米国「MOTOR TREND」によるクライスラー 300(2018年モデル)の試乗レポートを日本語で紹介します。


300S

登場から13年、フルモデルチェンジを1回経ただけのクライスラー・300を大型セダンの選択肢のひとつとして検討する人はあまりいないだろう。より野性的で狂気的な兄弟分のダッジ・チャージャーやチャレンジャーのほうがよっぽど目立っている。

クライスラーはダッジとの差別化のため、2015年モデル以降はハイパワーモデルのSRT8を廃止している。300のDNAを調べれば大昔のシュトゥットガルトの血(メルセデスのW210やW220)が根底にあるのだが、この車には古さも、そしてヨーロッパらしさも感じない。

筋肉質で迫力のあるボディ。巨大なタイヤを強調する膨張したホイールアーチ。そして映画のような銃撃戦にも耐えられそうな小さな窓。2011年にフルモデルチェンジしてデザインは新しくなっているのだが、300はいまだ数多のヒップホップのプロモーションビデオで主役を張っている。ドレイクが2016年にリリースした『Keep The Family Close』には歌詞にまで登場している。

クライスラー伝統のギャングスタ・セダンはいつまで生き続けられるのだろうか。噂によると、2021年にクライスラーのLXプラットフォームが廃止されてアルファと共通化され、300はモデル廃止される可能性があるらしい。

rear

これはとても悲しいことだ。チャージャーと合算すると、LXプラットフォームを採用するフルサイズセダンは2016年にはGM製フルサイズセダン(シボレー・インパラおよびビュイック・ラクロス)より17%多く売れている。

3年後の終焉に向けてかは知らないが、2018年モデルの300はラインアップの整理を行っている。グレード構成は「Touring」、「Touring L」、「300S」、「Limited」、そして最上級グレードの「300C」が設定される。新設定されたベースグレードの「Touring」にはファブリックシートや17インチアルミホイールが装備され、従来のベースグレードより3,345ドル安くなっている。

300Cを除く全グレードにV6エンジンが標準搭載され、4WDもオプション設定される。300SのみV6エンジンのスペックが向上しており、V8のHEMIエンジンもオプションで選択できる(2WDのみ)。

最上級グレードの300Cには5.7L V8 HEMIエンジンが搭載され、モカ色のナッパレザーインテリアにオープンポアウッドパネルが組み合わせられる。また、ボディカラーとして新たにグリーンとオーシャンブルーの2色が追加された。

300C

今回の試乗会ではHEMIエンジンを搭載する2台の300に試乗した。まず試乗したのが上級グレードの300Cで、モカレザーのインテリアはかなり高級感があった。価格は42,090ドルからで、フル装備すると51,070ドルとなり、ミドルサイズ高級セダン(A5、5シリーズ、XF、Eクラスなど)の価格帯に足を突っ込んでしまう。

フィット&フィニッシュに関しては十分な競争力を持っているし、全体的な質感も高く、室内空間も広い。なにより、V8の刺激的な加速性能や音は、同価格帯の高級セダンに搭載される2.0Lターボエンジンでは決して味わうことができないものだ。

続いて試乗したのが300Sで、こちらには従来のSRTのパーツも装備されていた。フロントフェイスは専用デザインとなり、リアスポイラーも装備される。Sのサスペンションはやや硬めのセッティング(スプリングレートが上がり、スタビライザーも大型化されている)となっており、ステアリングも専用チューンとなっている。

300Sも300Cと同じ245/45R20のファイアストン FIREHAWK GT オールシーズンタイヤを履いており、石畳の道でも特別酷い振動もなく走ることができた。300Cと比べると硬さは感じるのだが、嫌悪感を感じるほど乗り心地が悪いわけではなく、300Cとの差はそれほど大きくない。なのでコーナリング中のロールもさほど変わらず、このクラスのセダンとしては標準的なレベルだ。

interior

試乗コースにはタイトコーナーもあった。HEMIエンジンによってリアのグリップは簡単に失われるので、スタビリティコントロールの介入がなければかなり楽しめるだろう。スポーツモードだと電子制御の介入は適度に穏やかで、ある程度のスリップは許容してくれる。

ZF製のTorqueFlite 8HP70型8速ATの変速もまた魅力的だった。スポーツモードだとターンイン時にアクセルペダルを緩めても低速ギアを維持してくれるし、急制動時にはしっかりシフトダウンしてくれて、コーナー出口では意図した通りのギアに変速してくれる。

以上のことを踏まえると、大型セダンを検討している人は300という選択肢を無視するべきではないだろう。シボレーのSSはもうない。この価格帯でV8エンジンを求めるなら、ダッジ・チャージャーかクライスラー・300しか選択肢はない。ドレイクが言うところの「まるでベントレーのような車」を選ぶのも良いかもしれない。