Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ランドローバー・ディフェンダーをベースとしたチューニングカー、ツイステッド 110 V8 のレビューです。


Twisted 110

私は昔からディフェンダーのことが好きではなかったし、2016年にディフェンダーの製造が終了した際、感傷に浸って涙を流した髭男たちの気持ちも理解できなかった。

1840年代にランドローバーがウィリス・ジープをコピーしたのは賢明な判断だっただろうし、ランドローバーにとって重要な出来事でもあっただろう。しかし、ヴィクトリア女王が死ぬ頃にはディフェンダーは既に窮屈で時代遅れな車になり、軍すらも使うことを諦めた。ところが、イギリスの片田舎で開催されるビール祭りや殺人鬼の集会では、指を泥まみれにした人達が自分の半身を失ったかのように悲しみに暮れた。

私にとってディフェンダーは赤い電話ボックスのようなものだ。懐かしさだけが存在意義だった。実際は、浮浪者の下着の臭いがして、隙間風まで入ってくるような電話ボックスを使うより、iPhoneを使って電話をかけたほうがずっとましだ。それに、田舎道を走りたいなら、遅くて操作性が低く、作りも悪いディフェンダーなんかより、最新のピックアップトラックに乗ったほうがずっとましだ。

先週、職場に行ってみると、駐車場にイギリスの懐古主義者たちが泣いて喜ぶであろう車が停まっていた。そこにいたのはディフェンダー110だったのだが、巨大なタイヤとホイールアーチ、そして太陽にも勝るほどの光を放つライトが付いており、排気管から想像するに、エンジンは百万馬力はあるだろう。

実際にボンネットを覗いてみると、そこには石炭を使うボイラーの代わりに、他でもない、シボレー・コルベットのLS3型V8エンジンが搭載されていた。これは決して出来の悪いエンジンではないのだが、リチャード・ハモンド以外に欲しがる人など存在しないと思っていた。車には『TWISTED』とロゴが付いており、真ん中の”S”は左右が反転していた。いかにもリチャード・ハモンド的なセンスだ。

困ったことに、この車は私に貸し出された試乗車だった。しかも、渡されたカタログにはツイステッドのオーナーの娘からの手紙まで入っていた。

“ジェレミー・クラークソンさま。
わたしのだいすきなツイステッドのディフェンダーにのってみてください。
きにいってくれたらうれしいです。おとうさんもよろこんでくれるとおもいます。
7さいのモリーより。”


私は強い心でもって決意した。こんな手紙になど決して惑わされないと。なにせ、試乗車の価格は15万ポンドを超えていたのだから。しかし、こんな価格では、ツイステッドのお膝元のノース・ヨークシャーではそうそう売れないのではないだろうか。

翌日、コテージに行く用事があって出掛けたのだが、その日は悪天候で、先がまるで見えなかった。「こんな酷い雨は初めてだ」と言う人はよく見かけるのだが、今回に限ってはまさに文字通り体験したことのない豪雨だった。インドのモンスーンも、ベトナムの雷雨も、チリ南部の土砂降りも経験したことがあるのだが、その日のオックスフォードシャーで巻き起こった爆撃に勝るものはなかった。消防飛行機の下を運転しているような気分だった。

はっきり認めてしまうが、ツイステッド以上にこういった状況に適した車は存在しない。あらゆる窪みに湖が生まれ、あらゆる斜面に川が生まれていたのだが、ツイステッドは悠然と進んでいった。何度となくルーフのライトが水面に反射して前が見えなくなってしまったのだが、この車と比べると、メルセデスのゲレンデヴァーゲンすら玩具に見えてしまう。

普通、こういった車を生み出すような人達は、足回りには詳しくても、内装を作り上げるセンスが絶望的なことが多い。大体そういった人達は自分の妻に頼るのだが、その妻もズボンの裾上げは得意でもダッシュボードの縫製までできるわけではない。

interior

ところが、ツイステッドの内装は見事で、ショルダールームが足りないことを除けば、非常に居心地が良かった。しかも、後付けのナビや操作系も合理的だったし、必要のない装備が満載されているわけでもなかった。

翌日、雨がやんだので、このモンスターをじっくりと眺めてみることにした。荷室にはスロージンやキングスジンジャーなど、イギリスのキジ狩りが好きそうな酒を入れるのにぴったりのチェストがあり、銃用の収納スペースまで用意されていた。ただし、これは上述の価格には含まれていない。

しかし、上述の価格で驚くべきスピードを得ることができる。右足を少し突けば轟音が響き渡るのだが、考えてみれば自分が乗っている車はランドローバー110のはずだ。こんな老体を駆け足以上の速さでまともに走らせることなどできないはずだ。

ところが、その考えは現実に否定されてしまう。アクセルを床まで踏み込むと、ATは1段か2段シフトダウンし、ノーズが持ち上がり、半径400m以内にいる牛すべてを気絶させるほどの轟音とともに、思わず笑い出してしまうほどの加速をしていく。この車は単に速いわけではない。滑稽なほどに速い。

しかも、コーナーでやたら減速する必要もない。ゴツゴツしたクーパーのタイヤには子鹿ほどのグリップ力もないはずなのだが、専用設計のサスペンションやRECAROシートのおかげで、まともなコーナリング性能を実現している。唯一不満だったのは、ディフェンダーの対向車が来ると、私を仲間だと思ったのか手を振ってきたことくらいだ。
違う。私はお前みたいな懐古主義者とは違うんだ。

今や、ビジネスマンたちは皆、超巨大な腕時計を身に着け、あのルパート・ベアすら派手だと思うほどのツイードを着ている。そんな世界では、ただのレンジローバーでは目立つことができない。

なので私は、そんな世界をツイステッドで走りたい。ツイステッドなら、森深くまで進むことも、そして誰よりも速く走ることもできるだろう。

モリーちゃん。私はツイステッドを気に入ったよ。モリーちゃんが先生のことを嫌っているのと同じくらい、私はディフェンダーが嫌いだったけど、君のお父さんの車は好きになれた。もし私がレンジローバーを買っていなければ、きっとツイステッドに惹かれていただろう。特に酒を入れるキャビネットが気に入った。