英国「Top Gear」による新型マツダ3の試乗レポートを日本語で紹介します。
マツダ3はSUVでもクロスオーバーでもなく、ましてやSUV風を装っているわけでもない、純粋なハッチバックだ。とはいえ、今の時代、たった1車種のために完全専用設計のプラットフォームを一から作るということはありえないので、いずれはマツダ3から派生したクロスオーバーSUVも登場するだろう。
マツダ3にはわずか2種類のエンジンしか設定されない。トレンドに反する自然吸気の122PS 2.0Lガソリンエンジンと、時代に逆行する116PSの1.8L可変ジオメトリーターボディーゼルエンジンだ。
後者は旧型に設定されていた1.5Lと2.2Lの2種類のディーゼルエンジンをまとめて代替しているのだが、イギリス市場におけるディーゼルの販売比率はわずか5%になると予想されている。2019年内には待望の圧縮着火エンジン「SKYACTIV-X」も追加予定となっている。また、マツダ3には4WDも設定される。
当初設定される2種類のSKYACTIVエンジンはユーロ6dやWLTPに適合しており、ガソリン車には気筒休止システムも備わる。トランスミッションはいずれのエンジンでも6速MTと6速ATが選択でき、ATもデュアルクラッチではない普通のATだ。
マツダによると、新型モデルは一から完全新設計されているそうで、内装の雑多さもエンジンのフリクションも、余分なものはすべて削ぎ落としたそうだ。NVH性能からスイッチ類の操作しやすさ、インフォテインメントシステムの処理速度、室内の照明に至るまで、細部まで気を配られている。突出した何かはないのかもしれないが、こういったこだわりは称賛に値するだろう。主張の少ない、まさに日本的なアプローチだ。
ルーフラインやテールランプからはアルファ ロメオ・ジュリエッタとの類似性も感じられるが、非常にスタイリッシュで、それでいて整然としている。新型フォーカスのような過剰さはない。
初代マツダ3が登場したのは2003年で、それから世界累計600万台を販売しており、そのうち100万台以上がヨーロッパで販売された。最も売れていたのが2005年から2008年頃なのだが、それから10年以上が経った今、販売台数は半分以下にまで落ち込んでいる。
新型マツダ3には責務がある。ハッチバックというカテゴリー自体が衰退しているこの時代に、販売台数を回復させなければならない。しかも、マツダ3にはフルハイブリッドモデルやPHV、あるいはEVの設定もなく、近い将来に追加される予定もない。
イギリスでの発売は5月に予定され、エンジン2種類、トランスミッション2種類、グレード5種類が選択可能だ。180馬力前後のSKYACTIV-Xは2019年秋に登場予定で、(おそらくほとんど売れないだろうが)セダンもそれと同時に発売予定となっている。
マツダ3の走り自体にはまったくと言っていいほど欠点がない。滑らかだし、正確だし、素直だし、静かだし、落ち着いている。ハッチバックとしては非常に優秀だ。ただし、エンジンには十分な選択肢がない。
当初設定予定のエンジンはどちらも力不足だ。ディーゼルは始動時は非常に静かだし、レッドラインは5,500rpmと十分に高いのだが、116PS/27.5kgf·mというスペックは物足りない。1,500-4,000rpmではラグも少なく不足は感じないのだが、いずれにしてもイギリスでディーゼルはほとんど売れないだろう。
そうなると実質的に選択肢は1つしかなくなる。2.0Lの自然吸気エンジンにはディーゼル以上にがっかりしてしまった。3,000-5,000rpmのトルクは十分にあるのだが(最大トルクは21.7kgf·m/4,000rpm)、パフォーマンスは鈍く、エンジンの唸りも気になるし、それほど滑らかなわけでもない。マツダ車ゆえに活力を期待してしまうのだが、このエンジンにそんな要素は存在しない。
とはいえ、いずれのエンジンもSKYACTIV技術のおかげで経済的だし環境性能も高い。ガソリン車にはマイルドハイブリッドシステムが採用されており、回生ブレーキによって回収された電気は電装用の小さなバッテリーに蓄積される。マツダがこれを採用した理由はちゃんとあるのだろうが、間に合わせのようにも思えてしまう。やはり本物のハイブリッドがないと時代遅れ感は否めない。
マツダ3には他にも興味深い技術が使われている。GVCと呼ばれるトルクベクタリングシステムは、トラクションを最大限に確保するためでなく、コーナリングを滑らかにするために開発されており、特にロールからピッチへの移行時にトルクを穏やかに路面に伝える。GVCはエンジン制御のみならずブレーキ制御も行う。
実際、マツダ3のコーナリングは非常に滑らかで、ロールもしっかりと抑えられている。マイルドハイブリッドの回生システムはシフトアップ時に回転数を抑えるためにも使われており、変速ショックの低減にも役立っている。
トランスミッションの選択に迷っているなら、マニュアルを選ぶべきだ。このトランスミッションは素晴らしく、滑らかで操作感も良い。一方、ATはさほど優秀ではない。昔ながらのトルコンATは変速のタイミングがあまり適切ではなく、スポーツモードにしても状況は改善しない。パドルシフトもあるのだが、ATを選択すると1,300ポンドも高くなってしまうし、燃費も悪化してしまう。
このATはマツダ3の素晴らしい走りを台無しにしてしまいかねない。マツダは「人馬一体」を重視しているし、事実、マツダ3は基本的に非常に自然な車だ。エンジン性能の不足さえ無視すれば、あるいはゆっくり走るのであれば、流れるように見事に走ってくれる。ステアフィールは不足しているのだが、シャシの完成度は高く、18インチホイール装着車であっても乗り心地は非常にしなやかだ。
内装は保守的で、ダイヤルやボタンをタッチパネルで代用するという最近のトレンドにも沿っていない。しかしながら、マツダ3のインテリアも非常にクリーンでシンプルだ。空調類の操作系は使いやすく、インフォテインメントシステム(センターコンソールのダイヤルで操作する)のメニュー構造も分かりやすい。スイッチ類は合理的な配列で質感も高い。
ドライビングポジションは適切で、ステアリングの調節幅もかなりあるし、シートの背もたれの形もかなりしっかり作られている。少なくとも前席に座っている限りは、室内の居心地はかなり良好だ。
一方でリアシートはそれほど快適ではない。乗り込む際にはほぼ確実に頭を天井にぶつけてしまうし、痛みから回復してもレッグルームは不足しており、また太いCピラーのせいで窓が小さく、車内は暗い。子供ならまだ良いのだろうが、チャイルドシートが必要な年齢だとまた大変だ。それゆえに今、地上高が高くて屈む必要のないクロスオーバーSUVが人気を博している。同様に荷室も広くはなく、容量は358Lだ。
結論として、マツダ3は独り身か子供のいないカップル、もしくは高齢者向けの車なのだろう。しかし、若年層が120馬力そこらのスペックに満足するとは思えないし、現時点のラインアップだとかなり大人しめな人にしか訴求できないだろう。
マツダはオーディオの音質改善にも力を入れており、ウーファーはダッシュボードの低い位置に、ツイーターはドア上部に移設した。オプションとして12スピーカーのBOSEオーディオシステムも設定される。
ボルボはキーのボタンを側面に配置しているのだが、どういうわけかマツダもそれに追従してしまった。しかしこれは非常に使いづらいし、やめてほしかったところだ。
マツダ3の装備はかなり充実している。ヘッドアップディスプレイやレーダークルーズコントロール、LEDヘッドランプ、ナビ(Apple CarPlayおよびAndroid Auto対応)は全車に標準装備されている。
ベースグレードの「SE-L」より1,100ポンド高い「SE-L Lux」にアップグレードするとバックカメラやキーレスシステム、シートヒーターが追加装備される。マツダ3に付くような装備はこのクラスでも珍しく、競合車に装備されていたとしても機能に制限があったりするのだが、マツダ3は違う。どれも上級車顔負けの機能を持っている。
価格設定も適切だ。「SE-L」の装備内容は1,500ポンド高いフォーカスと同等だし、経済性も排気量の小さなフォードのEcoBoostエンジンと同等だろう。WLTP燃費はガソリン車が16.1km/Lで、ディーゼル車が20.0km/Lとなる。
しかし果たして、誰がマツダ3を買うのだろうか。上述の通り、若い人たちはもっと高性能な車を欲しがるだろうし、ファミリー層はもっと広い車を選ぶだろう。やはりマツダ3が訴求するのはシンプルで分かりやすい車を求める高齢者層に限られるのかもしれない。
新型マツダ3は革新的な車ではない。がっかりするような部分もあった。フルハイブリッドやEVのマツダを見たかった気持ちもある。マツダは技術とデザインの会社であり、電動化でもその技術力は活かせるだろう。
しかし、実際に登場したのは(現時点では)わずか2種類のエンジンしか設定されない普通のハッチバックだった。しかも、いずれのエンジンにも特別感はないし、DCTではなく大して優秀なわけでもないATを採用している。それに室内空間もさほど広くない。
しかし、マツダの細部にわたるこだわりは実感できる。インテリアデザインも、快適性も、遮音性も、乗り心地も、ハンドリングも、どこを見てもちゃんと目が行き届いている。それどころか、照明やスイッチ類の操作感など、細かい配慮も忘れてはいない。
目を引くような変化はないのだが、新型になって着実に質は上がっている。これこそ人間中心のアプローチだ。そうして完成したのは、使いやすくて出来が良く、そして良くも悪くも地味な車だ。
auto2014
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