米国「Car and Driver」によるフォード・エクスプローラー(2020年モデル)の試乗レポートを日本語で紹介します。


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自動車メーカーはよく新型車のプラットフォームや構造について細々と説明してくれるのだが、正直どうでもいいと感じることもある。しかし、6代目フォード・エクスプローラーは違う。

一見するとそれほど変化していないようにも思えるのだが、中身は見た目以上に大幅に進歩している。新型エクスプローラーはエンジン縦置きのFRモノコックプラットフォームを採用している。エクスプローラーは初代から4代目までがフレーム構造で、5代目はエンジン横置きだったのだが、新型は他の高級SUVと同じレイアウトに変化している。

2011年に登場した5代目エクスプローラーはかなり古臭く感じるようになっている。20世紀のボルボがベースのプラットフォームを採用しているのだから無理もない話だ。現代の基準からするともはや化石級のプラットフォームはようやく次世代へとバトンタッチし、エクスプローラーはFRレイアウト(4WDも選択可能)へと進化を遂げた。

新型エクスプローラーの注目点はその走りだ。開発陣によると、FRシャシの採用により重量配分が改善し、バランスの優れた走りを実現しているそうだ。実際、重々しくて扱いづらかった旧型と比べると、新型はかなり安定性が高く、どんな路面でも扱いやすくなっている。

ステアリングはアシスト過剰気味なのだが、ダンピングは適切なのでロールを最小限に抑えつつも安定性の高い快適な乗り心地を実現している。運転して楽しい車ではないのだが、ワインディングでも不安なく運転することができる。走りの最悪な3列シートSUVから、走りの良いSUVへと大きな変貌を遂げている。

406PSのV6 3.0Lツインターボエンジンを搭載する「ST」も気になるのだが、それ以外にも304PSの2.3L 直列4気筒ターボ、ST用V6のデチューン版となる370PSのV6ツインターボ、そして3.3L V6エンジンに45PSのモーターを組み合わせたハイブリッドが設定される。トランスミッションはフォードとGMが共同開発した10速ATのみが設定され、トーイングパッケージを装備した場合、最大牽引重量は2,270-2,540kgとなる。

車重は約90kg軽量化されているため、2.3Lモデルでも性能としては十分だし、トランスミッションのマッピングも適切なので中回転域のトルクを効率的に活用することができる。一方、ハイブリッドのシステム出力は322PSなのだが、車重が増加しているため体感的な加速は4気筒モデルと大きく変わらない。

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残念なことに、ハイブリッドシステムの完成度はそれほど高くない。特にモーターとエンジンの移行時のラフさやスポンジーなブレーキフィールは気になった。4気筒モデルより4,150ドルも高いことを考慮すると、この問題点は早急に解決するべきだろう。

エクスプローラーハイブリッドには新設計のハイブリッドパワートレインが搭載されている。環境性能の高い小型ハイブリッドとは違い、スプリット方式を採用していないため、エクスプローラーはプラネタリーギアによる動力分割は行わない。

エクスプローラーに搭載されるモーターはV6エンジンと10速ATの間に搭載される45PSのモーターだけだ。牽引性能や積載性能を要求される大型車用のシステムなので、モーターへの依存度が低く、燃料の節約よりもパフォーマンスを重視したシステムとなっている。今後登場が予定されているF-150のハイブリッド仕様やブロンコにも同様のハイブリッドシステムが採用されるのだろう。

「Platinum」に搭載される3.0Lツインターボエンジンの性能は文句なしに高い。ST用400PS仕様のデチューン版で最高出力は370PSまで低下しているのだが、それでも十二分に速いし、音も良い。

プラットフォームの変更は内装にも良い影響を与えている。旧型エクスプローラーはプラットフォームを無理に延長していたため、インテリアもバランスが悪かった。旧型はサイドシルの幅がやたらに広く、ボンネットの位置が高かったため、バスタブの中にいるような感覚があったし、見た目の大きさに反して荷室はそれほど広くなかった。

新型エクスプローラーはシートポジションがずっと自然になり、前方視界も改善している。荷室も旧型より広くなっており、2列目シートと3列目シートをすべて倒したときの荷室容量は増加しているのだが、3列目まで利用している時の荷室容量はわずかに減っている。

FFベースの競合車と比べると実用性では劣るし、特に新型エクスプローラーの3列目シートは残念だった。2列目シート(ベンチシートとキャプテンシートが設定される)がワンタッチで畳めるようになったため、乗り込み自体はしやすくなっているのだが、シート自体は位置が低くサポート性も悪い。このため、膝を抱えるような姿勢で座らなければならない。

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ただし、1列目と2列目は従来より快適になっている。安価なグレードでもドアパネルやダッシュボードにはソフトな素材が使われており、作りも良い。ダッシュボードのデザインは平凡なのだが、機能性が高いので文句はない。

エアコン用ボタンの配列も合理的だし、オーディオはちゃんとダイヤルで操作することができる。中央のディスプレイは高精細だしメニューもまとまっている。オプションで縦長の10.1インチディスプレイも選択可能となっている。

運転支援システムはオプションとなっているものもあるのだが、価格設定は適正だし、パワーテールゲートや3ゾーンオートエアコンなど、必要な装備はちゃんと付いている。4気筒モデルは3万~4万ドルと競争力のある価格設定だ。

ハイブリッドは55,000ドル近くするし、上級グレードの「Platinum」をフル装備にすると6万ドル以上になってしまうので、これらのモデルはあまり売れないだろう。同価格帯には同じツインターボV6エンジンを搭載するリンカーン・アビエーターもあるし、数千ドル余計に払えば欧州の高級SUVすら買えてしまう。

しかし、エクスプローラーがそういった高級SUVと競合するようになったということは、それだけエクスプローラーが変化しているという証明なのかもしれない。