Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2003年に書かれたダイハツ・シャレード(日本名: ミラ)のレビューです。


Charade

レジで10ポンド紙幣を出して会計を済ませようとしていたら、レジに表示された金額は61.20ポンドだった。

最近はこんなことがよくある。今の物の値段は思っているより3倍はする。例えば、ホテルでダイエットコーラのペットボトルを飲んだとき、20ペンスよりは安いだろうと予想していた。なので60ペンス用意していたのだが、受付の女性は85ペンスを要求してきた。

コカ・コーラのペットボトル1本で85ペンスだ。どうしてこんなことが起こるのだろうか。今は原材料としてコカインなど使っていないはずだ。果たしてコカインの代わりに何を使うようになったのだろうか。金の延べ棒だろうか。ミルラだろうか。

チューインガムも同様だ。普通に考えて、ガム1枚の価格など5ペンスもしないはずだ。なので念には念を入れて3倍の15ペンスを用意したのだが、店員が要求した金額は35ペンスだった。

広告によると、ニコチンパッチを使えば禁煙できるそうだ。それは事実だ。ニコチンパッチは7個入りで17ポンドもするのだが、それでも煙草よりはまだ安い。

ところで、ニコチンパッチの包みを開けたことはあるだろうか。ハサミ(ニコチンパッチが一番必要になる航空機内で使うことはできない)を使わないと、開封するのは難しいどころか不可能だ。開封作業はあまりにも苛立たしく、このせいで一服したくなってしまう。おそらく、ニコチンパッチ業者には我々に禁煙させる気などないのだろう。

配管工にかかる費用も驚きだ。オーバーオールを着て家にやって来て、ボイラーの部品を新品に取り替える。家まで来て、また営業所まで帰る手間賃まで考慮してもせいぜい30ポンドだろう。3倍して見積もっても100ポンドだ。

ところが、請求された費用は2,400ポンドだった。緩衝材やら電気工具やら休日割増やら銀行手数料やら、考えうるあらゆる諸費用を考慮したとしても、こんなに高くはならないはずだ。

最近登場したLCCは良さそうだ。広告では「ニースまで20ポンド」と宣伝されている。ところが、どんな予約の仕方をしても100ポンドはかかる。その理由を尋ねても、生まれてすぐに予約をしなかったからだと返されてしまう。

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BBCのコストパフォーマンスは高い。8つのテレビチャンネルと無限のラジオチャンネルが1日わずか30ペンスで視聴できてしまう。確かに、ITVは無料で2チャンネル視聴できるのだが、ITVには見たい番組など存在しない。

新聞のコストパフォーマンスも高い。1日で何百万文字も読めるし、1文字あたりの値段を考えれば驚愕の安さだ。同様に本も安い。映画より安い値段で小説が買えるのだが、本なら映画よりずっと長く楽しむことができる。

マクドナルドのビッグマックセットはポテトとコーラが付いて99ペンスだ。これも驚きの安さだ。このうちコーラの値段が85ペンスであることを考えればなおさらだ。

しかし、現時点で最もコストパフォーマンスが高いのはダイハツのシャレードだろう。わずか5,995ポンドしかしないので、バスが遅れていてタクシーも見つからないとき、デビットカードで気まぐれに車が買えてしまう。

しかも、シャレードの装備内容はトルコの刑務所と同じくらい乏しいわけではない。ABSもEBDも2エアバッグも装備されており、車速感応式パワーステアリングやフロントパワーウインドウ、電動ドアミラー、集中ドアロック、CDプレイヤーも付いている。

パフォーマンスも不足はない。ダイハツは1965年にイギリスに初上陸した日本の自動車メーカーで、小さなエンジンから驚異的なパフォーマンスを発揮することができる。昔のシャレードGTtiは1987年当時、1L車としては世界で最もパワフルな車だったはずだ。

そんなダイハツは驚くべき変化を遂げた。新しいシャレードには12バルブ、DVVT、DOHCの3気筒 1Lエンジンが搭載される。あまり面白みのあるエンジンではないのだが、カタログ燃費は驚きの24.4km/Lで、現在販売されている4人乗りのガソリン車の中では最も経済的で最も環境に優しい。

それゆえ、パフォーマンスにはまったく期待していなかったのだが、0-100km/h加速は12.2秒を記録した。テストコースでも運転したのだが、小型車としては驚くほど活力のある車だった。

最高のエンジンは何か、という議論は頻繁に巻き起こる。BMW M3も傑作だが、フェラーリ 360のV8も無視できない。ホンダ S2000のVTECも忘れてはいけない。けれど、総合的に判断すると、シャレードの低フリクションツインカムエンジンは他のあらゆるエンジンより優れている。音すらも迫力があって心地良い。

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では、優秀なエンジンと優れたコストパフォーマンスを持つシャレードにはどんな欠点があるのだろうか。

シャレードは小型車だ。大きさは様々な状況で重視される。例えば、小さなペニスを夢見る男などいないし、小さな胸で満足できる女性もいない。小型テレビを熱望する人はいないし、そしてどれだけ合理的な選択肢だとしても、小型車を心から欲しがる人はいない。

ただし、高齢者は別だ。年を取れば小さな家を欲しがるようになり、狭い庭を求めるようになる。それに、高齢者が出かける用事といえば老人クラブくらいしかないので、小型車を欲しがる。

シャレードは安楽椅子と同じくらい乗り込みやすい。リアシートにも余裕があるし、荷室はフォルクスワーゲン・ルポよりも広い。信頼性の高さも考慮すれば、シャレードに勝る車など存在しないだろう。

なにより、シャレードの最大の魅力にまだ触れていない。シャレードは非常に快適な車で、ホイールベースの短さなど感じさせずにスピードハンプの衝撃を消し去る。サーキットでのハンドリングは他のどんな車よりも悪かったのだが、そんなことを誰が気にするだろうか。私の愛犬はアイロン掛けができないが、そんなことは誰も求めていない。

エンジンをかけると、メーター部分に「HELLO, HAPPY」と表示され、エンジンを切ると「SEE YOU - GOODBYE」と表示される。当然、こんな表示はハンマーで叩き割ってしまったが、それさえ無視すれば、運転しやすくて快適で、コストパフォーマンスが高くて室内が広く、実用的で経済的な、高速道路も走れるコンパクトカーだ。

しかし、この車の最大の注目点は、現代において稀な特徴だ。シャレードは予想よりも値段が安い。