カナダ「Driving」によるアキュラ NSX の試乗レポートを日本語で紹介します。


NSX

1990年にはシネイド・オコナーの『Nothing Compares 2 U』やロクセットの『It Must Have Been Love』がヒットした。彼女らの全盛期を知る人なら、革新的ミッドシップ2シータースポーツカー、アキュラ NSX に深い思い入れがあることだろう。

宝くじに当たらなくても手に入れることができたNSXというスーパーカーは、当時学生だった我々の年代の車好きをも魅了した。NSXの登場により、フェラーリ好きは時代遅れの存在となった。1990年は新時代の幕開けの年であり、NSXは我々に希望を与えてくれた存在だった。

先進的なアルミボディを採用した初期型NSXは最高出力わずか274PSの3.0Lエンジンを搭載し、今の時代からすればおもちゃのようにさえ思えてしまう15インチホイールを履いているのだが、その価値はコレクターにも評価されており、市場価格は今でも上がり続けている。

走行距離の少ない個体は安定して6万ドル超(新車当時とほとんど変わらない値段)で売れる。ちなみに、1990年当時15万ドルで販売されていたフェラーリ 348 と比べると、ほぼ同等の性能を発揮するNSXはとてつもなくコストパフォーマンスが高かった。

初代NSXは滑らかで応答性が高く、豊かなフィードバックと美しい音を奏でてドライバーを楽しませてくれる。ターボチャージャーもスーパーチャージャーもなく、純粋なVTECを堪能することができる。パフォーマンスは十分ながらも過大ではなく、運転席の後ろからはエンジン音が聞こえてくる。

rear

変速は容易く、ハンドリングは正確で、ブレーキは強力だ。アクセルを踏みすぎれば簡単にリアが滑ってしまう。NSXは決して派手ではないし、ホンダ車らしく信頼性が高くて運転しやすい。登場から15年が経ち、2005年に最後の初代NSXが登場する頃には、NSXの地位は見事に確立していた。

初代NSXの登場から28年以上が経っても、NSXは合理的なスーパーカーのままなのだが、価格はポルシェ 911 GT3の領域まで上昇してしまった。2代目NSXは2019年モデルで大幅な変更を受け、新たにサーマルオレンジ・パールがボディカラーに追加された。

オプションのカーボンセラミックブレーキにはオレンジのキャリパーを合わせることができるようになり、標準のブレーキには赤キャリパーが選択できるようになった。フロントグリルガーニッシュはボディ同色となり、フロントグリル周りや前後のメッシュ部分は光沢仕上げになっている。

シートには新たにブルーのセミアニリンレザー&アルカンターラがオプションとして追加され、4ウェイパワーシートおよびシートヒーターは全車標準装備となった。加えて、ナビゲーションシステムやELSスタジオオーディオシステム、接近センサーも全車標準装備となった。

前後スタビライザーは従来より大型化され、スタビライザー剛性はフロントが26%、リアが19%向上している。コンチネンタル製タイヤの設計変更やソフトウェアの見直しにより、グリップ性能は15%向上している。公式発表によると、従来モデルよりも大幅に速くなっているそうだ。

interior

オハイオ州にあるNSX専用工場のロビーには貴重な1999年式のNSX ザナルディエディションが鎮座している。漢字で「夢」と書かれた自動ドアを抜けて製造現場に入ると、そこには量産車工場のような巨大な機械などなく、まるで自動車の手術室のような雰囲気だった。NSXはかなり精巧な車なので、多くの工程が手作業で行われている。例えば、アンナ工場の専用ルームで組み立てられたエンジンは人の手でアルミフレーム内に固定される。

塗装にはロボットが使われているのだが、その完成度は高い。1台のNSXが完成するまでには丸2日かかるのだが、約100人の従業員の手により、1日あたりおよそ8~10台のNSXを製造することができるそうだ。

今回試乗したのはクルバレッドのNSXで、NSXの開発拠点でもあるオハイオ州のテストコースで190km/h近い速度まで出すことができた。そこで前を走っていたオレンジのNSXがブレーキをかけ、我々も減速した。

NSXの制動性能はかなり高く、シートベルトプリテンショナーが私をシートに押さえつけた。9速DCTの変速は素早く、私があえて操作する必要性もほとんどなかった。3.5L V6エンジンは最大トルク56.1kgf·mを発揮し、さらに3基のモーターの力が加わることでシステム出力581PSを発揮する。

数字的にはとてつもないのだが、実際にはかなり扱いやすい。気を抜きさえしなければ、NSXはドライバーに噛み付いたりはしない。NSXは野性的な暴れん坊ではない。穏やかで速く、寛容で楽しい車だ。サーキットでは楽しむこともできるし、同時にそのパフォーマンスを存分に発揮することもできる。NSXは毎日使えるスーパーカーだ。この点は昔と変わらない。