Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、クラシックカー投資をテーマとしたコラム記事です。


GTV6

先日、会計士をはじめ数人のスーツを着た男たちとともに、理解すらできない話を延々とするという経験をした。年金に関する話題以上に退屈なものはこの地球上には存在しないだろうと思っていた。しかし、ISAに関する話題も同じくらいつまらなかった。そもそもISAが何なのかもまったく分からない。

PEPも同様だ。ある人にお金を預けるとよく分からない書類を渡される。私に分かるのは、その書類を戸棚の奥にしまい込んでおけば私が死んだ後に子供たちに確実に迷惑をかけるということくらいだ。そんなことに金を使うくらいなら犬の餌に使ったほうがずっとましだ。

これらの金融に関する何かを使えば支払う税金を最小限に抑えることができるらしいのだが、それが良いことだとは思えない。

所得税が少ないことだけを理由にわざわざ自国を離れて暮らすような人は、家族とも友人とも離れ、そうやって手に入れたお金はせいぜい酒かゴルフくらいにしか使えない。あまりに馬鹿げている。私は租税回避をするような人間を軽蔑しており、火炎放射器があったら燃やしてやりたいくらいだ。

投資や貯蓄を行うとき、結局のところ自分の稼いだ金は証券取引所でマネーゲームをしている誰かのところに流れる。もしその人がゲームに勝てば、その人は良いスーツを購入したり、死後子供に迷惑をかける書類を1枚余分に獲得したりするだろう。一方、もしその人がゲームに負けた場合、迷惑を被るのは私自身だ。

私はブラックジャックが好きで、そこそこ強い。しかし、もし私が誰かの金を借りてカジノに行き、勝ったら獲得金額の一部を還元し、負けたら一切補償はしない、なんて条件を切り出したとしたら、誰にも相手などしてもらえないだろう。

私と同じ考えの人は少なくない。近年ではワインに投資する人が増えている。2018年2月には1988年物のロマネ・コンティ(おそらく赤ワインだろう)12瓶が18万ポンド近い値で売れたそうだ。1口あたりおよそ400ポンドだ。

しかし問題もある。ワインに投資しても、当然ながらそのワインを飲むことはできない。飲みもしないワインを戸棚の奥にしまい込むのは、よく分からない書類を戸棚の奥にしまい込むよりなお馬鹿げている。

2008年、世界がリーマン・ショックに見舞われた年、私は金を大量に購入した。投資としては非常に賢明な選択だったのだが、金塊を持っていても何の意味もない。宝石のように身に着けることもできない。もっとも、モナコへの移住者なら金塊からボートを造るのかもしれないが。

おそらく、これから何の話をするか想像できた読者もいるだろう。そう、クラシックカーだ。近年クラシックカーの価値が高騰していることは多くの人が知っているだろうが、その高騰がどれだけのものか知らない人も多いだろう。

私の友人は1970年代に9,000ポンドでフェラーリ 250GTOを購入した。つい先月、それと同じ車が7000万ドルで売れたそうだ。

しかも、ワインや金塊や書類とは違い、投資対象を自分で乗り回すことができる。レースに出てもいいし、ヨーロッパに旅行してもいいし、イベントに参加して子供を乗せてやってもいい。しかも、驚くべきことに、売却時には税金を支払わなくても良いそうだ。つまり、私の友人は6999万ドルも儲けられるということだ。

1970年代に数百ポンドで購入できたポンコツのジャガー Eタイプが今では100万ポンド以上で売れる。10年前、私は8万ポンドは高すぎると思い、フェラーリ 275GTSの購入を諦めた。今や275GTSは100万ポンドを簡単に超える。

クラシックカーの条件は2つしかない。希少で魅力的であればいい。ところが最近では古い車なら何でもクラシックカーとして扱われるようになってきた。フォード・シエラ コスワースの市場価格は7万ポンドだ。私がかつて3,000ポンドで売却したBMW 3.0 CSLは今では15万ポンド以上する。

幸い、いまだにそのポテンシャルをすべて発揮していないクラシックカーも存在する。自慢ではないが、私は先日、ワンオーナー、走行距離42,000kmのアルファ ロメオ GTV6を1万ポンドで購入した。

ドナルド・トランプやウラジーミル・プーチンが馬鹿なことさえしなければ、あるいは銀行で働く間抜けが間違って変なボタンを押しでもしない限り、1年後くらいには価値が4倍以上になっているはずだ。

古い車に不安を感じる人もいるだろうが、新車に投資することもできる。自動車メーカーはさまざまな限定車を割高な値段で販売している。これによりメーカーは儲かるのだが、儲かるのは購入者も同じだ。購入後すぐに売却したとしても、購入金額の2倍程度で売ることができる。

例えば、フェラーリは488GTBを20万ポンド近い値段で販売している。ところが、一部の顧客は限定車の488ピスタを25万ポンドちょっとで購入することができた。フェラーリは488ピスタの顧客が転売行為を行わないか監視しているらしいのだが、どれだけ車を愛していようとも、一晩で25万ポンドの利益が出せるなら売らずにはいられないだろう。

911 GT2 RS

ポルシェは911 GT2 RSという車を発売した。これはターボSをベースとした2WDの軽量版限定車だ。これを購入するためには(今は既に完売しているが)207,506ポンド必要だ。オプションを装備すると235,000ポンド程度になる。シートベルトの色を変えるだけで194ポンドかかる。

ところが、インターネットで調べてみたところ、中古のGT2 RSの価格は45万ポンドになっていた。つまり、どこかの誰かがただ車の購入契約を結ぶだけで215,000ポンドもの利益を得たことになる。

売却されるGT2 RSの走行距離は数百キロ程度だろう。最初の購入者はわずかながらもこの車を満喫することができる。GT2 RSは本当に素晴らしいスポーツカーだ。言っておくが、私はポルシェなどまったく好きではない。それでも、私はGT2 RSが大好きだ。

こんなことは戸棚の中の書類には絶対に言えない。