Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、レンジローバーヴェラール SVオートバイオグラフィー ダイナミックエディションのレビューです。


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自動車業界はおよそ100年間にわたり、自動車製造技術向上のために尽くしてきた。今世紀に入る頃には、自動車製造技術はかなり熟成された。ところが、どういうわけか車に変化が求められるようになった。より背が高く、より環境に優しく、より燃費が良い車が求められるようになり、それどころかドライバーのいらない自動運転車まで求められるようになった。

その結果、世界の自動車メーカーは動揺を隠せない状況となり、右往左往している。おかげで各メーカー揃って衰退の一途を辿っている。

アストンマーティンは利益目標を引き下げた。テスラは損失が積み上がり、株価が下落している。日産は世界で12,500人ものリストラを決定した。ヴォクスホールのイギリス事業は大幅に縮小している。こんな事例は他にもたくさん起こっている。

この原因は、数多くの国々がガソリン車やディーゼル車の販売を将来的に禁止するということを発表したことにある。この結果、自動車メーカーは電気自動車開発に投資せざるをえなくなった。

自動運転の開発も非常に難しく、大手自動車メーカーのフォードとフォルクスワーゲンが手を組まざるをえなくなった。フィアット・クライスラーとルノーも互いに協力を検討している。

このような技術開発に多額の資金が投入されているのだが、そうして作り出された製品を購入する人間はほとんどいないだろう。バッテリー技術はまだ未熟だし、現状ではあまりにも高額で、航続距離も大して見込めない。

自動車業界にとって、今の時代は悪夢以外の何物でもない。大気汚染のことしか考えていない人間が考え出したビジネスモデルで会社を運営しても、本当の消費者にはそっぽを向かれてしまう。

イギリスにおける2019年6月のハイブリッド車および電気自動車の販売台数は12%も減少した。プラグインハイブリッド車の販売台数に至っては前年比で半減している。はっきり言ってしまうが、自動車メーカーが今、大金をかけて開発せざるをえなくなっているのは、消費者が必要としていない技術だ。

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消費者が本当に必要としているのはSUVだ。ヨーロッパにおけるSUVの販売台数は18%も増加している。ジャガー・ランドローバーを擁するイギリスにとっても良い話のように思える。ノッティング・ヒルに行っても、コッツウォルズに行っても、どこへ行ってもレンジローバーがいる。どの駐車場もレンジローバーでいっぱいだ。もはやレンジローバーは車ではない。国民の制服だ。

レンジローバーは決して安い車ではない。最上級モデルは10万ポンドを超えるし、利益率もかなり高いはずだ。にもかかわらず、ジャガー・ランドローバーは見事なくらい金を失っている。2019年の第1四半期には分速3,200ポンドで金が消えている。

この原因は中国市場の不振とディーゼル依存にあると言われているのだが、そんなはずはない。ジャガーは大金をかけて素晴らしい電気自動車を生み出したのだが、ジェームズ・メイのような人間しか気に入らなかったし、それを気に入った人も結局購入するのはテスラだ。

SUVにより失った金を取り戻そうとしても、今度はブレクジットという問題が立ちはだかる。もし200%の関税がかけられるようになったら、誰がレンジローバーなど購入するのだろうか。

そんな中、今回はレンジローバーのレビューを行いたい。今回の主題は、レンジローバーヴェラールの高性能版、SVオートバイオグラフィー ダイナミックエディションだ。私はこの車が気に入った。

ただし、すべてを気に入ったわけではない。最近のランドローバーのシートを設計している人が誰かなど知らないのだが、その人は丸椅子の座り心地でも満足できるような人なのだろう。例えば、ディスカバリーの後部座席はおぞましいほど座り心地が悪い。子供が嫌いならディスカバリーの購入をお勧めする。

ヴェラールのシートはディスカバリーほど酷いわけではないのだが、それでも硬すぎる。しかも、シートベルトの高さ調節もできないし、ボディサイズを考えればリアのレッグルームも狭い。

ダッシュボードはガラス製で、最新の旅客機のように美しい。しかし、何かを操作しようとすると問題が起きる。例えばエアコンの温度を調節しようとすると、誤ってスクリーンの別の場所に触れてしまい、エコモードになり、ナビの目的地がポンテクラフトになってしまう。困ったことに、この車には最小でも21インチのホイールが装着される。そのため、乗り心地はかなり硬い。おかげで誤操作の危険性はさらに増す。

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価格はオプションなしのベース価格で86,685ポンドもする。私が試乗した車には22インチホイールやプライバシーガラスなどが装備されており、なんと10万ポンド近い値段だった。この金額であれば本物のレンジローバーすら購入できる。

しかし、ヴェラールには合理的な判断を揺るがすような何かがある。その理由のひとつが見た目だ。全盛期のダリル・ハンナのようなものだ。彼女はシーシェパードを支援するような怪しい価値観の持ち主なのだが、うっかりしていると彼女の魅力に取り憑かれてしまう。

私にはヴェラールなど必要ない。けれど私はヴェラールが欲しい。もし私が買うなら、このモデルを購入するだろう。なぜなら、スーパーチャージャー付きの5L V8エンジンは最高出力551PS、最大トルク69.3kgf·mを発揮するからだ。おかげで0-100km/h加速4.5秒を記録し、けたたましい排気音とともに274km/hまで加速することができる。これがレンジローバーとは、とんでもない話だ。

しかも、ヴェラールの操作性は優秀だ。乗り心地の悪さや誤操作の嵐と引き換えに、ワインディングロードでの歓びを得ることができる。それだけでなく、制動性能も高い。

オフロードも走らせてみたのだが、ちょっと走っただけでアスファルトに戻ることにした。周りの草にパーキングセンサーが反応してやかましかったうえに、それを消そうと操作を試みても結局は誤操作してしまったからだ。そもそも、ヴェラールはオフロードに不似合いだ。ちょっとした勾配でフロントバンパーが外れてしまうかもしれない。

ヴェラールはまさに乗用車的な車だ。つまりは都市型SUVであり、これこそ人々が求めているものだ。もう誰も選ばないと言われつつも、実際はほとんどの人が選んでいるガソリンで走り、見た目も最高だ。しかも、製造はコヴェントリーで行われているので、もしイギリスがEUから離脱したとしても、関税を払わずに購入することができる。

いずれはヴェラールこそが最善の選択肢になるのだろう。もしブレグジットを理由にEUがイギリス車に200%の関税をかけたら、同じようにイギリスもEU加盟国の車に200%の関税をかけることだろう。そんな時代、イギリスではヴェラールの競合車がとてつもなく高額になるはずだ。