米国「MOTOR TREND」によるケーニグセグ・アゲーラRの試乗レポートを日本語で紹介します。
茂みを見ると、また警察官が隠れていた。タクシーの運転手いわく、わずか10km/hの速度違反で約700ドルの罰金を科されてしまうそうだ。ひょっとしたら、私はこれから投獄され、紙面を飾ることになるかもしれない。
ノルウェーの幹線道路ではおよそ5分ごとに警察官の姿を見かけた。ノルウェーという国は世界最速の車を試す場所としては最悪の選択だったのかもしれない。
しかし、オスロから南にわずか1時間走るとフレドリクスタという景勝地に到着する。ここが今回、ケーニグセグ・アゲーラRを運転する舞台となる。アゲーラはひょっとしたらブガッティ・ヴェイロンやパガーニ・ウアイラと競合する唯一の車かもしれない。
アゲーラはスーパーカーの世界でも頂点に君臨する車だ。300km/h超の世界を想定して設計されているため、ノルウェーではかなり長い期間を塀の中で過ごすことになるかもしれない。しかもその日は雨が降っていたし、そもそもアゲーラRの価格は300万ドルだ。
遠くから5.0Lツインターボエンジンの始動音を聞いて、急に緊張感が高まってきた。そして実際にアゲーラと対面すると、掌から汗が吹き出してきた。
アゲーラは見るからに大きく、正面から見ると曲線的な印象だ。後部からは力強さが感じられ、ダブルバブルルーフの位置はかなり低く、さながら本物のステルス戦闘機のようだった。
クリスチャン・フォン・ケーニグセグ氏が最初にアゲーラのスケッチを描いたとき、イルカをイメージしたそうだ。それから緩やかな進化を遂げてアゲーラRの姿になったのだが、真横から見るとイルカというよりはオオメジロザメを彷彿とさせる。
広報車に装備されていたルーフボックスは間抜けにも思えたのだが、あくまでマーケティングの道具と割り切るべきだろう。広報車はミシュランのスタッドレスタイヤを履いており、雪道でも走れることをアピールしたかったようだ。
しかし、古い町並みにルーフボックス付きのアゲーラは不似合いだった。そもそも、ルーフボックス付きのアゲーラRを購入するような人間などどこにも存在しないだろう。ちなみに、その下のルーフは道具を使って2分間作業すれば取り外すことができ、オープン状態で運転することもできる。
内装はまるで別世界のようだ。センターコンソールは黒電話のダイヤルを現代化したような見た目になっており、ダッシュボード中央のディスプレイだけでなく、メーター内も液晶ディスプレイになっている。
テストするために警察官が来ないような道路へと向かっていると、運転感覚の美しさに感激した。穏やかでフィールは完璧だったし、音はヴェイロンより良かった。石畳の道を走ったときは快適とは言いがたかったのだが、それでも最初の印象は良かった。
そしてついに加速テストの時が来た。1,150PS、122kgf·mという性能を引き出すのには勇気が必要だった。なんとか勇気を出してアクセルを踏み込むと、頭がおかしくなりそうだった。
すべての力が後輪へと送られ、ドライ路面では0-100km/h加速2.9秒を記録する。ゾンダよりも明らかに速い。7.5秒で200km/hを超え、0-200km/h加速から完全停止までの一連の流れがわずか12.7秒で終わる。最高速度は公称値で420km/h以上だそうだ。
数字だけ見ても凄いのだが、アゲーラの凄さはそれだけに留まらない。アゲーラの本当の凄さは、ターボチャージャーが生み出す暴力的な加速だ。
3,500rpm未満であればかなり大人しいのだが、3,500rpm以上になると衝撃とともに前へと引っ張られる。レッドラインの7,250rpmまで回すと、遙か先にあったはずの次のコーナーが目と鼻の先まで迫っている。
暴れ回る後輪を立て直す計算をする暇などない。こんな車でホイールスピンが起これば深刻な事故も想像されるのだが、ミシュラン Pilot Super Sportがしっかりとトラクションを確保してくれるので、ドライバーに必要な介入は最小限に抑えられている。
減速時、ブレーキに足をかけてCIMA製の7速DCTを2段落とすと、ウェイストゲートバルブが開き、その振動がパワートレイン越しに伝わってきて車全体が揺れる。
ノルウェーの道はフィヨルドのおかげで曲がりくねっており、操作ミスをすればどちらに転んでも水の中だ。特に最初の運転はかなり緊張してしまった。
しかし、アゲーラの走りはかなり安定していた。ドライバーに高度な技術は要求しないし、それどころか重く感じることさえあった。コーナーではステアリング操作に肩の筋肉を使うほどだったのだが、これも圧倒的なグリップがあってこそのものなのだろう。
アゲーラRの発生する横Gはミシュランのハイグリップタイヤのおかげもあり、最大1.6Gだった。ちなみにヴェイロン スーパースポーツは1.45Gだ。つまり、ドライバーに腕さえあれば、理論上アゲーラRはサーキットでどんな車でも打ち負かすことができるだろう。ただし、4WDではないので、一旦グリップを失ってしまうと立て直すためにかなりの技術が要求される。
ケーニグセグはかなりのこだわりをもって製造されている。ドライブトレインはスーパーカーの世界の中でもかなり軽く、専用設計の5.0L V8エンジンは最初から最後までスウェーデン国内で製造されている。
ボディは250km/hで300kgものダウンフォースを生み出すように設計されており、アンダーボディはフラットでベンチュリートンネルも装備されている。液体込みの車両重量はわずか1,435kgだ。
リアサスペンションには3つのダンパーが装備されており、ロールを抑えつつ路面の衝撃をしっかりと制御する。エンジンはセミストレスメンバー化されており、エンジン自体が車を補強する構造となっている。
ブレーキディスクの熱を逃がすため、ホイールすら空気の渦を作るように設計されている。アゲーラRは細部までかなりのこだわりを持って作られており、だからこそブガッティやパガーニにも匹敵する最高のスーパーカーが完成した。
スピードに厳しいノルウェーであっても、私は破産や投獄の危険を犯してでもフィヨルドの道でアゲーラRを楽しみたいという欲望に抗うことはできなかった。
ウアイラに続き掲載していただきありがとうございます!
auto2014
が
しました