Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、メルセデスAMG GT63S 4MATIC+のレビューです。


AMG GT63S

今の世代は昔よりもずっと劇的に変化している。私の子供世代は私の世代と何の共通点もない。

昔、子供は小さな大人でしかなかった。大人はネクタイを締め、老人はフランネルのズボンを穿くくらいの違いしかなかった。親も子も同じ音楽を、同じラジオを聴いていた。親子は一緒に木の棒で遊び、移民や労働運動に対する意見も親子で共通していた。

1950年代になると世代間の差が少し出てきて、「ティーンエイジャー」という言葉が取り沙汰されるようになった。この言葉が出回ることで、子供と大人の違いが許されるようになった。子供世代はローリング・ストーンズを聴き、猫背で椅子に座っていた。

子供の頃、私が聴いていた音楽を父親に聴かせると拷問でも受けているかのような表情になった。私が穿いていたタイトなパンタロンを見て、そんなに睾丸を締め付けたら子供を作れなくなると怒っていた。

しかし、私は父親になった。私の子供世代は宇宙人かと思うくらいに私世代とは違っている。私世代と子世代の共通点は私とハサミムシの共通点よりも少ない。確かに、子世代も私と同じように英語を話している。しかし、その英語は意味をなしていない。同様に、若者からみたら我々の英語の意味も分からないだろう。

今の若者も酒は飲むのだが、適度な量しか飲まない。万が一飲み過ぎたら自戒のためにランニングをする。確かに私もランニングをしたことはあるのだが、それは学生時代に強制されたからだ。しかも私の場合、校門を出たあたりで走るのをやめ、物陰に隠れて1時間ほど煙草を吸い、それから飛び跳ねて靴に汚れをつけてから教師の元へと戻っていた。

若者は木製のボトルを持ってジムに行くこともある。週末には散歩に出かけて、出先ではレイシストにならないためにはどうすべきかを、ストローの素材には何を使うべきかを議論する。

若者は我々世代が地球を殺したと信じ切っている。私がやったことといえばパブに入り浸っていたことくらいだと説明しても誰も信じてくれない。我々世代がEUの離脱失敗を招いたと非難し、若者世代が投票に行かなかったことが問題だったのだと反論しても涙を流して耳を塞いでしまう。

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若者はいつでも涙を流している。ドナルド・トランプが何かを言うたびに涙を流し、難民がやってくるたびに涙を流し、牛が死ぬたびに涙を流す。ハリケーンが発生するたびに、何らかの不正が明るみに出るたびに、若者たちは涙を流している。

私達が育てた若者世代には問題に対処する能力が存在しない。ひょっとしたらパンタロンで睾丸を締め付けていたのがいけなかったのかもしれない。そしてここからが車の話だ。我々世代は子供の頃からずっと車が好きだったのだが、若者世代は違う。男子はサッカーに夢中で、女子はSNSに夢中だ。

若者にとって自動車とは、スマートフォンを見ながら歩いているときに自身を攻撃してくるものでしかない。車はうるさくて汚く、アザラシを、そしてすべての動物を殺す存在だ。議論の余地など存在しない。気候変動もすべて車のせいだ。

当然、広告代理店もこの現実を理解しており、今の30代未満向けの自動車の広告にはカヤックや少数民族や自転車や路面電車ばかりが登場している。

こういったライフスタイル広告は今にはじまったものではない。しかし、製品自体とはまったく関係ないライフスタイルだけを前面に出した広告というのは前代未聞だ。航空会社が(ディーゼルエンジンを搭載した)ヨットで大西洋を横断したスウェーデンの少女の功績を褒め称えるような話だ。

現在放送中のメルセデスのCMの話をしよう。そこにはランニングをする人、自転車に乗る人、泳ぐ人、ジムに行く人が登場する。しかも、登場人物の中には脚が2本ない人もいる。若者はこういう題材が大好きだ。しかし困ったことに、若者たちはそもそも広告の主題である巨大な4WD車には興味がない。

環境保護の申し子である若者世代向けの映像を使って、いったいどうしてAMG GT63Sのような車のCMを作ろうなどと考えたのだろうか。これはポルシェ・パナメーラ ターボの競合車で、メルセデスの中でも最もパワフルなモデルだ。

最高出力639PS、最大トルク91.8kgf·mを発揮するため、巨大な重量級ボディをわずか3秒ちょっとで100km/hまで加速させることができる。要するにこれは、広告のメインターゲットである30代未満の世代を怒らせるための車だ。

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しかし、私はこの車が大好きだ。レースモードにしてローンチコントロールを作動させると、爆音とともに信じられないような加速をしていく。そしてそのまま、加速はずっと続いていく。ドライの直線路面でさえ、トラクションコントロールがずっと働き続けている。四輪すべてが駆動しているにもかかわらずだ。

ときにターボラグを感じることもあるのだが、デジタルメーターを見ればいつターボが作動するのかもちゃんと分かる。それまで待つ価値も十分にある。この車の加速はそれほどに魅惑的だ。

操作性も高い。ボディサイズはオイルタンカーと同等なのだが、コーナーを走るともっと速く抜けられたのではないかと直感する。実際、もっと速く走るのは可能だろう。

当然、サスペンションの硬さを変えることはできるし、それどころかドリフトをするためのモードすら存在する。そして、モード選択を正しく行えば、なんとニュルブルクリンクを7分25秒で走る抜けることができる。これよりも速い4シーターは存在しない。

GT63Sはハイパーカーのように速く、レーシングカーのように鋭いのだが、驚くべきことにコンフォートモードにすると静かで穏やかなグランドツアラーに変貌する。乗り心地は非常に良く、リアには大人2人が座れるだけのスペースがあるし、トランクも広い。センターコンソール内の収納スペースも広大で、あまりに広いのでその中に置いた財布が3日間見つけられなかった。これを活用すれば一家族くらいなら密入国させることができるだろう。

欠点もある。私はピラーレスドアが大好きなのだが、この車の見た目は好きになれない。単純に見た目が良くない。それに、インフォテインメントシステム操作用の”マウス”は使いづらい。

しかし、最大の問題点は燃費の悪さだ。もしこの車を購入したら、自分の子供世代からは二度と口を利いてもらえなくなるだろう。なので、今後登場が噂されている800馬力モデルを待つのも手かもしれない。こちらのほうがきっと速いだろうし、ハイブリッドなので子供達もきっと気に入ってくれるだろう。