Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、アルファ ロメオ・ステルヴィオ クアドリフォリオのレビューです。


Stelvio

昔は、パブの行き帰りにロンドンの街中を歩くこともあった。路駐などすれば翌朝警察署に出向いて100ポンド払わないと自分の車を取り戻すことができなくなってしまう。

ロア・スローン・ストリートにはカジノがあった。そのカジノはロジャーというフランス人が経営しており、そこにはテーブル2つとルーレット1つしかなかった。私はそのカジノが好きだったのだが、そこで遊んだあとは1銭も残らなかったのでタクシーを使うこともできず、そこから徒歩で家に帰らなければならなかった。

当時はよく歩いており、それゆえウエストは71cmしかなかった。股下は78cmだったので、当時の私はまるで電信柱だった。コウノトリが私の体に巣を作らなかったのが不思議なくらいだ。ただ、当時の私は髪がたくさんあったので、そもそも頭が鳥の巣のような状態だった。

今、再びウエストを71cmまで戻すため、可能な限り自分の脚を使って移動しようと努めている。これは当時よりも難しい。今や私の体重は大半の衛星より重く、ちょっと歩いただけで酷い腰痛に襲われてしまう。

街中で撮影を頼まれて道を阻まれてしまうこともよくある。撮影にはとてつもない時間がかかる。相手が長々と写真を撮りたい理由を説明してくれるからだ。

先日カナダにホッケーを見に行ってきまして、そこで多発性硬化症を患う男性と会ったんです。彼は病気のせいで愛車のホンダに乗れなくなって、私が借りることになったんですが…。

一言言わせてほしい。もし街中で私を見かけたら、ただ撮らせて欲しいとだけ言ってほしい。そうすれば私もすぐに却下して、互いに時間を奪われずに済む。

それに、今は歩く楽しみも少ない。80年代当時、街中にはミッドシップのルノー 5 やアルファ ロメオ・アルファスッド スプリント ヴェローチェなどが溢れていた。当時FRだったトヨタ・カローラのラリーカーやスープラがいたり、三菱 スタリオンやBMW M3もいた。

街を歩くのはまるで美術館を散策するようだった。しかも、美術館とは違って展示品は自由に走り回り、音を立てていた。1970年代の社会主義から脱却したロンドンは、ゴルフGTI の世界に向けて歩みはじめていた。

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しかし、今の街は悲惨なSUVの終わりなきパレードだ。職業柄、すべて見分けられて然るべきなのだろうが、昨日見かけたSUVは一台として名前が分からなかった。カエルの卵のようにどれも同じに見えた。

最近では誰もがSUVに興味を持っており、それゆえ私のところにもそんな車が試乗車としてやってきた。それがプジョー 5008だ。この車が家に来たおかげで、私は車に乗ることをやめて歩くことに集中できた。

5008には1.5Lエンジンが搭載されており、0-100km/h加速は何秒かあれば可能で、軽油で走り、価格は3万ポンドをわずかに切る。ステアリング越しにメーターを見られないという点以外、どの側面から見てもありふれたSUVのうちの一台でしかなかった。どうしてもメーターをステアリングの上から覗きたいなら、この車を選ぶべきだろう。

プジョーが回収された数日後になって私は車が変わっていることに気付いた。新しくやってきた試乗車もやはりSUVだったのだが、それはアルファ ロメオだった。SUVを面白くできるメーカーがあるとしたら、それはきっとアルファだろう。

ステルヴィオという車名はイタリアのアルプス山中にある峠に由来する。昨年、私はディーゼルモデルに試乗しており、こちらもなかなか良い車だったのだが、今回の試乗車は最強モデルである510PSのクアドリフォリオだった。

クアドリフォリオのエンジンは最高だ。このエンジンはフェラーリのV8から2気筒を取り除いたV6エンジンで、傑作としか言いようがない。音楽に例えるならベートーヴェンの第5番だろう。絵に例えるならターナーの『雨、蒸気、速度――グレート・ウェスタン鉄道』になるし、文学ならカール・マーランテスの『マッターホルン』だ。

ゴムのように靭やかに回り、アクセルを踏み込めば音と共鳴して血も騒ぐ。ゆっくり走らせることもできるのだが、そんなことをするのはロイヤル・アルバート・ホールのオルガンで『チョップスティックス』を弾くようなものだ。これは走り出すたびにアクセルを踏みたくなるエンジンだ。しかし、SUVのエンジンとしてはどうなのだろうか。

エンジン以外の部分についても説明しよう。今の需要に合わせて背は高くなっている。それでも、ちゃんと締まっているので爆発的な加速によって破綻してしまうわけではない。この車はかなりかっちりしており、タイヤのグリップ力も高い。にもかかわらず、舗装の悪い街中も問題なく走れる…と言いたいところなのだが、実際の走りはレーシングカー的だ。

この車にはカーボンファイバー製のプロペラシャフトが装備されており、基本的に後輪のみに駆動力が送られる。アルファによると、リアのグリップが失われると即座にフロントに駆動力が送られるらしいのだが、ラウンドアバウトでちょっと無茶してみた結果、アルファが言うところの「即座」と私の中の「即座」の定義はまったく違うことが分かった。

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私の友人もこのようなハイパワーSUVを購入したらしく、メールで「狂っている」と送ってきた。彼の言う通り、この車は狂っている。面白いほどに、可笑しいほどに、狂っている。ランボルギーニのV12を搭載したタグボートを想像してみてほしい。まさにそんな感じだ。

現在、速いSUVはたくさん存在する。ランボルギーニ・ウルスもそうだし、ジープ・グランドチェロキー トラックホークも、アウディ SQ7もそうだ。しかし、ステルヴィオほど狂気的な車は他にない。それゆえ、ステルヴィオが最も面白いSUVであると断言できる。

問題点もある。ナビを北上の設定にしていても拡大すると勝手に進行方向が上向きの設定になってしまう。それに、カーボンファイバーシートは見た目は良いのだがシートベルトバックルが常時カタカタと音を立てるし、複雑な排気システムのせいで牽引バーを設置することもできない。もっとも、トレーラーを牽引できないのは良いことなのだが。

この車はまさにアルファ ロメオらしさを体現している。アルファの優秀な正社員が設計した最高のエンジンを搭載し、それ以外の部分は工場の清掃員が設計している。

私はそんなアルファが好きだ。欠点があるからこそ、アルファを愛することができる。しかし同時に、苛立たしさを感じるのも事実だ。

クアドリフォリオが欲しいなら、ステルヴィオではなくジュリアを購入するべきだ。ジュリアは真っ当な乗用車なのでステルヴィオより圧倒的に優れている。しかし、今の人達はセダンを買いたがらない。トレンドを盲信する馬鹿しかいない。

なら、あえてステルヴィオなんて買わずに、アウディ Q5 を買うべきだろう。つまらない車が欲しいなら、つまらない車を買うべきだ。


The Clarkson Review: Alfa Romeo Stelvio Quadrifoglio