インド「OVERDRIVE」によるバジャージ・キュートの試乗レポートを日本語で紹介します。


Qute

バジャージ・キュートは2012年に登場した。ただし、バジャージはインドのメーカーなのだが、初登場はインド国内ではなかった。当時、インドにはキュートのような小型四輪車が公道を走行するための法律が存在しなかった。衝突安全性に関する懸念もあり、つい昨年までキュートは法廷での争いの種だった。

2018年、インドの道路交通省は四輪自転車 (quadracycle) という区分を正式に承認し、インド国内でも合法的にキュートを運転できるようになった。キュートには商用と個人用のいずれも設定されている。

しかしそもそも、四輪自転車とは何なのだろうか。これはヨーロッパで言うところのマイクロカーのようなもので、この規格にはボディサイズや車重に制約があり、規定の排気ガス性能および衝突安全性能をクリアする必要もある。キュートはインドの規格に適合しているのみならず、オランダのRDWによる欧州の型式認証 (WVTA) も受けている。

見た目は名前の通りキュートと表現せざるをえない。ボディサイズが小さいのでハグをしたり頭、もとい屋根を撫でたくなってしまう。

バジャージは狭い街中に最適な車として開発を行ったため、ボディサイズは非常に小さい(全長2,752mm x 全幅1,312mm x 全高1,652mm)。眺める角度によってはまるで(良い意味で)おもちゃの車のようにも見える。

ヘッドランプの形状も手伝って顔はまるで虫のようだし、ブラックのバンパーが良い対比となって非常に個性的だ。真横から見るとウインドウはほぼ垂直に立っており、背の高さが際立つ。ただし、平板な印象にしないために、ボンネットからリアフェンダーまで、そしてフロントドアからリアバンパーまでの2本のキャラクターラインが入っている。

rear

小さなテールランプの形状も独特で、概して見た目は個性的だ。実際、試乗中も周りからの視線を感じたし、二度見する人もたくさんいた。どこへ行っても注目を集めることだろう。

四輪自転車には475kgという重量制限があるため、ボディは板金とプラスチックでできている。ルーフやピラーなど、剛性が必要な部分には板金が、そしてドアやボンネットなどにはプラスチックが使われている。

インテリアは非常に簡素で、質感や作りからはとにかくコストカットの心意気が感じられる。ダッシュボードの配置はシンプルで、中央にメーターが配されている。燃料残量表示とギア表示はデジタルなのだが、メーター内で現代的なのはこれだけだ。

キュートにはエアコンすら装備されず、同様にデフォッガーなどもない。装備の不足は明らかなのだが、重量制限やエンジンの非力さを考慮すれば、エアコンを装備できない事情も理解できる。代わりにAピラーには通風口があり、フロントバンパー上部の小さなダクトから入った空気が車内へと送られる。なかなか賢い機構にも思えるが、渋滞時には無力だ。

収納スペースは充実しており、ダッシュボード上部には左右それぞれに施錠可能なグローブボックスがあり、ドアポケットも容量が大きいのでペットボトルや各種小物を入れることができる。

個人的には、直線パターンのごく普通なシフトレバーがこれぞ”車”という感じで使いやすくて気に入った。現代のニーズにも合わせて、12VソケットやAUXおよびUSB入力対応の音楽プレーヤーも装備される。

interior

シートポジションはバンに近いのだが、ステアリングの位置は少し低い。運転席は前後スライドは可能なのだが、リクライニングはできず、運転席以外の座席はそもそも何も動かない。

パッケージングは非常に良好で、4人が乗ってもニールーム、ヘッドルーム、ショルダールームには余裕がある。荷室も広く、ボンネット下に最大20kgまでの荷物を積むことができるし、オプションでルーフキャリア(最大積載量40kg)を装備することもできる。

キュートに搭載されるのは2気筒 4ストローク 216ccのツインスパーク (DTS-i) エンジンで、5速シーケンシャルトランスミッションが組み合わせられる。CNG版は最高出力11PS/5,500rpm、最大トルク1.6kgf·m/4,000rpmで、ガソリン版は最高出力13PS/5,500rpm、最大トルク1.9kgf·m/4,000rpmとなる。

このスペックは120~150ccのオートバイに近く、400kg超の四輪車をまともに動かせるか心配になってしまう。しかし、キュートという車の性格まで考慮に入れれば、実のところ必要十分な性能を発揮してくれる。

1速と2速はギア比がショートなので、都市部の交通の流れであれば問題なくついていくことができる。30~40km/h程度までの加速はオートリクシャー(三輪タクシー)よりも速く感じられたし、信号間の加速であれば普通の車にもついていけた。ちなみに、今回試乗したのはCNG仕様車なので、ガソリン仕様車はこれよりも速い。

フル乗車、フル積載時の性能についても言及しなければならないのだが、ちょっとした傾斜くらいであっても顕著な性能低下はない。エンジンの静粛性は基本的には良好なのだが、レッドゾーン付近ではかなりやかましいので、早めのシフトアップを心がけるべきだろう。

back seat

最高速度は安全性確保のために5速で70km/hに制限されている。経済性はCNG仕様車のほうが高く、CNG 1kgあたり45km走行できるそうだ。ガソリン車の燃費も良好で、カタログ燃費は35km/Lとなっている。経済性の高さは商用車として使う際にも大きなメリットになるだろう。

オートリクシャーと比べると、操作性は明らかに優れている。リクシャーは三輪車だけに非常に不安定なのだが、キュートは四輪車であるおかげで安定性が高い。スタビリティの高さにはモノコック構造であることやサスペンションの構成も影響している。

フロントサスペンションはツインリーディングアーム式でスタビライザーも装着され、リアにはセミトレーリングアーム式サスペンションが採用される。おかげで衝撃吸収性も良好で、乗り心地もオートリクシャーより圧倒的に優れている。

急な車線変更時やコーナリング時にはスタビライザーの恩恵が感じられる。ラウンドアバウトで徐々に速度を上げてどれほど怖いか試してみたのだが、スタビリティの高さに驚かされるばかりだった。ブレーキは四輪ドラムながらも強力で十分な性能がある。

キュートにはシートベルト以外の安全装備が存在しない。ABSもエアバッグも装備されない。現時点では法的にもそのような安全装備が必須となっていない。とはいえ、オートリクシャーと比べればまともなドアの付いているキュートのほうが明らかに安全だ。

キュートは三輪タクシーからのアップグレードとして適切な車だし、ちょっとした輸送用の商用車としても良いだろう。平均速度が低く、道も駐車場も狭い街中での移動手段として考えれば、キュートという選択肢は十分にありだろう。

しかし、これはあくまで仕事用の車としての話であり、個人所有する車として考えるとさすがに装備が貧弱すぎる。26.3万ルピー(ガソリン仕様)、28.3万ルピー(CNG仕様)という価格はオートリクシャーより10万ルピーほど高いのだが、差額分の価値は十分にありそうだ。