Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ヒュンダイ・コナ エレクトリックのレビューです。


Kona Electric

ときに、未来が恐ろしく悲惨で苦痛なもののように感じることがある。パソコンに何か不具合が起きたら、言葉ではなく頭文字を話す人種を相手に電話をしなければならない。

ツールというのはどこにあるんですか?
オプションリストにはないはずです。そもそも、あなたが何のバーの話をしているのか分からないです。リッチテキストなのか、プレーンテキストなのか、HTMLなのか…。私が添付ファイルとして送ったのはwinmail.datで、これは開けないはずですよ。

我々は毎日Wi-Fiルーターをオンにして朝を迎え、会社まで携帯電話を持って出勤する。時々、タイプライターと郵便ポストの時代に戻れたらどれだけ気楽だったかと想像することがある。

左派の人間がTwitterに書き込み、友人が犬の様子をInstagramに上げているのを見ても、やはり同じようなことを思う。そんな窮屈感を、牛乳を買いに近所の店に出掛ける際にも味わわなければならないとしたらどうだろうか。

電気自動車の時代が来ようとしている。それは疑いようもない現実だ。ここ10年間はテスラくらいしか電気自動車を売ってこなかったのだが、今後20年間のうちに主要自動車メーカーがこぞって電気自動車に本格参入する。ありえないと否定することのほうが難しい。これはもはや確定事項だ。

私は先日、電気自動車のヒュンダイ・コナを借りた。名前からして、ポルトガルで売るつもりはないのだろう。しかし、ここイギリスではどうだろうか。コナは検討に値する電気自動車なのだろうか。

まず問題点を述べてしまおう。充電する場所が少なすぎる。ジャガーが電気自動車 I-PACE の発売前に政府に充電網の整備を要求しており、ジャガーは I-PACE の発売までには十分な充電設備が整備されると公言していた。しかしそれは嘘だ。まして、今後さらに多くの人間が電気自動車を買うようになれば、充電網の整備が需要に追いつくはずがない。

ヒュンダイには家庭用コンセントに接続できるソケットなど付いていなかった。ただこれについては驚かなかった。以前に家庭用コンセントで電気自動車を充電した人が火事を起こしている。それに、家庭用コンセントで充電すると満充電まで数週間ほどかかってしまう。

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なので、スーパーの駐車場や高速道路のサービスエリアにある充電器で充電しなければならない。ただ、私はそんなことをする必要はないと思った。ヒュンダイいわく、航続距離は最大480kmらしいので、今回はその半分くらい運転すればいいと考えた。

ところが、電気自動車の航続距離計は異常に大雑把で、ロンドンを少し走ったあとチッピングノートンまで移動すると、航続距離がわずか210kmまで減ってしまった。それでもまだ帰れる距離ではあったのだが、間抜けのせいで高速道路が使えなくなったらどうなるだろうか。これこそ、航続距離不安症候群だ。電気自動車時代に我々が付き合っていかなければならない疾患だ。

危険を冒すつもりはなかったので、6台の充電器が設置されている近場のホテルに立ち寄ることにした。6台のうち1台は壊れており、1台分のスペースはベントレー・ベンテイガに占拠されていた。

それでも空いていたスペースで充電できたので、その間にランチをとることにした。1時間のランチを終えて帰ってくると、しっかり満充電されたかと思いきや、航続距離は27kmしか増えておらず、結局運転できなくなるまで飲むことにした。

なんとか家まで代わりに運転してくれる人を探し、充電器のあるスーパーに寄ってもらった。彼が充電を開始しようとすると、充電のためにはアプリをダウンロードする必要があると表示され、親切にも彼は自分でアプリをダウンロードして充電を始めた。その結果、彼が充電料金を払うことになってしまった。

困ったことに、充電を終えるとケーブルが抜けなくなってしまった。浮浪者がいたずらで抜かないようにロックされているようだ。ロックの解除はアプリ上で行うのだが、アプリがまともに作動しなかった。緊急連絡先に電話をかけると、メンテナンスチームが到着するまで待ってほしいと返答があった。ところが、メンテナンスチームは週末は休みなので、翌日になるまで来ることはなかった。

これは決して特殊な例ではない。記者のイザベル・ハードマンは沿線の充電器が全て使えなかったためイベントに遅刻してしまった。ジェームズ・メイは昨晩、愛車のBMW i3で帰宅したのだが、今日は出社していない。

結局のところ、現時点ではまだ電気自動車を購入するべきではない。そもそも、4,500ポンドの補助金(11月以降は3,500ポンドに削減される)を考慮してもまだ高いし、目的地に確実に辿り着くことはできない。電気自動車ファンは日産・リーフが800kmという航続距離を達成したことを奇跡のように讃えている。しかし、普通の車ならロンドンからオスロまでの1,600kmを1日で移動できてしまう。

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将来、急速充電器がガソリンスタンドと同じくらい普及し、かつ信頼性も向上し、数時間ではなく数分で充電できるようになったら、電気自動車に移行するべきだろう。しかし、今の時点で電気自動車を購入するのは狂気の沙汰でしかない。

コナが魅力的な小型車だっただけに、残念でならない。40.2kgf·mという大トルクは使い切れないほどに莫大で、アクセルを踏み込むたびに1980年代のサーブターボのごときトルクステアが生じた。非常に元気な車だ。

それに、コナはかなり速い。0-100km/h加速や最高速度は驚くほどの数字ではないのだが、加速の勢いは驚異的だ。60km/hで走っていたかと思えば、次の瞬間には600km/hになっている。

見た目も良いし、電気を可能な限り節約しなければならないはずの電気自動車の割には装備も充実している。試乗車にはステアリングヒーターまで装備されていた。これを使うとかなり長いランチを楽しむことができる。

ただし、静粛性は高くない。高速道路における車の騒音の85%はタイヤノイズだ。しかも電気自動車の場合、バッテリーによる重量増を相殺するために遮音材が省略されており、ロードノイズがかなり目立つ。

ただ、コナに関しては悲惨なほどうるさいわけではない。むしろ私はこの車をかなり気に入った。実用的だし、持て余すほどにパワフルだし、室内空間も広いし、質感も高いし、装備も充実しているし、見た目もスタイリッシュだ。それに、ロンドン中心部を走っても無能なサディク・カーンにお布施を支払う必要はない。

コナは未来へと走り続けられる車だ。ただ残念なことに、イギリスはまだ歩き方すらも知らない。なので、他の電気自動車同様、現時点ではまったくもって使い物にならない。