米国「Autoblog」によるキャデラック CT6-Vの試乗レポートを日本語で紹介します。


CT6-V

CT6-Vの改名は近年の自動車関連ニュースの中でも特に理解に苦しむものだった。当初の車名はCT6 V-Sportであり、「V-Sport」といえば、サーキット走行も視野に入れた本格高性能モデルの「V」ほどではないそこそこの高性能モデルの名称として使われていた。

CT6 V-Sportの発売前には新たにCT4-VとCT5-Vも発表されたのだが、いずれも従来のV-Sportのような”そこそこ高性能”なモデルであり、それに合わせるようにCT6 V-Sportの名前がCT6-Vへと変更された。

では果たして、CT6-Vはどのような車なのだろうか。従来のVシリーズのモデルのようなハードコアなモデルなのだろうか。それとも、ベース車と少し差別化されただけのモデルなのだろうか。

結論を書いてしまうと、CT6-Vはこの両者の中間的な存在だ。もともとのCT6の快適性や高級感を損なうことなく、十分な楽しさを付加した車に仕上がっている。

CT6-Vのメカニズムは従来のVシリーズに近い。4.2L V8ツインターボ「ブラックウィング」エンジンは最高出力558PS、最大トルク88.5kgf·mを発揮する。この高性能エンジンはAMGの4.0L V8同様、気筒休止システムが備わっており、製造もAMGのように手作りで行われている。しかも、組み立てた人の名前までエンジンベイに刻まれている。

ここまでであればかなり特別なエンジンのようにも思えるのだが、CT6標準車の上級グレード「Platinum」にも同じエンジンが搭載されている。ただし、こちらのスペックは最高出力507PS、最大トルク79.4kgf·mとなっている。

CT6-Vのエンジンは実用性能も非常に高い。驚くほど滑らかで、まさに高級ハイパフォーマンスカーにぴったりな性格だ。排気音も暴力的で個性がある。ターボチャージャーが立ち上がるまでにわずかな時間はかかるのだが、ターボがかかると圧倒的なパフォーマンスが発揮される。エンジンが非常に滑らかに回るだけに、レッドラインが6,000rpmと低いのは残念だ。

rear

トランスミッションは10速ATで、駆動方式は4WDとなる。街中でのATの挙動は非常に洗練されている。ただ、急加速時やマニュアル変速時の反応はあまり良くはないし、ときにギクシャクすることさえある。

4WDシステムは優秀で、かなりのトラクションを確保してくれるのだが、それでいてアクセルを踏み込めばリアが少し緩むので、後輪駆動車らしさを感じることもできる。

CT6-Vの最大の魅力はシャシだろう。大型スポーツセダンに求められる要素はしっかりと満たしている。穏やかに運転したいときにはツアーモードにすればいい。するとマグネティックサスペンション(Platinumにも標準装備されるのだが、CT6-V用は専用チューニングとなっている)によって路面の衝撃が消え去り、見事なまでの安定性を見せてくれる。ステアリングも軽くなるし、静粛性の高さも魅力だ。

中間的なスポーツモードにするとステアリングがやや重くなり、サスペンションも少し硬くなる。ツアーモードほどの穏やかさは求めていないが、かといってトラックモードほど本気で攻めたいわけではないという人にとっては最適なデフォルトのセッティングだ。

そしてトラックモードにするとCT6-Vのポテンシャルを引き出すことができる。サスペンションはスポーツモード以上に硬くなり、ロールは徹底的に排除されるのだが、かといって乗り心地が犠牲になっているわけではない。

ステアリングはかなり重くなるのだが、ボディサイズを考えれば適度な重さだし、フィードバックもかなりある。他のモード同様、ステアリングはクイックで、ターンイン性能も高い。 優秀なステアリングと後輪操舵が組み合わせられることにより、相当な敏捷性と操作性の高さを実現している。おかげで運転していると実際よりも小さく感じるし、V専用のブレンボブレーキの安心感も高い。

フルサイズの高級セダンでCT6-Vほど飛ばして楽しめる車は他にはないだろう。しかも、トラックモードにはエンジン音を増幅する機能まである。もちろん、こんな機能があったところで走行性能に影響があるわけではないのだが、心地良い音なのであって困るものでもないだろう。

interior

CT6-Vの見た目はかなり落ち着いており、他のVシリーズの新モデルとともに、新しいVシリーズの方向性を示している。特筆すべき部分といえば専用のメッシュグリルやフェンダー部分の「V」のバッジ、それに前後のスポイラーくらいだ。おそらくは自分に、そして自分の所有している車にちゃんと自信がある人のためのデザインなのだろう。CTS-Vのように派手なスポイラーやカーボンファイバーでやたら吠え立てることはない。

内装の変更点はなおのこと少なく、「Platinum」と比較するとメーターやカッパーのアクセントくらいしか違いはない。それゆえに問題点もある。XT6もそうなのだが、ドイツ車と比べると、それどころか最新のリンカーンと比べても、キャデラックのインテリアには安っぽさや凡庸さが感じられる。

機能的な問題点もある。キャデラックの電子シフトの操作感は従来のものよりも安っぽい。従来のタッチパッドに代わって装備されたダイヤルの操作感は良くなっているのだが、前後左右方向の操作ができないので操作が面倒に感じることがある。それに、走行モードスイッチも押しづらい場所にある。

細かい欠点もいくつかはあるのだが、それを打ち消せるほどCT6-Vの走行性能は高い。1台の車で、ワインディングロードを自信を持って運転できるだけの楽しさと、心落ち着かせて移動できる快適性の両方を手に入れることができる。

CT6-Vの本質は一般的なフラッグシップセダンとは真逆で、後部座席ではなく運転席に座りたいオーナーのための車だ。

「Platinum」との違いも大きく、エンジン性能だけでなくハンドリング性能の差も大きい。しかも、価格は97,490ドルの「Platinum」より安い95,890ドルだ。ただし、「Platinum」にはマッサージシートや半自動運転システム「スーパークルーズ」などのCT6-Vでは選択できない贅沢装備も付いている。しかし、これこそCT6-Vがオーナードライバーのための車であることの証拠でもある。車名が何であれ、実際にステアリングを握ってみればこの車の楽しさを理解できるだろう。