英国「Auto Express」によるフォルクスワーゲン・ゴルフGTI の試乗レポートを日本語で紹介します。


Golf GTI

ホットハッチは諸行無常だ。1975年に登場した初代ゴルフGTI に搭載されていた1.6Lエンジンの最高出力はわずか110PSだった。それから42年の時が流れ、7代目となったゴルフGTI の最新モデルは初代の2倍を超える最高出力230PSの2.0Lターボエンジンを搭載している。

初代 GTI から考えれば大幅な進歩であり、またこの230PSという数字はマイナーチェンジ前のモデルよりも10PSも向上している。にもかかわらず、今やFFホットハッチの中で最もパワフルなモデル(セアト・レオン クプラやホンダ・シビックタイプR)は300馬力を超えている。しかし、GTI は数字を追い求めた車ではない。GTI は常に中庸であり、そして実力派だ。

マイナーチェンジ前に設定されていたパフォーマンスパッケージは引き続き設定され、最高出力がさらに15PS向上して245PSとなり、LSDも装備されるのだが、今回は230PSの標準モデルの6速DSG車に試乗した。

今回のマイナーチェンジはかなり大掛かりなものとなっている。言うまでもなくエクステリアも変更されており、新設計のLEDヘッドランプが装備されて前後バンパーのデザインも変更されているのだが、それよりも大きな変更点は室内にある。

ダッシュボード中央には新設計の9.2インチナビゲーションシステム(オプション)が配されており、ジェスチャーコントロールでの操作が可能となっている。ただ実際のところ、これはただのギミックでしかなく、実用には耐えないと感じた。操作するためには4歳児のオーケストラをまとめる指揮者のごとく必死に手を振り回さなければならない。

新しいナビは物理ボタンがなくなってすべてタッチパネルでの操作となっているため、画面脇の便利だったショートカットボタンもすべてなくなっている。少なくとも見た目は良いのだが、このオプションを装備するためには1,325ポンドも払わなければならない。

interior

それ以外の部分は基本的に変わっておらず、室内は快適で作りも良く、居心地は非常に良い。試乗車にはゴルフGTI のトレードマークとも言えるタータンのスポーツシートは装備されていなかったので少し個性に欠けていたのだが、液晶メーターは特徴的と言えるだろう。基本的に設計は非常に合理的で、シビックタイプRのナビやシートポジションに苦しめられた後に乗れば GTI に安心感を抱くはずだ。

走りも同様に堅実だ。低速域の快適性は非常に高く、操作は軽くて乗り心地はシビックタイプRよりもむしろメルセデス・ベンツ Sクラスに近い。もちろん GTI の最大の武器はパフォーマンスなのだが、渋滞の溢れる現実世界においては快適性も同じくらい重要となってくる。

2.0Lターボエンジンは非常に滑らかで、よりスペックの高い競合車のような狂気はない。それでも0-100km/h加速は7秒未満と十分に速く、現実世界において不足を感じる場面はほとんどないだろう。ただ、パブで愛車のカタログスペックを自慢したいならシビックタイプRを選んだほうがいい。

バランスが非常に良く安定しているので、コーナーでの操作性は非常に高く、競合車に対するスペックの不足も十分に埋められる。標準車には本物のLSDは装備されないのだが、XDS+システムがフロントブレーキを制御して擬似的にLSDの働きをしてくれる。ただし、コーナーで飛ばしすぎるとフロントのグリップが失われてしまうこともある。

それでも非常に俊敏で、アダプティブダンパーをスポーツモードにしておけばボディの動きもしっかり抑えることができる。速く正確に走るのは非常に楽しく、四輪すべての状況がはっきりと伝わってくる。コーナー途中でスロットルを緩めたりブレーキをわずかに踏んだりすればリアがわずかに滑るのだが、そんな状況も手に取るように分かる。

6速DSGは正確で変速も素早く、燃費も良いのだが、運転を最大限に楽しみたいならやはりマニュアルトランスミッションを選ぶべきだろう。MT車のほうが価格も1,415ポンド安い。

rear

問題点はあまりないのだが、挙げるとしたらフォルクスワーゲンのラインアップ自体の問題だ。GTI も面白い車なのだが、フォルクスワーゲンにはさらに上がある。ゴルフGTI にはクラブスポーツおよびクラブスポーツSというモデルもあり、こちらのほうがより速く、より軽く、より高性能だ。

現在はもう売り切れてしまっているのでクラブスポーツを購入することはできないのだが、標準のゴルフGTI の快適性をそのままに、標準車以上の性能を実現した車が存在するという事実は変わらない。

実用性に関しては標準のゴルフと同様で、広大な室内空間が確保されている。荷室容量は380Lで荷室幅は広く、前後方向にも長いし、フロア下にもわずかながら収納スペースが用意されている。

実用性では5ドアモデルが明らかに勝っており、実際の販売台数も5ドアが圧勝するのだろうが、3ドアモデルも乗り込んでしまえばリアシートは5ドア同様にヘッドルーム・ニールームともに十分な余裕がある。リアに大人3人が乗るのは不可能ではないのだが、長時間の移動は避けたいレベルだ。