Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、マツダ6 ツアラー(日本名: アテンザワゴン) SKYACTIV-G 2.5 のレビューです。


Mazda6 Tourer

私が子供の頃は、何もかもが白黒だった。天候も、月面着陸も、アルバムも、警察官も、テレビも、そしてテレビに映る何もかもが白黒で、国会議事堂と人々の肺だけは真っ黒だった。

しかし、道路に目を向けると全く違っていた。そこは虹色だった。フォード・コーティナはオレンジやグリーンで塗られ、近所のヒルマン・ミンクスは真っ赤だった。会社の駐車場はジミ・ヘンドリックスのアルバムよりも鮮やかで、アーサー・デイリーは黄色いジャガー(厳密に言えばデイムラー・ソブリンだが)を乗り回していた。

ところが今や、黄色のジャガーなど誰も購入しない。それどころか、黄色い物を購入する人など、今やどこにもいない。

この変化がいつ起こったのかは分からないのだが、今や誰もがグレーの車を購入している。レンジローバーのオンラインコンフィギュレーターを見てみると、ボディカラーはたくさん用意されているのだが、そのどれも厳密には「色」ではない。カルパチアングレー、ボスポラスグレー、ウインドワードグレー、スカフェルグレー、コリスグレー、バイロンブルー(これもグレーの一種だ)から選ばなければならない。

レンジローバーだけではない。パリもローマも、走っている車はすべてグレーで、それはロンドンも同じだ。ただし、サウジアラビア人がやってくる8月だけは例外だ。

色の付いた車は売るのが難しく、グレーは売りやすい。レモン色には好き嫌いがあるが、グレーなら波風を立てることがない。

家について考えてみてほしい。カーペットを紫にして、壁を緑にして、暖炉に色付きガラスを取り付けることも不可能ではない。窓枠をマゼンタで塗り、煙突をライムグリーンにすることだってできる。しかし、もし家を売りに出すことになったら、買い手の興味は引かないだろう。

これがマツダ6 ツアラー(日本名: アテンザワゴン)の話に繋がる。想像通り、この車にはホワイト、ブラック、グレー、グレー、グレー、グレー、そしてグレーのボディカラーが用意されている。ボディカラーがこれしかなかったら、そもそも試乗してみようとさえ思わなかっただろう。

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こんなのは全長4.8mそこらの他と変わらぬ車でしかなく、そんなものを買うくらいならUberを使ったほうがいいと結論付けるオチが見えている。ところが、マツダ6にはソウルレッドクリスタルというボディカラーが設定されている。これは私が知る中で最高のボディカラーだ。

経験上、私はあまり赤い車が好きではなかった。愛車のレンジローバーはグレーだし、レンジローバーの前に所有していたフォルクスワーゲン・ゴルフGTI もグレーだった。ゴルフGTI の前のガヤルドもグレーだった。赤い車を所有するような人はどこか怪しい。口髭のようなものだ。何かまずいものを隠しているはずだ。

それでも、ソウルレッドクリスタルは私を魅了した。しかも、マツダはメッキの使い方がかなり上手く、おかげで見た目は退屈なステーションワゴンとは一線を画していた。この車には特別感がある。

しかし、車としての実力はどうだろうか。今回試乗したのは最上級グレードの「2.5 GT Sport Nav+」だった。なぜグレード名に「ナビ」なんて入れているのだろうか。確かにナビは装備されているのだが、「5スピード」だの「ラムダセンサー」だのと装備内容をわざわざグレード名に入れるのはボルボくらいだったはずだ。

ともかく、マツダ6にはナビ以外にも大量の装備が付いていた。360度カメラに、運転に疲れたときにコーヒーブレイクを薦めてくるライトに、シートベンチレーターも装備されていた。メルセデス・ベンツ Sクラスに装備されていて、マツダ6に装備されていない物を探すのが難しいほどだ。もっとも、ヘッドルームは例外だが。

車内に乗り込む際にはちょっとした人間折り紙の技術が必要なのだが、乗り込んでしまえば問題はなくなる。むしろかなり快適だ。マツダはエクステリアだけでなくインテリアのデザイン技術も高く、まるで宝石に囲まれているような気分になる。わずか31,695ポンドとは信じられない。コストパフォーマンスは恐ろしいほどに高い。

マツダ6は不運の車だった。店の駐車場に停めているとき、老紳士がマツダ6の後方に特攻してきた。しかも、彼はそれだけで満足せず、もう一度勢いをつけて再び特攻を仕掛けてきた。

これを除いて走りにも問題はなかった。マツダはつい最近になってイギリス仕様車に2.5Lエンジンを追加したのだが、その理由は単純だ。今やディーゼルが消滅しかけており、可能な限りガソリンエンジンの選択肢を用意する必要があった。しかし、あえてこれを設定する必要性はなかったのかもしれない。決して悪いエンジンではないのだが、性能的には2Lモデルと大差ないし、当然燃費は悪くなる。

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非常に合理的なことを書いてしまったのだが、こういう車を運転しているとそんな気分になってしまう。自分が年をとったような感覚になる。マツダ6に乗るとゲートボールクラブに参加したくなる。パイプを買って燃費について心配するようになる。

マツダだけでなく、その競合車であるフォード・モンデオも、フォルクスワーゲン・パサートも、いずれもコストパフォーマンスが良くて退屈な車だ。だからこそ、人々はSUVを選ぶようになった。

ここ10年間でイギリスにおけるSUVの年間販売台数は161,000台から817,000台まで増加している。実に5倍だ。一方で4ドアセダンの市場シェアは1999年の15%からなんと6%(2017年)まで低下している。

しかも、その6%のうちの22.8%がBMWで、17.9%がアウディで、13.4%がジャガーだ。つまり、個人が購入したモンデオの数など数百台のレベルだ。

バッジに価値のないブランドが販売する4ドアセダンなど誰も欲しがらない。それは5ドアのワゴン版だろうと変わらない。たとえ見た目が最高だったとしても、装備内容がどれだけ充実していようと、価格がわずか31,695ポンドだろうと、状況は変わらない。

それでも、ソウルレッドクリスタルを見てしまえば、その魅力に抗えなくなってしまうはずだ。ところが、この色は800ポンドのオプションだ。そこで思いついたことがある。

つい先日、私はアルファ ロメオ GTV6を購入した。ワンオーナーで走行距離も少ない極上車だったのだが、残念なところがひとつだけあった。ボディカラーがレッドだった。色を塗り替えてもらうことはもう決めているのだが、黒やシルバーは選びたくない。そこで私は決意した。やっぱりレッドにしようと。ただしソウルレッドクリスタルだ。

他の皆もこうすればいい。何でも好きな車を購入して、マツダに800ポンド払ってソウルレッドクリスタルに塗ってもらえばいい。優秀ながらも退屈なマツダ6の中で、ソウルレッドクリスタルだけは唯一本当に欲しいと思えるものだからだ。