Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2004年に書かれたランドローバー・ディスカバリー3 V8 のレビューです。


Discovery

かつて、私は車に乗ってキツネ狩りをしたいと計画していたのだが、今やイギリスでは車が古道を走行することが禁止されそうになっているらしい。

今のところ、かつて道として使われていたという実績さえあれば、たとえ未舗装の道であっても好きに車で通行することができる。ところが、共産主義運動の分派であるランブラーズ協会が現状に異議を唱えた。1628年に牛車が通っていたということだけを根拠に、山間の古道をレンジローバーで走ることが許されるのはおかしいそうだ。

実際、週末に迷彩ズボンを穿いてランドローバーで泥だらけの道を走り回っているような連中は精神異常者に違いない。私ならそんな人間は絶対にベビーシッターとして雇いたくない。ただ、休日にいすゞ・トゥルーパー(日本名: ビッグホーン)で湖畔に出掛けたい人間くらいは好きにさせてもいいのではないだろうか。そもそも、イギリス地方部のすべての道のうちで車が走行できる道はわずか5%しかないのに、さらに規制を強めるのは不合理だ。

しかし、環境主義者に合理性など通用しない。彼らは、ジェットスキーや水上スキーが楽しめるウィンダミアのごく一部分を除き、湖水地方のあらゆる水域に速度制限を設けた。しかも、このごく狭い場所すら、共産主義者のおかげでビル・オディの支配下に置かれようとしている。

もし田舎でオフロードカーが禁止されたら、結果的に街中でもオフロードカーが禁止されてしまうかもしれない。学校の送迎を行う母親たちが運転するオフロードカーは場所も取るし、なにより近くのものすべてにぶつかっていく。きっと誰もがオフロードカーを嫌っているはずだ。

ランドローバーは最悪のタイミングで新型ディスカバリーを登場させてしまった。ディスカバリーは街中で使えるような車ではないし、かといって田舎で使える車でもない。

まずはっきり言ってしまうが、私は先代のディスカバリーが大嫌いだった。先代ディスカバリーはレンジローバーのシャシを使っており、つまり中身は1960年代から変わっておらず、実際に古さもはっきりと感じた。イギリスに逃げてきた難民に先代ディスカバリーをプレゼントしたら、きっとすぐに母国に帰ってしまうだろう。

車のイメージも最悪だった。ディスカバリーを運転しているのは殺人鬼か母親だ。母親は7人乗りであるという点を気に入ってディスカバリーを選んだ。殺人鬼はオフロードに強いデフロック付きの初期モデルを好んだ。彼らはディスカバリーで森の奥まで行き、遺体を埋めていた。

しかし、新型ディスカバリーはまったく別の車だ。キリンを飼っている人のために、ルーフラインが後部で高くなっている点は従来と変わらないし、ドアが別の車からそのまま移植したようにしか見えない点も同じなのだが、新型の見た目はそれでもなかなか良くなっている。まるで21世紀のマトラ・ランチョだ。

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中身はラダーフレームとモノコックの融合体なので、車の通行が禁止される予定の未舗装路を走れる強靭さと、オフロードカーの通行が禁止される予定の舗装路を走れる快適性を兼ね備えている。

この車の快適性はかなり高い。静粛性が高く、コーナーで暴れるようなこともないし、スロットルはかなり繊細なので、坂道ですら簡単に縦列駐車をこなすことができる。唯一気に入らなかったのはほぼ常時鳴り続けていたパーキングセンサーだ。後ろに数kmのスペースがあってもヒステリーを起こした。

現代の駐車場では数十cm程度の接近は日常茶飯事だ。ヒステリーを起こすのは数mmの接近からで十分だ。

なにより新型ディスカバリーはあまりに巨大なので、どこを走っていても常に何かしらが半径数十cm以内に入り込んでしまう。パリまで行ったとしてもイギリスに停めたディスカバリーとの距離はせいぜい数十cmだ。にもかかわらず、3列目シートの後ろの荷室はかなり狭い。

ディスカバリーにはジャガーの4.2L V8エンジンの4.4L版が搭載される。このエンジンは木を根こそぎ引き抜くだけのトルクと驚異的なパワーを発揮する。また、燃費が5km/L未満でも気にならないなら、ジャガー Sタイプと共通のツインターボディーゼルエンジンも選択することができる。

インテリアにはレンジローバーの高級感こそ無いのだが、現実的で頑丈そうではある。小さな(具体的には1キロトンくらいの)爆弾を使ったとしてもおそらくびくともしないだろう。にもかかわらず、価格は3万ポンドから5万ポンド程度だ。

そう考えると、兄貴分であるレンジローバーよりもずっと優秀な車に思える。ディスカバリーのほうが大きいし、出力もトルクも優れているし、速いし、実用的(7人乗り)だし、経済性も高いし、価格は圧倒的に安い。

要するに、ディスカバリーは世界最高の車より優れているということになる。しかし、これを結論にすることはできない。レンジローバーは5人乗りの高級車を4WDにしてできた車だ。競合車はメルセデス Sクラスやジャガー XJ8だ。

ディスカバリーは真逆だ。オフロードカーを舗装路も走れるようにしてできた車だ。競合車はトラクターや長靴だ。だからこそ、私には新型がよく分からない。まだ実際にオフロードを走らせたわけではないのだが、トランスファーレバーが無いのでオフロードでは物足りなさを感じるはずだ。

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その代わり、ダイヤルで路面状況(草地、砂利、泥、砂、舗装路)を車に伝えることができる。これに応じてディファレンシャルの設定や地上高、スロットルレスポンスなどが最適化される。

理論上は凄い技術のように思えるし、実際にもまともに使えるのだろう。しかし、カラハリ砂漠を走るなら、チップの埋め込まれた電子ダイヤルよりも単純なレバーの載った車に乗りたい。もちろん、現実的にはカラハリ砂漠どころか湖水地方ですらディスカバリーを運転する人などいないのかもしれない。

しかしそれは、使われる予定のない核ミサイルはまともに使えなくてもいいと言うようなものだ。ちゃんと使えると分かっているからこそ、安心することができる。

他にも気になるところがある。ランドローバーの社員は2列目シートを簡単に畳むことができたのだが、彼の腕は塊のハムと同じくらい太かった。私ですら苦労したのだから、片腕に泣き叫ぶ子供を抱えた母親がシートを畳めるとは思えない。一方でフォード製のボルボ XC90はずっと実用的で、価格もディスカバリーより安い。

ディスカバリーにはリアシート用のオーディオスイッチも装備されている。これは素晴らしい装備に思えるかもしれないが、運転中に子供が勝手にラジオ局を変えることを許せる親がどこにいるだろうか。もし子供が勝手に Radio 1 に変えたら、私ならハンマーを取り出してコントロールパネルを叩き壊すだろう。

もっと大きな問題がある。私はXC90を所有しているのだが、ディスカバリーに買い換えるべきだろうか。走りはディスカバリーのほうが明らかに優秀だ。堅牢性も高そうだし、エンジンも優秀だし、言うまでもなく走破性は高い。しかし、私はあくまで子供を乗せる道具が必要なので、答えはノーだ。

母親のための車として、ディスカバリーは選択肢にはならない。オフロードを走る車として購入したとしても、結局は自分が殺人鬼であると周りに吹聴するだけに終わってしまう。