Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、スズキ・ジムニー(日本名: ジムニーシエラ)のレビューです。


Jimny

野菜狂信者いわく、植物の樹皮や種子、根だけを使って美味しい料理を作ることができるそうだ。シェパードパイと同じくらい食欲の湧く食べ物を作ることができるそうだ。

今ではヴィーガン向けのレストランがたくさんあるらしい。木材ではなくトーリー党員を燃料に部屋を暖め、健康な若者がしっかり給仕をしてくれるそうだ。

しかし、ここにヴィーガンの矛盾がある。本当に美味しい食べ物を食べたとき、誰であろうとおかわりが欲しくなるはずだ。その結果、必要以上に食材を消費してしまい、イースト・アングリアがプラスチックに覆われてしまう。

肉という食べ物には大きな問題がある。ソーセージやラグーを口に入れると、もっと食べたいという欲望に抗えなくなってしまう。その結果、いずれすぐに世界が需要に追いつけなくなってしまうだろう。

地球を守るためにヴィーガンになったなら、自分が食べる料理も、友人に出す料理も、死ぬほど不味いものであるべきだ。そうすれば、吐きそうになりながら、生きていくのに最低限必要な食材しか消費しなくなるだろう。そうすれば地球は守られるはずだ。

この理屈は他にも多くのことに当てはまる。未来の子供たちのために世界を守りたいなら、美味しいものも、美しいものも、すべて我慢しなければならないはずだ。孫の孫の代まで続く世界を作りたいなら、寒さにも、空腹にも、悪臭にも、あらゆる不快感に死ぬまで耐えていかなければならない。

シャンプーなど使うべきではないし、石鹸だって使うべきではない。プラスチック製品は一切使うべきではないだろう。つまり、歯を磨くことも、髭を剃ることも、服を着ることすらやめるべきだ。ポル・ポト政権時のカンボジアを覚えているだろうか。まさにそんな生活だ。

私は今、レンジローバーを所有している。実は2台持っており、1台は外出用で、もう1台は汚れてもいいレンジローバーだ。言うまでもなく、2台も所有する必要などまったくない。レンジローバーを2台も所有する必要のある人間など存在しない。

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そもそも、レンジローバーという車自体必要なものではない。同様に、ランボルギーニ・ウルスも、ポルシェ・カイエンも、最近の駐車場に溢れているあらゆる大型SUVはすべて、必要性のまったくないものだ。こんな車が流行っている現状など、決して許されるべきではないだろう。

わずか15,499ポンドでこの問題は解決できる。その救世主がスズキ・ジムニーだ。この価格で、エアコンやクルーズコントロール、DABラジオ、パートタイム4WD、副変速機、電子制御ディファレンシャルが装備されている。上級グレードの「SZ5」ですら価格はわずか17,999ポンドだ。

しかも、見た目はメルセデスのゲレンデヴァーゲンと実質的に同じだ。もちろん、スズキのほうがよっぽど小さいのだが、車の近くに寄ってしまえば違いは分からない。

私はこれまで、派手な車もたくさん乗ってきたのだが、ジムニーほど羨望の目を集めた車はなかった。歩道から出て写真を撮っていた人すらいた。観光客からは何て車なのか尋ねられた。発売直後にイギリス国内で4,000人もの人間がジムニーの商談を行ったらしいのだが、それも頷ける。

まずは欠点について書いてしまおう。この車は悪い意味でも予想を裏切らない。見た目は小さいのだが、車内も同様に小さい。リアシートはほぼ使い物にならないので、畳んで2シーターとして使ったほうがいいだろう。そうすれば少なくとも荷室は確保できる。

パフォーマンスに関しては、そもそも存在すらしない。0-100km/h加速は扱いづらいクラッチや動かしづらいシフトレバーをどう操作するかに依存する。そして最高速度は耳がどれほどの騒音に耐えられるかに依存する。ヘッドフォンを付けると142km/hまで加速できたのだが、大気圏に突入する宇宙船に乗っている気分だった。

快適性も存在しない。街中での乗り心地は昔のSJよりはましになっているのだが、単純に硬さが抑えられているだけだ。高速域(ジムニーにとっての高速域は68km/hのことだ)でもSJよりはまともになったのだが、依然として非常に不安定だ。横風にも煽られやすいし、ブレーキの性能も低い。

ブレーキが貧弱で乗り心地が悪く、リアシートが狭くてパフォーマンスも欠如しており、シフトレバーやクラッチも扱いづらいのだが、燃費性能については、やはりそれほど良くはない。ギア比が異常なのが関係しているのだろう。トップギアにしても1,000rpmで32km/hしか出ない。理由は分からない。

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しかし、雪が降りはじめたとき、農地を走って壊れたフェンスを直しに行くとき、スズキは輝く。ダマジカのごとく悪路を軽快に走り抜け、どんな深い泥沼にもはまることはない。オフロードタイヤを履けばランドローバーすら行けないような場所にも行くことができる。

たた単純に小さくて軽いから走破性が高いわけではない。アプローチアングルもしっかり確保されている。あのジープ・ラングラーよりも優れている。「緑の氷」としても恐れられている濡れた草の上を走ってもまったく苦戦しない。もちろん、ジムニーにも限界はあるのだが、ほとんど無敵だ。

ジムニーの見た目はシックで都会的で恰好良いのだが、その中身は農民のための道具に他ならない。しかもかなり本格的な道具だ。

それに、楽しめる車でもある。騒音で耳から血が流れても、顔はきっと笑っているはずだ。それに、周りの人もジムニーを見かけたら思わず笑顔になるだろう。一度後輪駆動にしてトラクションコントロールを切ってみたのだが、そうやって遊んでいるときには最高の車だと思った。

ジムニーには大きなSUVには存在しない欠陥が大量に存在する。しかし、ジムニーは安い。ラダーフレーム構造なのでかなり頑丈だろうし、せいぜい2馬力くらいしか出ない1.5Lのエンジンは大型SUVほど地球の資源を貪り食うわけではない。それに、地球の脅威となるディーゼル仕様も存在しない。

ジムニーはカボチャのような存在だ。カボチャには欠点もたくさんある。肉のように万能ではないし、ルッコラのようにおしゃれでもない。しかし、私はカボチャが好きだ。

レンジローバーが欲しいならレンジローバーを買えばいい。しかし、リアシートのレッグルーム以外、レンジローバーにできることはすべて、スズキにもできる。