Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、1999年に書かれた三菱 ランサーエボリューションVI およびギャランVR-4 のレビューです。


Galant VR4

三菱 ランサーエボリューションVI は排気量わずか2.0Lの小さな4ドアセダンなのだが、価格は31,000ポンドと高価だ。ランエボはエスコート コスワースの消えた世界でイギリスの若者を惹き付け、悪の星へと誘う蠱惑的な走りを魅せる。ランエボは三菱ラリーカーの公道版であり、0-100km/h加速は6.7秒を記録する。とてつもなく、途方もなく、疑いようもなく、速い。

しかも、4WDシステムとアクティブ・ヨー・コントロールとやらのおかげで物理法則を超越する速度でコーナーを曲がることができる。これまで15年間にわたって車のテストを行ってきたのだが、これほどまでに人を夢中にさせる速さを持つ車はなかった。

アクセルを踏み込むと一切のラグもなく暴力的に前へ前へと突き進む。目前に死が差し迫るような恐怖感を抱き、つい叫ばずにはいられない。

石畳の上をスケートボードで走るくらいの快適性しかないのだが、どんなコーナーであろうと心臓を裂くかのごとく突き進み、セムテックスでも積んでいるかのような爆発的な速さでストレートを駆け抜けていく。ジェットコースターで買い物に行くような気分だ。

街中に入ると、この車の新たな魅力に気付く。不良たちは電話ボックスを破壊するのを中断し、ランエボに向かって敬礼してくる。ピアス穴を開けることなくイギリスの若者から尊敬されたいなら、迷わずエボVIを購入するべきだろう。

ただし、高速道路の渋滞だと、周りの反応は全く変わってしまう。橋と同じくらい巨大なリアスポイラーや青いマッドフラップ、それに巨大なラジエーターグリルはかなり目立つ。はっきり言ってしまうと、嘲笑の種になってしまう。

氷上のコーナーでさえ1Gを生み出すことのできるランエボの性能の高さは認めざるをえないのだが、周りの人間から「あの間抜けな車に乗ってるのって、テレビに出てる奴じゃん」と指を差されるのは御免だ。

自動車雑誌は「ポルシェイーター」だの「公道ロケット」だのと様々な二つ名を付けているのだが、人間が革靴を履いている現実世界においてこの車はこの上なく低俗なものでしかない。薬の売人かサッカー選手でもない限り、この車を購入するべきではないだろう。残念ながら。

しかし、失望する必要はない。ランエボには兄貴分がいる。4WDのグリップも、アクティブ・ヨー・コントロールも、爆発的なターボチャージャーも備えつつ、それでいてずっと穏やかな存在だ。

Evo VI
ランサーエボリューションVI

その名もギャランだ。ギャランにもスポイラーや膨らんだホイールアーチは付いているのだが、いずれも小さくて抑えが効いている。室内には木目調のダッシュボードやオートマチックトランスミッションがあり、落ち着いた雰囲気がある。グローブボックスを開けたらエドワード・フォックスがいそうなほどだ。

この車で街中に出ても不良たちはまったく気付かずに電話ボックスを破壊し続けるだろう。プレスコット氏が引き起こした渋滞にはまっても、周りの人間は鼻をほじり続けるだろう。外からの印象はランエボとはまったくの別物だ。

しかし、その内側には2.5LのV6エンジンが搭載されており、なんとターボチャージャーが2基も付いている。おかげで0-100km/h加速はわずか5.5秒でこなし、最高速度は240km/hだ。

ランエボほど速くはないのだが、ランエボより快適だし、装備も充実しているし、驚くべきことに価格も安い。5ドアのステーションワゴンすら29,995ポンドで購入できてしまう。とんでもないコストパフォーマンスの高さだ。

こんな車など、手放しで称賛して然るべきなのかもしれないが、もう少し慎重に考えてみる必要がありそうだ。かつて私は世界最高の車はメルセデス・ベンツ Sクラスであると言ったことがある。それから少しして私は、ホールデン HSVこそが最高の車だと言った。

次の「最高」の称号はいずれ登場する新型BMW M5にとっておくべきなのだろう。しかし、私はそれでも、ギャランを褒め称えずにはいられない。ギャランは日本的なハイテクと見事なデザインが融合した最高の車だ。

この車は万人に勧めることができる。メカ好きはアクティブ・ヨー・コントロールを気に入るだろう。特に作動中に点灯する緑のLEDは気に入るはずだ。それに、一般人は3年保証を気に入るだろう。そして私は240km/hで走れるステーションワゴンであるという点を気に入った。

エボVIを所有するのは簡単なことではない。けれどギャランなら、それと同じくらい過激な人生を、胸焼けすることなく手に入れることができる。なんと素晴らしいことではないか。