Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ルノー・メガーヌ R.S. トロフィーのレビューです。


Megane RS

パーティーに行くと、隣に座る人からよくこんなことを言われる。
まさか車の話をするつもりではないですよね?

妙な話だ。銀行員の隣に座って「為替の話なんかしないでほしい」と言う人間など存在しない。為替の話どころか、ゴルフの話だろうと、激痛の話だろうと、動物虐待の話だろうと、あえて会話を拒否する人間などいない。ただし、車だけは例外だ。

私には馬好きのチャーリーという友人がいる。彼に対して「馬の話をしないでほしい」なんてことを言う人間はいないので、彼はいつも馬の話をする。四六時中。彼はリングフィールド競馬場で行われたレースの結果について語り、続いて凱旋門賞で誰かの馬が別の誰かの馬よりも速かったという話をする。

周りの人間はチャーリーの話を真面目に聞く。ときに笑い、ときに冗談を言ったりもする。ところが私が新しいケーニグセグについて話しはじめた途端、常連だらけの田舎のパブに見知らぬ都会人が入ってきた瞬間のような状況になる。場は完全に静まり返る。

たとえ相手が車好きだったとしても、パーティーではその事実をひた隠しにしている。どういうわけか、社交の場においては車の話題が禁忌とみなされているらしい。ケーニグセグを知っているということすら公にできない。なので、車への興味は秘密にしなければならない。まるでフリーメイソンのように。

最近、家の近所で新しいクラブが開設された。そのクラブは車好きの集まりなので、よもやこんなところにその名称やミーティングの開催場所を書くわけにはいかないだろう。ミーティングは日曜日に誰にも見つからないような倉庫の裏手で開催されている。

そのクラブでは私の知り合いも見かけたのだが、そこで見かけるまで車好きであるということはまったく知らなかった。その人はチャーリーの話を延々と聞き続け、銀行員の金融話にもちゃんと耳を傾けていたのだが、大量のアストンやブガッティ・ロワイヤルを所有しているなんて話はまったく聞いたことがなかった。

そのクラブには著名人も参加していた。インタビューではジェーン・オースティンの小説やフラワーアレンジメントやボルネオにおけるトガリネズミの保護に興味があると語っていた人だ。ところが、そんな人がデイトナに乗っていた。

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そんな話は聞いたことがない。なぜなら、そんなことを公言すれば、奴隷の取引をしていることを公言する以上に社会的悪とみなされるからだ。

非常に開放的なミーティングだった。寒空の下、世界から隔絶された場において、我々はトランスアクスルやキャンバーやアルミニウムについて語った。そこでは恥じる必要などなかった。話を止める人間はそこにはいない。我々を「気候変動否定論者」だの「人殺し」だのと罵る人間はいない。きっと保守党員も同じような人生を送ってきたのだろう。

これがルノー・メガーヌ R.S. トロフィーの話に繋がる。これは普通の人間に受け入れられるような車ではない。まずボディが黄色い。とてつもなく黄色い。上流階級のパーティー用ズボンよりも黄色い。それに、エンジンを始動すると犬すら脅かすほどの音を立てる。

それに、メガーヌなので車好きにも好かれないだろう。アラン・パートリッジのおかげで、倉庫で密会する人達からは「ワイパーの付いた昏睡」あるいは「2トンのあくび」ないしは「トランク付きのニック・クレッグ」として扱われるようになった。そんなイメージのあるメガーヌを欲しがる車好きなど存在しない。

ところが困ったことに、このメガーヌはかなり良い車だ。数字だけ見てもその凄さは分からない。1.8Lというエンジンは小さすぎるし、最高出力は300PSなのだが、排気量の小ささを考慮すればゴミ箱くらい大きなターボチャージャーが付いていることは間違いないだろうし、きっとターボラグやトルクステアも酷いだろう。サーブやポルシェやBMWの初期のターボ車の狂気を覚えているだろうか。そんな車に違いない。

ルノーはF1から生まれたボールベアリング技術がどうのこうのと御託を並べているのだが、500mLの容器から1Lを絞り出すくらい無理な話であることは間違いない。それに、よっぽどまともなゴルフRに直線加速で負けているのも事実だし、快適性もメガーヌよりゴルフのほうが優れている。

もちろん、ルノーより快適性の劣るものはたくさんある。たとえば階段からの転落や水責め、ノコギリでの腕切断など、例を挙げればきりがない。メガーヌはそれほどまでに乗り心地が悪く、ロンドンではメガーヌを諦めて自分のレンジローバーで移動した。

しかし、ロンドンを出ると状況はまったく変わる。この車は色と音と恐怖の狂宴だ。LSDを摂取して世界最速のジェットコースターに乗った経験はないのだが、私がした経験はそれに近い。

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四輪操舵のおかげでこの車は常識外の曲がり方をする。ひたすら進行方向へと突き進み、岩のように硬いサスペンションと強固なシャシのおかげで、まるでハトのように急旋回していく。

ハトを撃とうとしたことはあるだろうか。ハトを撃つのは不可能だ。理由は2つある。そもそも違法だし、それにハトは銃弾を避けることができる。そしてメガーヌも同様に銃弾くらいなら避けられるだろう。もし私が軍人なら、メガーヌに乗って戦地へと赴くはずだ。

当然、ルノーはこれまでにも何台か魅力的なホットハッチを作ってきた。しかし、いずれもチョコレートの包装用トレーから作られているかのような質感だった。それに、電装系はカシオなら不良品扱いで処分するような代物だった。

しかし、この車は違う。まともな人間が組み立てを行ったとしか思えない。パネルの厚さが1μmということもなさそうだ。手を触れてみると、ゴルフの車内としか思えない。

旧型メガーヌのホットモデルとは違い、このメガーヌにはリアシートがあるし、スピードハンプを乗り越えてボディが前後に分割されることもない。要するに、日常的に使うことのできる車だ。もっとも、乗り心地の悪さは日常利用には適さないのだが、トロフィー以外の標準モデルを選べばこの問題も回避できる。

もっとお金を浪費したいなら、アルピーヌを購入することもできる。アルピーヌも同じエンジンを搭載しており、パフォーマンスも同等だ。私はまだアルピーヌを運転していないのだが、ジェームズ・メイはアルピーヌを非常に気に入り、実際に購入したそうだ。つまり、アルピーヌはクソだ。

私なら脊髄損傷を我慢してでもトロフィーを選ぶだろうし、トランスミッションはMTではなくDCTを選ぶだろう。

我慢しなければならないことは他にもある。この車に乗ると、ライトも、排気音も、何もかもが主張する。「私は車好きなんだ」と叫ぶ。街中を「投票は保守党!」と蛍光色で書かれたTシャツを着て歩き回るようなものだ。