Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2006年に書かれたアウディ RS4 のレビューです。


RS4

自分の子供の成績にも、自分の住居にも、自分の車にも、自分の休日の過ごし方にも、すべてに完全に満足しているような人間がいるなら教えてほしい。

かつて、私は「完璧な車」を見つけたと思ったことがある。私は天気の良い夏の夕刻に美しいイタリアの地でフェラーリ 355 とのドライブを楽しみ、カメラに向かってこう言った。
これこそが自動車という概念の完成形だ。

それから帰宅してすぐ355を購入したのだが、すぐに欠点に気付いた。ドライビングポジションは大型トラックと同じくらい最悪だし、スロットルレスポンスは悪いし、エンジンを手入れするためにはエンジンを車から取り外さなければならない。これには1100億ポンドほどかかる。

355は決して完璧な車などではなかった。430に進化する途中段階以外の何者でもなく、しかも430自体も完璧な車ではない。430の見た目はまるでサイダーがぶ飲み選手権で優勝した鱒だ。

私はまだ、何事にも満足できていない。今年のはじめ頃に旅行をしたのだが、その際に宿泊したのは配慮の行き届いたカリブ海の高級ホテルだった。しかし、そのホテルには労働党に献金しまくるような客ばかりがうろついていた。

私の家からの景色にも満足していない。家からの景色は基本素晴らしいのだが、遥か遠く地平線の彼方に電信柱が1本見える。景色を眺めているとき、その一点がどうしても気になってしまう。視界のほとんどは美しいコッツウォルドの田園風景が占めているのだが、私にはその電柱しか目に入らない。

私の目はどんなどきでも粗を探してしまう。ニューヨークの五番街をはじめて歩いたとき、ビルがあまり高くないことにがっかりしてしまった。妻と初めて出会ったとき、口紅の濃さが気になった。私の人生はどれをとっても完璧になりきれない。

つい最近、『The Power of the Dog』という本を1週間に2回も読んだ。最初に読んだときにはまるで欠点のない完璧な本だと感じた。しかし、そんなことはありえないと思い、すぐに読み返した。そうやって読んでみると、冗長に感じる文章も見つけたし、会話文が嘘っぽく感じられた部分もあった。

今でも好きな『ローカル・ヒーロー』という映画を見たときも同じことをした。最初に見たときは最高の映画だと感じた。しかし、2回目に見たときはジェニー・シーグローヴの靴が間抜けに見えた。

rear

ニール・アームストロングが月に降り立った際に残した歴史的な名言がある。しかし、私にとってはそれすら完璧に思えない。一人の人間にとって小さな一歩ならば、人類誰にとっても小さな一歩には違いないはずだ。まったくもって非合理的だ。

そしてこれがアウディ A4 の話に繋がる。A4は完璧に合理的なセダンなのだが、言うまでもなく私は欠点を見つけた。ボディサイドのプレスラインだ。しかしRS4の場合、巨大なホイールアーチや大径扁平タイヤのおかげでこれが目立たない。一目見ただけでもRS4がとてつもなく速そうだと感じる。そして事実、RS4はとてつもなく速い。

BMW M3の対抗車として誕生したのだが、アウディはやりすぎた。BMWには3.2Lの6気筒エンジンが搭載される。アウディは4.2LのV8エンジンを搭載した。BMWの最高出力は343PS、アウディは420PSだ。

今後登場予定の新型M3にもV8エンジンは搭載される予定なのだが、少なくとも現時点でV8を積むのはアウディだけだ。昨年、フランス南部(素晴らしい地域なのだが、ロシア人が多すぎる)でRS4に試乗したのだが、非常に気に入った。

15年ぶりに、まともなステアリングとまともなサスペンションを備えたアウディに乗った。そしてエンジンだ。なんということだ。傑作としか言えない。コヒノールと同じくらい比類なき完成度だ。

山道での運転は基本的に楽しかった。ただ、オランダ人のキャンピングトレーラーのせいで道が詰まってしまっていた。とはいえ、その車列はそれほど長くなかったので、420PSと4WDを活用し、ストリッパーの下着よりも小さな隙を縫って追い越すことができた。

しかし、RS4も完璧な車ではない。オプションのバケットシートはあまりにも巨大なので、リアにはレッグルームが一切存在しない。なので、5万ポンド払って4ドアのスポーツセダンを購入したはずなのに、4人を乗せることはできない。

セダンよりさらに高価なRS4カブリオレにも同じ問題がある。こちらはシートは普通なのにリアには子供さえ乗せることができず、荷室も悲劇的に狭い。

ただ、狭さは実用性が命のセダンとしては問題なのかもしれないが、カブリオレでは大した問題にはならないだろう。これまでにも何度となく言ってきたことだが、オープンカーのリアシートに乗っても間抜けに見えないのはヒトラーくらいだ。

RS4 Cabriolet

カブリオレもセダン同様、車の印象のほとんどはエンジンが占める。会計士だらけの部屋の中にネルソン・マンデラが1人混ざっているようなものだ。そしてこのエンジンが素晴らしい。音は見事でルーフを開けてじっくり聴きたくなるし、トルクも見事なのだが、やはり最大の魅力は馬力だ。

ジャガーは4.2LのV8エンジンにスーパーチャージャーを載せてかろうじて400馬力を実現している。しかし、アウディの420PSには何の補助装置も存在しない。それゆえ、これだけのパワーが何の不快感もなく四輪へと伝達される。0-100km/h加速は4.9秒で、最高速度はリミッターが作動して250km/hだ。

ここまではまだまだ序章だ。ステアリング内には「S」と書かれたボタンがある。スポーツボタンを装備する車はたくさんあるし、それぞれがサスペンションやステアリングの設定を変更しているそうだ。しかし、基本的にはどの車の場合でもメーター内が光る以外の変化はない。

しかし、RS4は違う。このSボタンはスロットルのマッピングを変更し、公道ではまともに運転できなくなる。サーキットか、せめて周りに誰もいないときにしか押すべきではないだろう。これはいわばアポロ13号の酸素タンク撹拌スイッチのようなものだ。

このスイッチさえ無視すれば、乗り心地も見事だし、音は神の雄叫びのようだし、操作性や安定性はBMW M3と同じくらい高い。これはかなりの褒め言葉だ。

昔のクワトロはノーズヘヴィーだったのだが、アルミ製のフロントフェンダーの採用やエンジン搭載位置の後退によりそんな欠点もなくなっている。それに、クワトロ4WDシステムは駆動力の60%を後輪に送ってくれる。理想的だ。

見た目も気に入ったし、質感の高さも気に入ったし、直感的な操作系も気に入った。セダンだけでなく、カブリオレでルーフを開けても閉めても落ち着きが損なわれることはなかったし、ナビすらも気に入った。

当然、完璧な車ではない。そんな車など、そんな存在など、私の世界にあるはずがない。しかし、この車の欠点を見つけるのは私には難しい。なので、『ローカル・ヒーロー』や『The Power of the Dog』のときと同じように、欠点が見つかるまで何度も乗ってみようと思う。

答えが出るまでにはまだ時間がかかりそうだ。