カナダ「Driving」によるフォルクスワーゲン・ジェッタGLI(2019年モデル)の試乗レポートを日本語で紹介します。


Jetta GLI

アメリカ国道129号線には「テール・オブ・ドラゴン」と呼ばれる峠道があり、全長18kmの山道には318ものカーブがある。道沿いの木にはオートバイのパーツが張り付いており、この道の恐ろしさを語っている。しかし、フォルクスワーゲン・ジェッタGLIであれば、こんな道も汗一つかかずに走り抜けることができる。

新型ジェッタはフォルクスワーゲンのモジュラープラットフォーム「MQB」を採用して登場した。数年前に登場したゴルフも同じプラットフォームを採用しているのだが、ここに至ってようやくジェッタも最新のゴルフと共通のプラットフォームを得た。

ジェッタGLIにはゴルフGTIと共通のエンジンが搭載され、サスペンションやブレーキもゴルフGTIと共通で、標準のジェッタとは異なり、リアサスペンションはGLIではトーションビーム式からマルチリンク式に変更されている。要するにこれはトランクの付いたGTIだ。

GLIに搭載される2.0L 4気筒ターボエンジンは最高出力231PS、最大トルク35.7kgf·mを発揮する。トランスミッションは6速MTと7速DCTから選択でき、全車2WDで4WDを選択することはできない。

価格はMT車が31,695カナダドル、DCT車が33,095カナダドルで、装備内容は充実している。GLIの誕生から35周年を記念して、専用バッジやブラックアクセント、専用ホイールを装備したアニバーサリーエディション(標準車より750ドル高い)も設定される。

オプションとしては995ドルの先進安全装備パッケージオプションのみが設定される。これにはアダプティブクルーズコントロール、レーンキープアシスト、エマージェンシーブレーキ、オートハイビームが含まれる。ちなみに、ジェッタの最安価格は20,995ドルで、ゴルフGTIの最安価格は30,845ドルだ。

rear

GLIは怪物級の車ではないし、これよりパワフルな4気筒エンジンもたくさんあるのだが、それでも十分な性能を発揮してくれる。個人的には非常に気に入った。言うなればこれは紳士のスポーツセダンだ。加速は激烈というほどではなく、リニアという表現が適切だろう。乗り味も締まってはいるのだが硬すぎもしない。

可変ギアレシオステアリングの応答性は高く、重さも適切だし、過剰に神経質なわけでもない。スポーツモードにすればノーマルモードやエコモードの時よりもステアリングがタイトなセッティングとなる。

テール・オブ・ドラゴンは恐ろしい道だ。最初の数コーナーを抜けるとマスターした気になってしまうのだが、そこで気を緩めると今度はタイトなブラインドコーナーがやってくる。そして木には判断を誤った者たちの傷跡が刻まれていく。

GLIはそんなタイトコーナーでもかなり安定して抜けられる。バランスが良く、フラットにコーナリングをこなしてくれる。硬いじゃじゃ馬のような車が好きな人には物足りないかもしれないが、そういう人はそもそも GLIのターゲット層ではない。

今回はDCT車とMT車の両方に試乗することができた。やはりこのような車であれば自分で変速したほうが楽しめるし、このMTはどのギアでも操作しやすい。

DCTは穏やかな性格だ。ハードに走れば期待通りの変速をしてくれるし、変速はクイックでシフトダウンも心地良い。ただ、アクセルをあまり踏み込まないと(つまり日常的な運転では)エコモードでなくても燃費を最重要視しているような挙動をする。とにかくシフトアップを急ぐ性格で、上がったギアはなかなか下がってくれない。パドルを使えばマニュアル変速もできるのだが、その応答性も少し遅く感じた。

interior

インテリアはエクステリア同様、シンプルにまとまっている。空調やインフォテインメントシステム用のスイッチ類は整然と並んでいる。シートは典型的なドイツ車的だ。硬いながらもサポート性は高く、長時間のドライブも快適にこなせる。リアシートのレッグルームも十分に確保されており、トランクは広大で、しかもリアシートを倒せばさらに荷室を拡張することができる。

今回は米国仕様車に試乗したのだが、カナダ仕様車には雨滴感知式ワイパーやブラインドスポットモニタリング、ナビ、プレミアムオーディオシステム、サンルーフ、自動防眩ミラー、デュアルゾーンオートエアコン、フロントシートベンチレーター、前後シートヒーター、運転席パワーシート、レザーインテリアが標準装備される。

GLIは非常に大人っぽい車で、静粛性も高い。スポーツモードにすると排気音がやや大きくなるのだが、それでもあくまでBGMに徹している。

ハードコアなスポーツセダンを求めているなら、この車は適していないだろう。けれど、スポーツ性を穏やかな布で覆った車が欲しい人にはぴったりだ。凶暴なドラゴンと対峙しても落ち着き払っているのだから。