Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
もはや私以外に時間を守れる人間がいなくなってしまったおかげで、人生の多くの時間を一人レストランやバーで携帯電話をいじることに費やすようになった。さも重要なビジネスをしているようなふりをしながら。
しかし実際のところ、私はだいたい自分のウェブサイトであるDriveTribeで、ロシア人がランボルギーニでクラッシュする動画や、間抜けなレザースーツを着たバイク乗りがアスファルトに叩きつけられる滑稽な動画を見ているだけだ。
そんなとき、私はとんでもない動画を見つけた。それはドライブレコーダーが撮影した動画で、ボルボが普通に80km/hくらいでのんびり走っていると、何の誘因もなく反対車線に突っ込んでいき、42tのトレーラートラックと正面衝突した。
車は大破したにもかかわらず、幸いなことにドライブレコーダーはしっかり回っており、そして砂埃がやんだ後にカメラが捉えた光景は信じられないものだった。ドライバーが普通に動いていた。そして落ち着いた様子でかつてドアだった残骸を開けた。
これだけの事故にもかかわらず、死人が出なかったことは驚くべきことなのだが、それ以上に驚いたのは動画に書かれていた説明文だ。そこには「14年前にイギリスでXC90が発売されてから、XC90は一切の死亡事故を起こしていません」と書かれていた。
何に驚いたのかと言えば、ボルボ XC90 を運転するのはだいたい子供を学校に送り迎えする母親であり、その母親は運転中にほとんど後ろを向いて息子を叱っている。つまりXC90は反対車線に飛び出しがちな車なのだが、にもかかわらずイギリスでは一切死人が出ていないらしい。
当然、ボルボがそれを広告で宣伝することはできない。これまで死人が出ていないということは、むしろ運命的には怖ささえ感じてしまう。カンタス航空が「重大事故を起こしたことはない」と言うようなものだ。しかしこの事実を考慮すると、しばらく前にボルボが出した「2020年までにボルボ車が絡む事故による死人をゼロにする」という宣言も信じられそうに思える。
あらゆる火事、あらゆる感電死、あらゆる天候をどれだけのコストを掛けてでも綿密に調査しなければ気が済まないような、健康と安全に支配された、死ぬことが許されない今の世界において、次に購入するべき車は間違いなくボルボだろう。正気で考えればそれ以外の選択肢など存在しない。
しかし、現実はまったく異なる。国や政府は安全や健康、そして環境にしか興味を持っていない一方で、我々一般市民の考え方は違う。我々が欲しているのは異性を惹き付けるようなものだ。まあ人によっては同性かもしれないが。そしてこれが自動車版ルイス・ハミルトンことベントレー・コンチネンタルGTの話に繋がる。
コンチネンタルGTが登場した2003年当時、この車は父親的で礼儀正しく、穏やかで野暮ったい印象の車だった。ところがある日、どういうわけか父親を捨て、かなりクールな車に変貌した。そして、巨大な腕時計やジェット機を手に入れ、Twitterで金持ち自慢をするようになった。
私は往々にして成金趣味的な車は嫌いなのだが、正直に言ってしまおう。新型GTのヘッドランプは素晴らしいとしか言いようがない。それぞれ82個のLEDが使われており、夜になるとラッパーのシャンデリアのごとく光りだす。車内は煌びやかだ。特に日が照っていると車内のあらゆるメッキに反射して網膜が灼かれる。
以前にベントレーと大して変わらない up! GTI の安さについて語った。どちらも同じようにタイヤとエンジンとウインカーレバーが付いているのだが、up! GTI はわずか14,055ポンドで買えてしまう。しかし、実際にコンチネンタルGTのシートに座ってみると、これだけの特別感を生み出すためには相当な労力が必要だということが理解できる。
例えば、「スクリーン」と書かれたボタンを押してみると、ダッシュボードのパネルが回転してスクリーンが出てくる。もう一度ボタンを押すとスクリーンが回転して今度はアナログの計器が出てくる。まるでジェームズ・ボンドのアストンマーティン DB5 に付いている回転式ナンバープレートだ。
何もかもが過剰だ。スピーカーのグリルも、ウインカーレバーも、エアコン吹出口の操作ボタンも。オプションで設定されるドアやシートのダイヤモンドパターンはそれぞれ712ものステッチが入っているそうだ。コンチネンタルには総延長8kmにも及ぶ配線と2,300個の回路と92個の電子制御ユニットが備わっている。
見た目は従来型とほとんど変わらず、違いを見つけるのは難しい。開発者はW12エンジンの搭載位置が後退し、前輪の位置が前進したことで操作性を向上したと語っている。それは事実だろう。けれど、それでも乗った感じは従来型とまったく変わらない。ただし、これは非難しているわけではない。
スウィンドンにある The Grand Tour のエボラコースで走らせてみたのだが、まさに重くて巨大な4WD車的な走りだった。しかしこれこそ、この車に求められている性格だ。靭やかで鋭敏な車が欲しいなら、アストンマーティン DB11を購入すればいい。
高速道路では崇高だった。静かで、アダプティブサスペンションを「ベントレー」モードにしても相当に快適だ。それに速くもある。この車は重いのだが、0-100km/h加速はわずか3.7秒だ。
数少ない不満点はステアリングだ。どう調整したところで適切なドライビングポジションを取ることができない。それに、レーダーシステムは現実に起こりえない事故まで想定して勝手にブレーキをかけてしまう。とはいえ、私の安全に対してボルボ的な態度を取るこの車のことは高く評価するべきなのだろう。
総合的に考えると、この車はとても優秀だ。この車は良い意味で派手だ。もしこれとDB11のどちらかを選ばなければならないとしたら、きっと私は混乱してしまうだろう。ただ、私はもう六十近いので、きっと結局はコンチネンタルを選ぶだろう。
本当の意味での不満点はひとつしかない。マーケティングだ。ベントレーはいまだ、ブルックランズの伝統、W.O.ベントレーの伝統を売りにしようとしている。こういった伝統は、えてして中国人が好むものだ。つまり、コンチネンタルGTはワイパーの付いたバイチェスターのアウトレットだ。
ベントレーはクルーの工場で一から手作りされているとも宣伝している。職人の93%はイギリス人だそうだ。それはきっと事実なのだろう。しかし、ベントレーの会長はつい最近までヴォルフガング・デュルハイマーという名前の男だったし、イギリスの縫製の内側にあるのはポルシェ・パナメーラと同じプラットフォームだ。
ベントレーは過去と決別し、現在と向き合うべきだ。アメリカ人の友人はベントレーのことを今でも「MFB」と呼んでいる。「B」はベントレーのことだ。残りの二文字はご想像にお任せしよう。
今回紹介するのは、ベントレー・コンチネンタルGTのレビューです。
もはや私以外に時間を守れる人間がいなくなってしまったおかげで、人生の多くの時間を一人レストランやバーで携帯電話をいじることに費やすようになった。さも重要なビジネスをしているようなふりをしながら。
しかし実際のところ、私はだいたい自分のウェブサイトであるDriveTribeで、ロシア人がランボルギーニでクラッシュする動画や、間抜けなレザースーツを着たバイク乗りがアスファルトに叩きつけられる滑稽な動画を見ているだけだ。
そんなとき、私はとんでもない動画を見つけた。それはドライブレコーダーが撮影した動画で、ボルボが普通に80km/hくらいでのんびり走っていると、何の誘因もなく反対車線に突っ込んでいき、42tのトレーラートラックと正面衝突した。
車は大破したにもかかわらず、幸いなことにドライブレコーダーはしっかり回っており、そして砂埃がやんだ後にカメラが捉えた光景は信じられないものだった。ドライバーが普通に動いていた。そして落ち着いた様子でかつてドアだった残骸を開けた。
これだけの事故にもかかわらず、死人が出なかったことは驚くべきことなのだが、それ以上に驚いたのは動画に書かれていた説明文だ。そこには「14年前にイギリスでXC90が発売されてから、XC90は一切の死亡事故を起こしていません」と書かれていた。
何に驚いたのかと言えば、ボルボ XC90 を運転するのはだいたい子供を学校に送り迎えする母親であり、その母親は運転中にほとんど後ろを向いて息子を叱っている。つまりXC90は反対車線に飛び出しがちな車なのだが、にもかかわらずイギリスでは一切死人が出ていないらしい。
当然、ボルボがそれを広告で宣伝することはできない。これまで死人が出ていないということは、むしろ運命的には怖ささえ感じてしまう。カンタス航空が「重大事故を起こしたことはない」と言うようなものだ。しかしこの事実を考慮すると、しばらく前にボルボが出した「2020年までにボルボ車が絡む事故による死人をゼロにする」という宣言も信じられそうに思える。
あらゆる火事、あらゆる感電死、あらゆる天候をどれだけのコストを掛けてでも綿密に調査しなければ気が済まないような、健康と安全に支配された、死ぬことが許されない今の世界において、次に購入するべき車は間違いなくボルボだろう。正気で考えればそれ以外の選択肢など存在しない。
しかし、現実はまったく異なる。国や政府は安全や健康、そして環境にしか興味を持っていない一方で、我々一般市民の考え方は違う。我々が欲しているのは異性を惹き付けるようなものだ。まあ人によっては同性かもしれないが。そしてこれが自動車版ルイス・ハミルトンことベントレー・コンチネンタルGTの話に繋がる。
コンチネンタルGTが登場した2003年当時、この車は父親的で礼儀正しく、穏やかで野暮ったい印象の車だった。ところがある日、どういうわけか父親を捨て、かなりクールな車に変貌した。そして、巨大な腕時計やジェット機を手に入れ、Twitterで金持ち自慢をするようになった。
私は往々にして成金趣味的な車は嫌いなのだが、正直に言ってしまおう。新型GTのヘッドランプは素晴らしいとしか言いようがない。それぞれ82個のLEDが使われており、夜になるとラッパーのシャンデリアのごとく光りだす。車内は煌びやかだ。特に日が照っていると車内のあらゆるメッキに反射して網膜が灼かれる。
以前にベントレーと大して変わらない up! GTI の安さについて語った。どちらも同じようにタイヤとエンジンとウインカーレバーが付いているのだが、up! GTI はわずか14,055ポンドで買えてしまう。しかし、実際にコンチネンタルGTのシートに座ってみると、これだけの特別感を生み出すためには相当な労力が必要だということが理解できる。
例えば、「スクリーン」と書かれたボタンを押してみると、ダッシュボードのパネルが回転してスクリーンが出てくる。もう一度ボタンを押すとスクリーンが回転して今度はアナログの計器が出てくる。まるでジェームズ・ボンドのアストンマーティン DB5 に付いている回転式ナンバープレートだ。
何もかもが過剰だ。スピーカーのグリルも、ウインカーレバーも、エアコン吹出口の操作ボタンも。オプションで設定されるドアやシートのダイヤモンドパターンはそれぞれ712ものステッチが入っているそうだ。コンチネンタルには総延長8kmにも及ぶ配線と2,300個の回路と92個の電子制御ユニットが備わっている。
見た目は従来型とほとんど変わらず、違いを見つけるのは難しい。開発者はW12エンジンの搭載位置が後退し、前輪の位置が前進したことで操作性を向上したと語っている。それは事実だろう。けれど、それでも乗った感じは従来型とまったく変わらない。ただし、これは非難しているわけではない。
スウィンドンにある The Grand Tour のエボラコースで走らせてみたのだが、まさに重くて巨大な4WD車的な走りだった。しかしこれこそ、この車に求められている性格だ。靭やかで鋭敏な車が欲しいなら、アストンマーティン DB11を購入すればいい。
高速道路では崇高だった。静かで、アダプティブサスペンションを「ベントレー」モードにしても相当に快適だ。それに速くもある。この車は重いのだが、0-100km/h加速はわずか3.7秒だ。
数少ない不満点はステアリングだ。どう調整したところで適切なドライビングポジションを取ることができない。それに、レーダーシステムは現実に起こりえない事故まで想定して勝手にブレーキをかけてしまう。とはいえ、私の安全に対してボルボ的な態度を取るこの車のことは高く評価するべきなのだろう。
総合的に考えると、この車はとても優秀だ。この車は良い意味で派手だ。もしこれとDB11のどちらかを選ばなければならないとしたら、きっと私は混乱してしまうだろう。ただ、私はもう六十近いので、きっと結局はコンチネンタルを選ぶだろう。
本当の意味での不満点はひとつしかない。マーケティングだ。ベントレーはいまだ、ブルックランズの伝統、W.O.ベントレーの伝統を売りにしようとしている。こういった伝統は、えてして中国人が好むものだ。つまり、コンチネンタルGTはワイパーの付いたバイチェスターのアウトレットだ。
ベントレーはクルーの工場で一から手作りされているとも宣伝している。職人の93%はイギリス人だそうだ。それはきっと事実なのだろう。しかし、ベントレーの会長はつい最近までヴォルフガング・デュルハイマーという名前の男だったし、イギリスの縫製の内側にあるのはポルシェ・パナメーラと同じプラットフォームだ。
ベントレーは過去と決別し、現在と向き合うべきだ。アメリカ人の友人はベントレーのことを今でも「MFB」と呼んでいる。「B」はベントレーのことだ。残りの二文字はご想像にお任せしよう。
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