米国「Car and Driver」によるシボレー・ブレイザーの試乗レポートを日本語で紹介します。


Blazer

シボレー・ブレイザーの復活にはどんな期待がかかっていたのだろうか。かつてのK5ブレイザーのようにジープ・ラングラーに真っ向勝負を挑む車だろうか。1980年代から90年代にかけて人気を博していたトラックベースSUVのS-10ブレイザーの復活だろうか。

結局、新型ブレイザーはどんな期待とも違う姿で復活した。ブレイザーはシボレー・エクイノックスとトラバースの間を埋めるモノコックのクロスオーバーSUVに生まれ変わった。

コンパクトSUVはどの車も同じような車になっているのだが、ミドルクラスの2列シートSUVに関しては現状、成功の方程式というものが存在しない。昔ながらのフレーム構造を採用する荒削りなトヨタ 4ランナーから、硬派なジープ・グランドチェロキー、そして乗用車的なフォード・エッジ日産 ムラーノに至るまで、成功しているモデルに共通点はない。それどころか、ステーションワゴンベースのSUVであるスバル・アウトバックという変わり種も独自の市場を開拓して成功している。

新型ブレイザーは GMC アカディアやキャデラック XT5 と基本構造を共有しており、上述した中ではエッジやムラーノに近い。ブレイザーもオフロード性は主張していないし、ボディサイズもこの2台に近い。

このクラスへの参入の遅れを補うためか、ブレイザーのデザインはやたら派手だ。フロントグリルやテールランプなど、一部のデザインは過剰にも思えるのだが、個人的にスポーティーなプロポーションは気に入った。トレッドはプラットフォームを共有する兄弟分よりも広いし、ボディサイドに描かれた曲面は存在感を強めている。

インテリアはシボレー・カマロからインスピレーションを得ているのだが、そもそもカマロのエルゴノミクスはあまり褒められたものではない。とはいえ、ブレイザーは室内空間に余裕があるので、内装で目立つ問題はやたら低い位置に配置されたエアコン吹出口くらいだ。前方の視界はサイドクォーターウインドウのおかげで良好だし、太いDピラーもあまり視界の邪魔にはならない。

内装の質感はクラスの平均以下だ。ダッシュボード上部にはソフトな素材も使われているのだが、下に目を向ければ硬いプラスチックが多用されているし、パネル類もあまり魅力的に思えなかった。インフォテインメントシステムはGMの最新式で、拡張性に不足はなく、入力に対する応答性も良好で、メニューもしっかり整理されている。

interior

室内空間にも余裕がある。前後ともにレッグルーム・ヘッドルームいずれも広大だし、リアシートはスライドもリクライニングもでき、畳めばフラットな荷室を作ることもできる。

ベースグレードには自然吸気 4気筒 2.5Lエンジンが搭載される。決して速くはないのだが(196PSというスペックを考えれば当然だ)、静粛性は高く、サスペンションもしなやかだ。オプションのV6はGM最新の3.6Lユニットで、312PS/37.3kgf·mとパフォーマンスに不足はなく、心地良い音と十二分な加速を生み出す。今回試乗したV6の4WDモデル(車重は1,947kg)は0-100km/h加速6.3秒を記録した。

トランスミッションは9速ATのみが設定され、基本的に変速機の存在感は薄いのだが、飛ばし気味に運転しようとするとキックダウンの遅さが気になった。マニュアル変速はシフトレバー操作でしか行えない。

4気筒モデルは2WDのみの設定となり、V6モデルを選ぶと自動的に4WDとなる。4WDのセッティングは至って普通で、燃費のために前輪のみを駆動させるモードも用意されている。上級グレードの「RS」と「Premier」には後輪のトルクベクタリングシステムも装備され、コーナーでより機敏な走りを見せてくれる。

試乗車のグレードはV6のみに設定されるRSで、強化されたダンパーが装備され、ステアリングのギア比もクイックになっていた。多くのクロスオーバーSUVではスポーツグレードが見掛け倒しなのだが、このRSについてはしっかり中身まで手が入っているようだ。

ブレイザーRSは重くて背が高いので、運転していてカマロのDNAを感じることはなかったのだが、ムラーノやヒュンダイ・サンタフェなどのソフトなセッティングの競合車と比べると応答性はずっとシャープだった。ボディの動きは上手く制御されており、ステアリングもフィードバックこそ欠けていたものの手応えはしっかりあった。

試乗車はオプションの21インチホイール(RSの標準は20インチ)を履いており、タイヤは265/35R21のコンチネンタル CrossContact LX Sport オールシーズンだった。スキッドパッドテストでは0.87Gを記録し、110km/hからの制動距離は50mだった。

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価格設定はやや割高に感じた。2WDモデルのエントリーグレードは3万ドルを切り、最上級グレードでも4万ドル台に収まるので、一見すると競合車と変わらないようにも思えるのだが、装備は上級グレードでもあまり充実しておらず、オプションの価格もかなり高価だ。

一例を挙げてみよう。4WDにするためには追加で2,700~2,900ドル(競合車の約2倍)かかるし、アダプティブクルーズコントロールや自動ブレーキなどの先進安全装備は高価なオプションパッケージに入っており、しかもこれは上級グレードでしか選択できない。

今回の試乗車はオプション抜きの素の価格は44,695ドルなのだが、オプション込みだと50,765ドルだった。オプションとしてはプレミアムオーディオやパノラミックサンルーフ、21インチホイールなどが含まれていた。コストパフォーマンスが高いとは決して言えない。

この価格だと、競合車より割高どころか、レクサス RX(44,595ドル~)の領域にまで足を突っ込んでしまうし、言うまでもなくレクサスのほうがインテリアは上質で、ディーラーの対応も良く、なによりバッジの価値がまったく変わってくる。

ブレイザーは走行性能が高く、見た目も大胆で、室内空間も十分に確保されている。価格はそこそこ高くなってしまったのだが、それでもブレイザーには多種多様なモデルが存在するミドルクラスSUVの中でも目立てるだけの魅力がある。