米国「MOTOR TREND」によるキア・テルライド(2020年モデル)の試乗レポートを日本語で紹介します。
私がモーター・トレンドの記者になって間もない頃、オフィスには長期テスト用のキア・ボレゴが放置されていた。長期テストはだいたい1年くらいで終わるのだが、ボレゴのテスト車はその2倍近くの期間をオフィスの飾り物として過ごした。そして我々がボレゴに別れを告げる頃には、アメリカでのボレゴの販売自体が終わってしまった。販売不振のため、販売期間はわずか1年ちょっとだった。
ボレゴの出来が悪かったわけではない。実際、我々のテスト記録を見てもポジティブな表現が多かった。しかし、ボレゴは当時、時流にまったく合わない車だった。不況とガソリン価格高騰が重なった当時は、フレーム構造のフルサイズSUVを売り出すには最悪の時期だった。
当時のキアの勇敢さには拍手を送りたいところだが、よもやキアが再挑戦するとは思っていなかった。ところが、ボレゴの終焉からおよそ10年が過ぎ、ホンダ・パイロットや日産 パスファインダー、トヨタ・ハイランダーなどの強豪に真っ向から勝負を挑むFFベースのモノコックSUVとして生まれ変わったキア・テルライドが登場した。
テルライドは見た目だけでも印象的で、特に前述の3台の競合車と比べると非常に個性が強い。全体的なスタイリングはシンプルだし、過剰さもないのだが、ウインドウ下部のラインが後端で持ち上がっていたりと、ディテールを見るとなかなか面白い。特にキアが「逆L字型」と表現するテールランプは独創的で、それでいてテルライドにしっかり調和しており、夜になると引き締まった印象を与えている。
ボディが大きいので、なおのこと存在感は強い。全長5,001mm、全幅1,989mmで、ソレントと比べると全長は約20cm、全幅は約10cmも大きく、ボディサイズはフォルクスワーゲン・アトラスやパスファインダー、パイロットと同等だ。室内空間も広く、キアによると、車内総容量は5,043Lで、3列目シートの後ろにはクラス最大級となる595Lもの荷室が広がっている。
車重は1,900kg~2,100kg程度で、295PS/36.2kgf·mの3.8L V6ガソリンエンジンのみが設定される。トランスミッションは8速ATで、標準車は前輪駆動となり、4WDもオプション設定される。
走行モードは4種類(スマート、エコ、コンフォート、スポーツ)設定され、4WD車にはスノーモードとLOCKモード(常時四輪に駆動力が均等に配分される)が追加される。4WD車の場合、スマートおよびエコモードでは前輪のみが駆動し、コンフォート、スノーモードでは駆動力の20%が後輪に送られ、スポーツモードでは後輪の駆動力が35%になる。
試乗車は4WD車で、ナビには出発地のコロラド州ゲートウェイから車名の由来ともなったテルユライドという町までのルートが入力されていた。高速道路で追い越しをするならもう少しパワーが欲しいところだが、制限速度の低い小さなスキーリゾートであれば必要十分に感じた。
キアはサスペンションのチューニングが得意な会社ではないのだが、テルライドの操作性には驚いた。SUVに乗る人はほとんど出さないような速度でコーナーを攻めても十分に落ち着いていたし、乗り心地はしなやかで安定していた。
テルライドは静粛性も高かった。ただコロラドの道は比較的しっかり整備されているので、ロサンゼルスのような舗装の悪い地域でどんな走りをするのかはまだ未知数だ。とはいえ、基本的にテルライドは剛性感が高くて作りもしっかりしており、ちょっとしたオフロードを走行してみてもガタつくようなことはなかった。
インテリアの作りもしっかりしている。質感も高く、エルゴノミクスにも配慮されており、運転席からの視界も良好だ。ダッシュボード上部には使いやすいインフォテインメントスクリーンがある。
キアはコストパフォーマンスの高さに定評のあるメーカーだが、テルライドも例外ではない。Apple CarPlayおよびAndroid Auto、プッシュスタート、USBポート(5個)、衛星ラジオは全車に標準装備となる。上級グレードには10.3インチディスプレイ(標準は8.0インチ)やワイヤレス充電器、2台対応Bluetooth連携機構、USBポート(6個)が装備される。試乗車は最上級グレードだったのだが、こちらにはヘッドアップディスプレイやナッパレザーシート、スエード調ヘッドライナーも装備されていた。
試乗車は4WDの最上級グレード「SX」(2,000ドルのプレステージパッケージ付き)で、価格は46,860ドルだったのだが、これはホンダ・パイロットの同等グレードより約2,200ドル安い。ベースグレード「LX」は32,735ドルで、ハイランダー(32,425ドル)やパイロット(32,495ドル)との競争力は十分だ。
上級グレードには「ドライバートーク」と「クワイエットモード」という注目の装備も付いている。「ドライバートーク」はドライバーがマイクを通じて2列目、3列目の乗員と会話を楽しめる機能だ。「クワイエットモード」は2列目以降にオーディオが流れないようにする機能で、後席の子供たちは親の聴くラジオに邪魔されずに眠ることができる。
2列目がベンチシートの8人乗りが標準仕様で、2列目がキャプテンシート(「SX」のプレステージパッケージではシートヒーターおよびベンチレーター付き)の仕様はオプションとなる。2列目シートの背もたれの上にあるボタンを押すだけで3列目には簡単に乗り込める。3列目は平均的な大人2人もしくは子供3人なら問題なく座れるが、背が高いと天井に頭がついてしまうかもしれない。
キアによると、テルライドの安全評価は非常に高いらしく、レーンキープアシストやアダプティブクルーズコントロールなど、運転支援システムも多数装備されている。上級グレードには自動運転レベル2に相当する「ハイウェイドライブアシスト」も装備され、高速道路ではステアリング操作および速度調整の必要がほぼなくなるそうだ。
燃費性能は、2WD車のEPA燃費がシティ8.5km/L、ハイウェイ11.1km/Lで、4WD車はシティ8.1km/L、ハイウェイ10.2km/Lとなる。これはパイロットやハイランダーと同等の数字で、アトラスやシボレー・トラバースよりは優れている。
3列シートの大型SUVに新たな強豪が誕生した。テルライドは見た目も良く、パッケージングも優れているので、かつてのボレゴのように忘れ去られる心配はないだろう。