「Driven to Write」によるランチア・テージスの試乗レポートを日本語で紹介します。
ランチアは2002年にフラッグシップモデルのテージスを発売し、高級車メーカーとしてのランチア、言うなれば「イタリアのメルセデス」としてのランチアの地位を確立しようとした。
テージスの先代モデルに当たるカッパは快適性が高く、パッケージングやシャシも称賛されたのだが、販売実績ではテーマほどの成功とはならなかった。そして、カッパの後継車として登場したテージスは、ランチアの伝統である最上級の快適性と美しいデザインを兼ね備えた車として、ブランドの再確立という宿命を負っていた。
ランチアはテージスに大きな力を注いでおり、完全専用のプラットフォームを用い、インテリアパーツもフィアットグループの他のどの車とも共有しなかった。
テージスについて書かれた文献はかなり少ない。私はその理由を、そして7年間の製造期間のうちにわずか16,000台しか売れなかった理由を探るため、自らテージスに乗って確認してみることにした。
テージスの構造は至って保守的だ。テージスは横置きの前輪駆動車であり、操作性よりも快適性を重視した車であることを考えれば、非常に合理的な選択だ。おそらくランチアはローバー同様、顧客の大半は駆動輪がどこにあるかなど大して気にしないと判断したのだろう。
ガソリン車としては、2Lターボエンジン、2.4L 20バルブエンジン、3.0L V6 24バルブエンジンが設定された。他に、2.4L JTDディーゼルエンジンも設定された。
サスペンションは普通ながら工夫もあった。フロントサスペンションは5リンク式で、この背景には車軸の中心とステアリングの距離を最短化することで操作性を向上するという意図があった。また、衝撃吸収性を高めるため、リアサスペンションにもマルチリンク式が採用されている。
そして、このサスペンションには「スカイフック」と呼ばれるアダプティブダンパーが備わっている。これにより、走行状況や運転スタイルに応じてダンパーレートが変動する。この制御は親指の爪より小さなマイクロチップにより行われており、同様のシステムはマセラティ・スパイダーにも採用されている。
こういった特徴は凡庸とまでは言わないものの、1963年のフラヴィアほど独創的なわけでもなかった。フラヴィアのフロントサスペンションはダブルウィッシュボーン式でリーフスプリングが横置きとなっており、リアサスペンションは横置きリーフの車軸懸架で、4気筒ボクサーエンジンを搭載する前輪駆動車だった。
フラヴィアの登場当時、競合車はどれも直列6気筒エンジンや8気筒エンジンを搭載し、後輪を駆動していた。一方でテージスは競合車との違いがまったく無いわけではないのだが、かといって60年代の祖先ほど独創的なわけでもない。
テージスの車重は1,600~1,800kgで、今回は重量級のV6エンジン搭載車に試乗した。ちなみに、これは1999年式のメルセデス・ベンツ S320よりも30kgほど重い。ボディサイズがSクラスより小さいことを考慮すれば、軽い車とは言い難い。
テージスの全長は4,888mmで、前輪駆動車なだけあって、室内空間はかなり広く、前後左右方向すべてに余裕がある。荷室容量も480Lと十分に広い。
テージスのシャシやパワートレインは保守的なのだが、装備内容はかなり先進的で、ありったけのデジタル機器、電子機器が満載されていた。2002年式の試乗車にはナビゲーションシステムやAT、電動パーキングブレーキ、4ウェイオートエアコンが装備されていた。
サンバイザーと前席にある小さな灰皿以外、ほとんどのものが電動式だった。パワーシートはドライバーの好みのポジションを記憶してくれる。前席のヘッドレストすら電気で動く。こんな機能はまったくもって不必要なのだが、高級車作りにかけるランチアの努力が感じられた。グローブボックスも上品なメッキのボタンを押すことで開く(ただし肝心の中身はタバコ数箱くらいしか入らない)。
電動式のブラインドも印象的だった。センターコンソールのスイッチで操作できるのだが、この開発だけでも多額の費用が費やされたことは想像に難くない。当然、トランクも電動で開くし、電動で閉まる。
エクステリアの中心的存在がランチアの過去の栄光を彷彿とさせる特徴的なフロントグリルだ。ダイヤモンド型のヘッドランプにはキセノンが使われている。フロント部分にはヘッドランプとフロントグリルを除き、飾り物はほとんど存在しない。デザイナーによると、華やかな宝石をイメージしたデザインだそうだ。
縦長のテールランプはメッキに囲まれたノスタルジックな形状ながら、中身には最新のLEDが使われている。外装パネルはチリもしっかり合っており、質感は高い。
続いて内装だが、上述の通り装備はかなり充実している。いくら装備が充実していたところで、安っぽければあまり意味はないのだが、テージスの内装にはちゃんとレザーやメタル、ウッド、上質なプラスチックが使われており、質感は非常に高い。インテリアデザインは古臭すぎず、適度にレトロな印象だ。
ダッシュボードからドアパネルにかけて使われているウッドのラインは上質で、本物の木であることがすぐに分かる。1970年のフォード・グラナダ ギア以来の暖かみのある木目だ。これと比べると、メルセデスやレクサスの内装は冷たくて硬く感じるし、ジャガー XJ すらも見劣りする。
手縫いのステッチが施された運転席はサポート性が高く、かといって硬すぎるわけでもない。ドアはしっかりしており、閉める際にはドアの重さを感じることもある。テージスのドアはメルセデス・ベンツ 300 SEL 6.3 を思い出させる。
メーターは非常に古典的だ。イタリア車だけあってか、フォントはまるでイタリアンワインのラベルのようだ。燃費計は意外にもアナログ表示で、100km/6L(16.7km/L)から100km/20L(5.0km/L)までの範囲で表示できる。デジタルの燃費計ほど読みやすくはないのだが、針が左右に振れる様子を見るのはなかなか面白い。
リアシートも居心地が良い。レッグルームは広大で、遠出の際には足を伸ばしてくつろぐこともできる。オートエアコンは席別に独立操作が可能なのでドライバーと乗員の好みの温度が違っていても問題はない。
オーディオはリモコン操作も可能となっている。灰皿はドアすべてに用意されており、ドアパネルは非常にスタイリッシュで、リアに関してもフロントとまったく同じ上質な素材が使われている。要するに、運転席もリアシートも、テージスの室内は居心地が非常に良い。
テージスの走りを一言で言うなら、非常に控えめだ。まるで優秀な執事のような車だ。今回は味気ない狭い田舎道から街中まで、様々な場所を運転してみたのだが、どんな状況でも求めた仕事を粛々とこなしてくれた。
アクセルペダルを踏み込むと、一瞬のラグののち、しっかりと加速してくれる。振動も音もほとんど感じられない。重量級のボディにスカイフックサスペンションが組み合わされたことで、路面の衝撃は見事に抑え込まれている。乗り心地は良いし、かといって変な浮遊感があるわけでもない。
旋回時に厄介なロールが発生するわけでもない。テージスのサスペンションは快適性重視の設計となっているのだが、十分な操作性も兼ね備えている。おそらく、ランチアはBMWではなくジャガーをベンチマークとして開発したのだろう。
AT車なのでステアリング操作やペダル操作以外に運転中に行うことはほとんどない。ステアリングは軽くてダイレクトなのだが、ナーバスなわけではなく、ターンイン時にはしっかりとグリップもしてくれるし、トルクステアの傾向もない。
ステアリングは非常に普通で、特別感があるわけではない。ただ、これは必ずしも悪いわけではない。優秀な執事のごとく、自らの個性はひた隠しにしている。車の特性を考えれば、むしろそうあるべきだということだろう。
タイトコーナーではしっかりとブレーキを踏んでから旋回するのがベストだろう。テージスは決してゴーカートなどではない。とはいえ、山道を100km運転しても不満を感じないくらいには操作性も良い。ただし、車との一体感を感じることを楽しめるような車でもない。
テージスという車は、ドライバーにとっても乗員にとっても良い意味で存在感の薄い車だ。ただひたすら、乗る人を癒すだけだ。ランチアは快適性を前面に出した忠実な使用人であり、共に運転を楽しむための相棒などではない。
平均燃費は7.1km/Lで、1回の給油で536kmを走行できる計算となる。今回はローマからカップ=フェラまで移動したのだが、出発から5時間後に1回給油したのみだった。
クラシックなデザインを目指した結果、テージスはローバー 75 やジェフ・ローソン時代のジャガーと同じ立ち位置の車として扱われた。それに、上述したとおり、ボディサイズはSクラスよりも小さく、それでいて全高は高かったので、ヘッドルームには余裕があったのだが、プロポーションには悪影響を及ぼしている。
実際のボディサイズはそれなりに大柄なのだが、かなり小さく見えてしまうデザインとなっている。特に側面から見るとかなり平凡に感じられる。デザイナーはあえて抑制の効いたデザインを目指したのかもしれないが、実際は退屈なデザインになってしまっている。
この車についてどう感じるかは、見る角度にもよるし、なにより車外から見るか車内から見るかが大きい。車内から見れば、素晴らしいラテンの高級車らしさを感じる。しかし、車内に入るためには当然ながら車外を眺める必要がある。そして車外からの眺めは、正直なところ真正面以外はあまり良いとは言い難い。
結局のところ、この車は非常にアンバランスだ。前後のデザインは主張が強いのに、ボディサイドはまるでヒュンダイだ。テールランプやフロントグリルなどは細部までしっかり考えられたデザインとなっているのだが、なにせプロポーションが悪い。
ショーファードリブンとして、室内空間を最大限に確保するため、美しさを犠牲にするのはやむを得なかったのかもしれない。しかし、ショーファードリブンとして設計されたなら、どうして後部座席用のシガーライターや読書灯が装備されていないのだろうか。
テージスの快適性は高く、加速性能にも不足はない。しかしながら、メルセデス・ベンツ Eクラスほど快適性が高いわけではないし、ジャガー Sタイプほどスポーティーなわけでもない。
例えば、ボルボ S80 は走行性能に興味のない人にちゃんと受け入れられている。しかしながら、ランチアの顧客はスポーティーさを求めている。そういう顧客にとって、テージスは快適すぎるし、走りは物足りない。ランチア好きが求めているのはクルマらしさを全面に出した車であり、抑えの効いたテージスはランチア車としては不可解だ。
ひょっとしたら、モンデオくらいの大きさでテージスが登場していたら、もう少しましだったのかもしれない。Eクラスの価格帯でSクラスのサイズの車を出すのは間違っていたのだろう。
モンデオよりも良い車が欲しいとき、選択肢はドイツ車くらいしかない。しかし、もしランチアがモンデオよりも上質で快適な車を出していたらどうだっただろうか。モンデオのオーナーなら、テージスの半分くらいの快適性でも満足してくれるだろうし、走行性能に不満を抱くこともないだろう。
それに、販売量の多いC/Dセグメントに参入するのは、ヨーロッパで最も頭の硬い人たちが選ぶセグメントに参入するよりもずっと簡単だったはずだ。
そんな妄想をするまでもなく、テージスという車自体も決して完成度は低くなかった。快適性が高くて装備も充実しており、細部まで気配りが行き届いている。しかしながら、ランチアは間違った方向の努力をしてしまったのだろう。
管理人様。初代のゴルフRのインプレッション記事があれば翻訳をお願いできますでしょうか?
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