Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェームズ・メイが2010年に英「Telegraph」に寄稿した「カレンダー」をテーマとしたコラム記事を日本語で紹介します。


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来年のカレンダーについて語るにはまだ早すぎるかもしれないが、私にはある考えがあるので、そろそろ行動に移さなければならない。それに、この考えを実現させるためには皆さんの助けも必要だ。

私は以前、カレンダーを作ったことがある。確か名前は「ジェームズ・メイ・セレクション 1960年~1970年代のスーパーカーたち」とかそんな感じだったと思う。そのカレンダーにはたくさんのスーパーカーが写っており、写真には私も一緒に写っていた。

車しか写っていないカレンダーが他にたくさんあるのに、こんなカレンダーをわざわざ購入するような輩がどこにいるのだろうか。これこそが問題だ。

私は独自にカレンダーの市場調査(近所の量販店のカレンダー売り場をちょっと眺めてみた)をしたのだが、カレンダーの題材として自動車はかなり人気らしい。つまり、スーパーカーのカレンダーを売るためには、表紙でヨガのポーズで浮いている自分の写真なんかよりもずっと魅力的な「売り」を付加させることが必要だ。

車以外だと、猫のカレンダーも人気がある。それも考慮すると、来年は「ジェームズ・メイ・セレクション 猫とスーパーカー」というカレンダーを売ってみたらどうだろうか。そうすればきっと市場は倍になるはずだ。なぜなら、車好きと猫好きの両方に訴求することができるからだ。

しかし、現実はそう単純ではない。売り上げを向上するために2種類の人気題材を組み合わせるのは簡単なのだが、例えばボーイゾーンとコッツウォルドの風景を組み合わせることはできない。そもそもボーイゾーンはコッツウォルドになど行かない。

同様に、イギリスのクラシックバイクにフラワーアレンジメントを加えることもできない。前代未聞かもしれないが、この上なくシュールな結果となってしまうだろう。

しかし、猫と車の組み合わせは日常的に見かける。猫はエンジンの熱を求めて車に近付いてくる。陽の光に照らされたフェラーリ・カリフォルニア スパイダーのファブリックルーフの上でひなたぼっこをしている。

しかし、犬はそんなことをしないので車と組み合わせることはできない。犬はせいぜい、ピックアップトラックの荷台で暴れ回るのが関の山だ。

というわけで、私はこの名案を友人のところに持ち込んでみることにした。ここでは友人の名前を仮にクリスとしておこう(本名がクリスなので)。そして私はクリスにこのアイディアを簡単に説明した。

彼はベン図を描いて市場原理について延々と語っていたのだが、その話を要約すると、彼は私のアイディアを馬鹿げていると思っているらしい。私のアイディアは顧客を倍にするのではなく、むしろ顧客を半分に減らしてしまうそうだ。

しかし、私にはその理屈が理解できなかった。猫好きは猫がスーパーカーの上にいようとも気にしないはずだ。なぜなら「空中浮遊する猫カレンダー」でもない限り、猫は何かの上にいなければならない。それがマットだろうとフェラーリ・250 GTOだろうと大差はないはずだ。

それに、車好きも猫を気にするとは思えない。確かにジェレミー・クラークソンが自転車に乗っている姿は本質的に間違っているかもしれないが、猫が車の上に乗ることはいたって自然だ。

そしてさらに、猫とスーパーカーの組み合わせではもうひとつの新しい顧客層を生み出すことができる。この組み合わせを前衛芸術と捉える層だ。そういった人達は普通、カレンダーなど購入しない。カレンダーは実用的ながらも大半が退屈だからだ。猫と車の組み合わせは陳腐に溢れたカレンダー業界に新しい風をもたらすことだろう。

私のカレンダーはただ刺激的なだけでなく、カレンダーとしての機能もしっかりと有している。各日付に用事を書き入れることができ、国民的な行事はしっかり元から記載されている。クリスマスの日付も分かるので、事前にパブが満員であることも知ることができる。

カレンダーはクリスマスによく売れる。そしてプレゼントとして考えると、私のカレンダー以上のものはないはずだ。他のカレンダーをプレゼントしても「他に何を選ぶべきか分からなかったから何でも良かったけどとりあえずこれにした」という印象を与える。しかし、私のカレンダーなら「このカレンダーの独創性に惚れて買ったんだ」ということを主張することができる。

「猫とスーパーカー」はプレゼントして魅力的だ。ところが、先見性のないクリスは私の考えを一蹴し、金銭的なサポートをすることを断った。これが冒頭の話に繋がる。私の誠実さを認め、「猫とスーパーカー」を良いアイディアだと思ってくれる人がいれば、ぜひ一報をいただきたい。