インド「Top Gear」による日産 キックスの試乗レポートを日本語で紹介します。
分かりづらいので整理させてもらうが、日産 キックスには2種類のバリエーションが存在する。ひとつが世界的に販売されるグローバル仕様のキックスで、もう一種類がインド仕様のキックスだ。両方とも名前は同じだし、見た目もそっくりなのだが、中身はまったく違っている。
グローバル仕様のキックスはマイクラと共通のVプラットフォームを用いている一方で、インド仕様のキックスは日産 テラノやルノー・ダスター(別名: ダチア・ダスター)と共通のB0プラットフォームを採用している。ボディサイズや室内空間も異なり、また装備内容も差別化されている。
これにはいくつか理由がある。最大の理由がコストだ。テラノのプラットフォームはインド向けにローカライズされており、このプラットフォームを使えば低コストで製造することができる。もうひとつの理由がインド市場の好みだ。日産の調査によると、インド人は大きくて室内の広い車を好んでいるという。グローバル仕様車は小型車のプラットフォームを使っているのでインド仕様車よりも狭い。
インド仕様車はテラノと基本構造を共有しており、プラットフォームやエンジンも共通だ。106PS/14.5kgf·mの1.5Lガソリンエンジンと110PS/24.5kgf·mの1.5Lディーゼルエンジンが設定され、発売時点ではAT車は用意されず、ガソリン車には5速MTが、ディーゼル車には6速MTが組み合わせられる。このように、メカニズム面ではテラノとほとんど同一なのだが、実際に運転してみるとまったく違っていた。
テラノに搭載されるK9K型ディーゼルエンジンは2,000rpm未満でわずかなラグがあり、ターボが稼働すると急にトルクが出てエンジン音もそれなりにうるさくなる。一方、キックスではチューニングが見直されているようだ。ラグは依然としてあるのだが、トルク特性はよりリニアになっており、滑らかな加速が可能となった。トルクは十分にあるので力不足を感じることもない。また、遮音性も高く、NVH性能はテラノよりも高い。
乗り心地に関してもテラノより良好だ。サスペンション形式はテラノと同じなのだが、SUV用にしっかりとチューニングされている。悪路もいなしてくれるので室内は快適だ。テラノの場合、高速域では快適性が損なわれがちなのだが、キックスはフラットで落ち着いている。多くの車が縦揺れに苦しむような道路でもキックスは穏やかさを失わない。
ステアリングは重いのだがフィールは曖昧だ。とはいえ、ボディサイズを考慮すればコーナリング性能は高い。クラッチはダスターよりはましとはいえ、それでもそこそこ重い。総合的に見て、走行性能はそれなりに洗練された普通のSUVと肩を並べることができるだろう。
見た目についてはテラノと見事に差別化されている。B0プラットフォームはグローバル仕様のキックスより大柄なので、全体的にデザインを変更してプロポーションを整える必要があった。そうしてデザインされたキックスはハードコアなSUVではなくクロスオーバーらしい見た目となっている。
全体的なデザインは流れるようなラインを描いており、例えばボンネットは短くて傾斜がそこそこあり、シャープなヘッドランプから流れるラインはCピラーまで流麗に描かれている。Vモーショングリルなど日産らしさもあるのだが、個人的に最も良いアングルはリアのクォータービューだと思う。テールランプはスタイリッシュだし、フローティングルーフやルーフレールもしっかり調和して、モダンな雰囲気を醸し出している。
インテリアも質感が高く、ダッシュボードや操作系などに使われるレザーやメタルは上質だし、カーボンファイバー調のプラスチックも使われている。3本スポークのステアリングも恰好良い。中央には8インチのインフォテインメントディスプレイが配置されており、Bluetoothでスマートフォンと接続すればAndroid AutoやApple CarPlayを使うことができる。
フローティングディスプレイの見た目も良く、ディスプレイ自体も解像度が高くて使いやすい。タッチの応答性やディスプレイの鮮やかさも気に入った。ブラウンとブラックのツートンインテリアは魅力的で、インドで販売されている他のどの日産車よりも(もちろんGT-Rは例外だが)ずっと良い。
ただし、問題点もある。運転席は最も低い位置に設定しても着座位置がかなり高い。私のような身長の低い人間ならそれほど問題はないのだが、身長180cm超だと頭が天井ギリギリになりかねない。とはいえ、身長が低く、周りを高いところから見下ろしたい人にはむしろ嬉しいのかもしれない。
また、フットレストがないのも気になった。クラッチペダルの左側には余裕がほとんどなく、変速時の足の扱いに困ってしまう。また、収納スペースも限られており、シフトレバーの前方に大き目のスペースはあるのだが、センターアームレストの下に収納スペースはないし、スマートフォンを置けるトレーなども用意されていない。ドアには大きなドリンクホルダーもあるのだが、中央部の収納は物足りない。
装備内容は充実している。スマートフォンと連携したテレマティクスサービス「NissanConnect」に対応しており、点検のリマインドや緊急時のレッカー移動などのサービスが受けられる。また、エンジン、バッテリー、ブレーキなどの状態もモニターしており、問題があれば警告してくれる。
他にもこのセグメントとしては初の360度カメラも装備されており、駐車時や狭い場所での走行時には役に立ってくれる。試乗車には雨滴感知式ワイパーやオートライトも装備されていた。サンルーフが装備できない点は気になる人もいるだろうが(ヒュンダイ・クレタには装備できる)、基本的に装備に不足はない。クルーズコントロールやヒルスタートアシストなどの運転支援装備も付いている。
キックスの実力は十分に高い。走行性能も高いし、装備内容も充実しており、見た目も良い。日産はキックスをインド市場で本気で成功させようとしているようだ。SUV市場は拡大しており、そんな中でもキックスの可能性は十分に高い。
成功の鍵は価格にあるだろう。強力なライバルであるクレタと戦える価格設定にする必要がある。おそらく今回試乗したディーゼル車の価格は100万~130万ルピー程度になるだろうが、この価格であればクレタに十分食らいつくことができるだろう。
auto2014
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