれるのかもしれない。

アビエーターはいかにもアメ車的な巨大さで、ナビゲーターと比べても見劣りしない。406PSのV6ツインターボエンジンの性能にも不足はないし、なにより見た目に高級感がある。

先代モデルのMKTは前輪駆動ベースで、見た目の高級感に欠けていた。リンカーンはMKTとは決別し、エンジンを90度回転させて後輪駆動レイアウトへと転換した。ただし、基本設計はエクスプローラーと共有しているので、依然として化粧をしたフォードであるという点は変わらない。しかし、見た目の共通性はほとんどないし、この点はあまり問題にならないだろう。

3.0LツインターボV6エンジンはアビエーターの魅力のひとつだ。最高出力406PS、最大トルク57.4kgf·mを発揮し、カタログスペックで競合車を圧倒する。定速巡航時にはかなり穏やかで、エンジンの存在を忘れさせてくれる。しかし、ひとたびアクセルを踏み込めばV6のうなりとともに飛ぶように加速していく。

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フォード製の10速ATは登場以来進化を続けており、アビエーターでも進化が感じられた。アビエーターの変速は正確で滑らかだ。

V8エンジンは設定されないのだが、代わりに13.6kWhのリチウムイオン電池を搭載するプラグインハイブリッドがオプション設定されている。価格は69,895ドルで、最高出力は501PS、最大トルクは87.1kgf·mまで向上するのだが、車重は350kg程度増加する。ただし、バッテリーは床下に搭載されており、床下収納やスペアタイヤの搭載スペースも犠牲になっていない。

ベースグレードの価格は52,195ドルで、通常のダンパーが装備される。中級グレードの「Reserve」は全車4WDで、アダプティブダンパーが標準装備される。ダイナミックハンドリングパッケージを選択すると、電子制御ダンパーが15m前方まで検知するカメラと連動し、地形に応じてセッティングが変わるようになっている。このオプションには可変ギアレシオステアリングやエアサスペンションも含まれる。

このサスペンションの効果は高く、コーナーでは安定しているし、ドライバーの意図通りの走りをしてくれる。ただし、そこには代償も存在する。舗装の種類によってはやたら挙動が不安定になることがある。

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他の高級車同様、アビエーターにも運転支援装備やコネクティビティ装備が満載されている。ただしリンカーンの場合、こういった装備がやたら複雑なわけではないので使いやすい。ボタン式のギアセレクターや素直に操作できるタッチスクリーン、物理スイッチのエアコン操作系、それに自分の携帯電話を鍵として使える機能など、先進的でありつつも、無意味な複雑さはない。

3ウェイパワーシートや28スピーカーのREVEL ULTIMAオーディオシステム、Black Labelインテリアなど、贅沢装備も充実している。ただし、Black Label以外のインテリアは場所によっては高級車とは思えない部分もある。

リンカーンは3列目シートの居住性よりも荷室を優先したようだ。3列目はクッションが薄く、着座位置もやたら低いし、レッグルームも乏しい。3列目は米袋に座るよりかろうじて快適な程度で、閉塞感もある。その代わり、その後ろの荷室は広く、子供用のリュックサックやスポーツバッグなら4個は載せられる。

1列目と2列目の座り心地は非常に良い。アビエーターは静粛性が高く、それでいて必要に応じて飛ばすこともできる。オプションでマッサージシートを装備することもできるし、見た目に高級感があるので威張り散らすことだってできるだろう。その巨大さを持て余すこともあるだろうが、それでこそまさにアメリカの高級車だ。