英国「Car Magazine」によるルノー・メガーヌ R.S. カップ、ホンダ・シビックタイプR、フォード・フィエスタSTの比較試乗レポートを日本語で紹介します。


Fiesta ST vs Civic R vs Megane RS

フィエスタは車格が低く、300馬力には程遠いし、ニュルブルクリンクで前輪駆動車の最速記録を更新しようとしているわけでもない。しかし、ホットハッチ界のアントマンを過小評価するほど我々は愚かではない。

車のレビュー時に出てくる「一般道」は、しばしば日常的に走行することなどほとんどない山道のことだったりする。しかし、今回はもっと現実的な話をしよう。我々がよくテストをするロッキンガムは非常に道が良く、ブレーキから煙が上がることもある。

煙を巻き上げながら運転するのも良いのだが、サーキットでの走りが必ずしも現実世界での走りに直結するとは限らない。もちろん、サーキットでどれだけ速く走れるかという点を重視する人もいるだろうが、それ以上に現実的な速度でどれだけ楽しく移動できるかのほうが重要だろう。

メガーヌRS、シビックタイプR、フィエスタSTの3台がロッキンガムのパドックで息を潜めていた。3台はそれぞれに違った存在感を放っていた。まずはどの車に乗ろうか。

多くの人がメガーヌを選びそうだ。なにより目を引く見た目で、まるで精一杯に化粧をしたAMG A45のようだ。リアフェンダーはメガーヌGTより45mmも広く、ついつい見蕩れてしまうほどに筋肉質だ。それに、じっくり見ても破綻している部分はない。

フォグランプはルノー・スポールのチェッカーフラッグがモチーフとなっており、大きく膨らんだフェンダーも目を引くし、またテスト車には重要な2つのオプションが付いていた。19インチ鍛造アルミホイール(950ポンド)とそこから覗くブレンボのブレーキ(900ポンド)だ。このブレーキはスチールディスクとアルミニウムハブが組み合わせられており、1個あたり1.8kgも軽量化されている。

メガーヌRSと対照的なのがシビックだ。ゴルフRがジキル博士だとすれば、タイプRはハイド氏だろう。好き嫌いは分かれるだろうし、たとえこの見た目を気に入ったとしても、100%好きになるということはないだろう。大きなフェイクのハニカムグリルは車の穏やかさを見事に消し去り、それ以外にもボンネットスクープやウイング、あらゆるエアロパーツがそれぞれに強く主張している。

あるいはグロテスクと言ってしまってもいいかもしれない。しかしながら、滑稽な3本出しの排気管はいかにも走り屋らしく、これこそがホットハッチのオーナーを象徴しているのかもしれない。事実、シビックタイプRを操るためには覚悟が必要となってくる。

アウディ RS3やAMG A45などのドイツ製ホットハッチは400馬力前後なのだが、シビックの320PSでも十分に感じられる。もちろん、シビックのほうが約200kg軽いのだが、理由はそれだけではない。

シビックタイプRの2.0Lエンジンの音は昔の自然吸気VTECと比べると失望するほど平坦なのだが、パフォーマンスは圧倒的で、メガーヌに40馬力以上の差を付けている。0-100km/h加速は5.7秒と5.8秒で両者に差はほとんどないのだが、実際に運転してみるとそれ以上の差を実感する。

Fiesta ST vs Civic R vs Megane RS-2

タイプRはインテリアもエクステリア同様に雑然としている。ステアリングには派手な赤いレザーが使われており、メーターの左右に表示される燃料計と水温計の見た目はまるでタカラトミーのおもちゃのようだ。

ただ、かつてのタイプRと比べると改善している部分もある。シートはサポート性が高く、タイトに感じることもあるのだが、3速コーナーでアクセルを踏み込んだときにはこの恩恵を感じることができるだろう。

タイプRの走りには隙が存在しない。ロールなどほとんど生じず、それでいてマルチリンク式のリアサスペンションは衝撃をしっかりと吸収してくれる。怒りを体現するような見た目とは対照的に、快適性は高い。

タイプRは快適でありながら速く、ステアリングはクイックで正確だし、トルクステアもほとんど生じない。変速は軽くてストロークも短く、欠点はアルミ製のシフトレバーが操作中に滑りやすいことくらいだ。

この車の走りには今の車が失いかけている有機的なフィーリングがある。これはメガーヌにもないものだ。メガーヌはずっと複雑な車で、タイプRほど直感的ではない。シートに座った瞬間からその差は明らかだ。

メガーヌのシートは見た目こそ良いものの、体型によっては十分にサポートしてくれない。メガーヌのコーナリングスピードはシビックに負けず劣らず速いだけに、シビックと同程度のサポート性は確保してほしいところだ。

メガーヌも操作性は非常に高いのだが、サスペンションはシビックほど優秀ではなく、メガーヌではトルクステアがそれなりに発生する。それに、四輪操舵システム「4Control」も厄介だ。メガーヌGTよりはずっと自然になっているのだが、それでも挙動を理解するためには慣れが必要となる。もっとも、慣れてしまえばそこに特別感を抱くこともある。

レースモードでの音にも特別感がある。279PSの1.8Lエンジンの音はコンピューターの力で装飾され、輪郭の立った見事な音を奏でる。あまりに良い音なので、人工的な感じもない。ただし、中央のスクリーンやダイヤル類は安っぽく、まるでIKEAのショールームに置かれているテレビの模型のようだ。

メガーヌRSには他にも問題点がある。走行モードは多すぎるし、6速MTの完成度は低い。ギア比は適切なのだが、操作感が悪いので、2ペダルのほうが良かったと感じることさえある。幸い、シビックタイプRやフィエスタSTとは違い、メガーヌRSではDCTを選択することもできる。

サーキットを走らせるおもちゃとして、メガーヌRSとシビックタイプRは非常に高性能なのだが、果たしてフィエスタはそれとどうやって戦えばいいのだろうか。少なくとも見た目では勝てそうにない。

Megane RS interior

フィエスタも決して地味なわけではない。ハニカムグリルも付いているし、ホイールは1989年のXR2iを彷彿とさせる。トレッドも広く、タイヤを覆うホイールアーチも膨らんでいる。しかし、リアに貼られたSTのバッジ以外、買い物用のフィエスタとの違いを主張するものはほとんどない。LSDやローンチコントロールを追加するオプションのパフォーマンスパッケージ(850ポンド)にも見た目の変化はない。

しかし、その走りは地味な見た目とは対照的だ。コーナーでアクセルを踏み込めばフィエスタは滑りながら進んでいく、ドライバーはついつい笑い泣きしてしまう。巨大なタイヤを履き、過保護な電子制御システムを搭載する最近の車はフィエスタSTのような遊び心を忘れかけてしまっている。しかし、フォードは過保護にならず、ドライバーをちゃんと信頼してくれる。

かといって常に気を張って運転しなければならないわけでもない。スタビリティコントロールをオンにすることもできる。しかし、ドライバーが運転に集中すると、ミニ風のステアリング、短いホイールベース、勇敢な1.5L 3気筒エンジン、操作性の良い6速MTが見事に協調して、最高の走りを見せてくれる。シフトレバーの位置が低すぎるのだけは残念だが。

シビックタイプRとの差は120PSもあるし、0-100km/h加速には6.5秒かかるのだが、決して遅く感じることはない。なぜなら、ちゃんと意図したように加速してくれるからだ。フィエスタSTは世界最高の小型ホットハッチであり、しかもわずか18,995ポンドで買えてしまう。とてつもなくお買い得だ。

しかし、ホットハッチすべての中で最高とまでは言えない。確かにフィエスタSTは非常に楽しいのだが、欠点もある。例えば、乗り心地は従来型よりはましになっているのだが、それでも不快なことに変わりはない。それに、パフォーマンスパッケージのLSDはシビックやメガーヌ、あるいはフォーカスほど効果的ではない。

フィエスタSTはただただ車の運転を楽しむためだけの車であり、脳の容量すべてを運転に注ぐための車だ。駅まで10分間の運転で脳を活性化し、そこからは電車で通勤するような人にはぴったりだろう。あるいは地球が滅亡する寸前に運転を楽しみたいという状況なら、フィエスタSTに乗るべきだ。

しかし、日常的に乗る車として考えるなら、シビックを選ぶべきだろう。毎日乗っていれば派手な見た目にも周りからの視線にも慣れるだろうし、エンジン音の微妙さや後付品のようなマルチメディアシステムも気にならなくなるだろう。

それでも、決してこの車に飽きることはないはずだ。この地球に埋まっている石油すべてを使い尽くしてもなお、シビックに飽きることはないだろう。運転に集中すれば楽しく、そうでないときには快適という二面性は魅力だし、なによりこの車の走りは素直だ。現時点で最高のホットハッチはシビックタイプRだろう。

Fiesta ST vs Civic R vs Megane RS rear

結論
Winner: ホンダ・シビックタイプR
ホンダの攻勢はまだ続く。人を魅了する直感的な車。見た目以外は最高だ。

2nd: フォード・フィエスタST
運転に集中したときにはその実力を発揮してくれるが、落ち着いて運転するのは難しい。しかし、この車にはホットハッチの本質的な楽しさが詰まっている。

3rd: ルノー・メガーヌR.S.
気まぐれな性格に慣れれば楽しめるのだが、MTをはじめ、欠点も多い。