米国「Car and Driver」によるマクラーレン F1の試乗レポートを日本語で紹介します。


mclaren 750xx1140-641-30-0

空を飛んだ。

マクラーレン F1が160km/h以上で丘を飛び越えた。車の中央にある運転席からの眺めはまさにシネマスコープだった。月まで行けるかもしれない。車が地面を離れた瞬間、空を飛べると本気で思った。いや、F1なら、月どころか火星まで行けるかもしれない。

その後、F1は見事な着地を決めた。サスペンションはかなりしなやかで、空からの着地に備えて設計されているのではないかとさえ思った。風の音はエンジンの雄叫びに掻き消され、これまでの人生で経験したことのない速度まで加速していった。アクセルを踏み込めば直線など消える。スピードメーターは200km/hを示し、正確なトランスミッションを4速に入れてアクセルを踏めば、方向感覚を奪うほどの力で背中がバケットシートに押し付けられる。

加速はなおも衰えない。それからわずか5.4秒後、タコメーターの7,500rpm部分に配されたシフトアップを促す緑のライトが点灯する。5速に入れた時点で速度は240km/hを超えていた。依然として加速は衰えない。決して動揺することなく、安定して前に進み続ける。6速に入れて290km/hまで加速することも可能だったかもしれない。

しかし、私の勇気がそれに伴わなかった。生存本能が敗北し、私はブレーキに足をかけた。ブレーキを強く踏み込み、少ししてようやく減速しているという感覚を取り戻すことができた。

rear

コースの信号が青になるまで30秒程度の待ち時間があった。その間、BMW製のV12エンジンは900rpmのアイドリング状態だったのだが、その状態でもF1の獰猛さは直感的に理解できた。排気音はそれほど大きくはないのだが、アクセルを踏めば回転数が急上昇する。私はこの魔力に抗えない。誰だろうと抗えないはずだ。

エンジンの応答性はあまりにも機敏だ。レーシングカーのエンジン同様、F1のエンジンもフライホイールを持たない。タコメーターの針は暴れるように回る。まるでタコメーターの針とクランクシャフトが直接繋がっているかのようだ。

この車の規格外の速さをを体感するためには心の準備が必要になる。アウトバーンやサーキット以外で法律を破らずに運転することなど不可能だろう。アクセルを踏むたび、この車の実力を、本当の姿を知りたいという抗いようのない欲望が湧き出る。しかし、たとえトップレベルのプロドライバーであっても、この車の全力を引き出すことは不可能だろう。

ジャガー XJ220も、ブガッティ EB110も、フェラーリ F40も、これまで「速い」と言われてきた車の存在すべてが霞んでいく。マクラーレンはすべてを食い尽くす。実際の数字もそれを証明している。

interior

F1の0-100km/h加速は3.1秒だ。F1の前に市販車最速記録を保持していたポルシェ 959は3.6秒だった。0-160km/h加速は6.3秒で、フェラーリ F40より2秒も速い。0-240km/h加速は12.8秒で、ポルシェ 911の0-160km/h加速とほとんど変わらない。フォード・トーラスがまだ1速で加速しているうちに240km/hまで加速できてしまう。

320km/hまでにかかる時間は28秒だ。驚くべきことに、200km/h以上での加速性能はF1カーのマクラーレン MP4/8よりも優れている。

0-400m加速は11.1秒(222km/h)で、どんなスーパーカーと比べたとしても、少なくとも1秒程度、20km/h以上の差をつけている。